ナガサキ間者合戦 2

「それもそうですねぇ」
 ハーレムと高松ははっはっはっと笑った。
「んじゃ、これいつもの」
 ハーレムが紙袋を渡した。
「はいはいわかりました。お代はつけといてください」
 そう言って高松が払ったためしはないのだが。
「ちゃんと払えよ。じゃあな」

「あの二人――誰がアホコンビだべ」
 ミヤギが言った。
「だっちゃ」
 トットリも頷く。二人はこの頃永崎の町を張っていたのである。そして、ハーレムが高松に何かを渡したところを目撃した、という訳である。
「――でも、いつもの、って、何だべなぁ」
「ミヤギ君も気になるんだらぁか?」
「当たり前だべ! オラ達にはこの町を守るという義務があるべ!」
「ミヤギ君……」
「それに、前々からあいつ――ハーレムは怪しいと思ってたべ」
「だっちゃ」
「さぁ、引き続き諜謀活動を続けるべ」
「だわいな。ミヤギ君!」
 ミヤギとトットリの二人は永崎の町に溶け込んだ。

「パプワー。昼飯できたぞー」
「うむ」
 パプワが十歳児とは思えない貫録で頷いた。
「お兄ちゃんの料理美味しいもんね」
 コタローの台詞にシンタローの鼻血がダラダラ。
「可愛いなぁ。コタローは」
「あのう……シンタローさん。俺の分は?」
 リキッドがおずおずと言う。
「あーん? 自分で作れよ」
「そうだよ。家政夫は自分で作れるでしょう!」
「働かざる者食うべからずだぞー!」
 シンタロー、コタロー、パプワの三段攻撃である。
「うう……まぁ、確かに俺も自分で作れるしな」
 リキッドはトントントンと包丁を動かす。
「パプワくん」
 笑顔のコタロー。楽しそうだと、シンタローは安心した。
「僕、パプワくんと会って良かったよ。毎日が楽しいもん」
「僕も楽しいぞー」
「パプワくん! 僕達ズッ友だからね!」
「はっはっはっ。当然当然」
 コタロー、よく笑うようになったな――シンタローは安心した。リキッドもそう思っていることだろう。
 因みにリキッドはパプワの家に住んでいる家政夫である。シンタローより料理の腕は劣るし、掃除の小技は覚えないし、なかなか厄介な男なのだが。
「おう、リキッド」
 ハーレムがやって来た。
「何スか。隊長。またたかりに来たんすか?」
 リキッドとハーレムは特戦部隊という愚連隊時代の仲間である。もう特戦部隊はなくなってしまったが。
 それからハーレムは船問屋として一代で財を築いた。彼を狙っている女性は多い。
「リキッド、それじゃ俺がいつもたかりに来ているようじゃねぇか。人聞きの悪い」
「だって、そうじゃないすか」
「――まぁいい。サービスが帰って来たぞ。ジャンの野郎と一緒にだ」
 ハーレムはあぐらをかく。居座るつもりらしい。シンタローは笑顔になった。
「ああ。サービス叔父さんが帰ってきたことは俺が言っといたから」
「良かったね。サービス叔父さん、無事で」
「うむ」
「それから――サービスはある目的の為に永崎に帰って来た」
「へぇ……それは知らなかった」
 シンタローが目を瞠った。
「詳しいことは言えねぇがな――狼国に関係している」
「壬生か――」
 シンタローが考え込む。そこにはもう、コタローに鼻血を垂らしていた兄としては少々問題のある男の姿はない。永崎藩の次期藩主の姿だった。
「まぁ、ドンパチやるなら俺も手伝うぜ」
「うーん……ハーレム叔父さんが味方につけば心強くもあるけどなぁ……厄介事も持ち込むからなぁ」
「何ブツブツ言ってんだ。シンタロー。おう、リキッド。飯作れ」
「もう作ってますよ」
 諦めたようにリキッドが言った。リキッドは特戦部隊を抜けた今でもハーレムに頭が上がらない。
 ――面々はまた食事に戻った。

「――いつもの?」
 永崎藩主のマジックが眉間に皺を寄せながらミヤギとトットリの報告を訊いていた。
「はっ。確かにそう言ってハーレム様が高松に何か紙袋を渡しておりましたべ」
 ミヤギは一生懸命鈍りを消そうとしているが、成功していない。
「あいつらのことだ。よからぬことを企んでいても不思議ではないな」
「だべ?」
「よし、ハーレムに事情聴取してみよう」
「俺ならもう来てるぜ」
 ハーレムが腕を組みながら壁に寄り掛かっていた。
「ハーレム。どこへ行っていた」
 と、兄マジック。
「パプワのところで飯食ってきた」
「またたかりに行ったのか。仕様がないね。お前は」
「うちの家計が一食分浮くだろ?」
「うちはそんなに貧乏ではないよ。――何しに来た」
「一応俺にかけられた疑いを晴らそうと思ってね」
 ハーレムがにやっと笑った。
「高松に渡したもの――あれは飴玉だ」
「はぁ?」
「清(中国)製の飴だぞ。高松はあれが大好きなんだ。俺にとっては旨いかどうかわからんがな」
「飴~?!」
 ミヤギとトットリが呆けたように声を合わせる。
「ああ。あの飴か。私も大好きだよ。後で一袋持ってきなさい」
「はいはい、じゃ、俺は帰る」
 ハーレムは出て行った。
「私は優秀な間者を持ったものだよ」
 マジックははぁ~っと溜息を吐いた。勿論これはあてこすりである。
「――すまんだっちゃ。ハーレム様にあらぬ疑いをかけて」
「いや、いいんだよ。私も一瞬疑ったからな。ミヤギ、トットリ。今は平和だが、これから先何があるかわからない。また間者として働いてもらうぞ」
「……マジック様……オラ達、今度こそクビかと内心ビクビクしてたべ」
 ミヤギとトットリは安堵の吐息を洩らした。

後書き
こんにちは。またなんちゃって時代劇です。
今度も架空の藩、永崎が舞台です。
清製の飴かぁ……アヘンとか混ざってないよな。
まぁ、ちゃんとしたただの飴という設定ではありますが。
読んでくださった皆様、ありがとうございます。
2017.11.22

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