ふぞろいのクッキーたち

「~♪」
 セリザワが鼻歌を歌っている。
「タカシちゃん何してんの~?」
 ロッドがいつものように後ろからセリザワを抱き締めた。
「おわっ!」
 セリザワがつい大声を上げた。
「俺のことはセリザワって呼べって言っただろ! ロッド!」
「あー、まぁねぇ……細かいことはいいじゃねぇの、セリザワちゃん」
「ちゃん付けで呼ぶな!」
「はいはい。あれ……この焦げ臭いにおいは……」
「――ハーレム隊長にクッキー差し上げようと思って」
「じゃないだろッ! 台所出禁にされたの忘れたの? タカシちゃん――いや、セリザワ」
 ロッドの声が一段と低くなる。セリザワはそれどころではなかった。
「あーっ。クッキー焦げちゃうっ!」
「待てよ、セリザワちゃん! クッキーどころか食堂が――!」
 ドカーン、と爆発した。

 セリザワとロッドは始末書を書かされた。
「何で俺まで……」
「俺の邪魔した罰だよ」
「台所壊したのセリザワちゃんよ。今年に入ってから何度目だと思ってんの」
「……う~っ」
「大体GもGだよなぁ。セリザワちゃんを台所に入れるなんて……」
「Gは……協力的だし……」
「後片付け命じられる方のことも考えてんのかね、あの人」
「何で失敗ばかりするんだろう。俺……隊長の笑って喜ぶ顔が見たいだけなのに……」
「それ、はっきり言って迷惑」
「なんだよぉ。同僚が困ってるんだから少しは労えっ!」
「俺らだって迷惑してんのよぉ、セリザワちゃん。Gは始末書かされなかった代わりに台所の大掃除だし」
「う~っ」
「ま、これに懲りて料理なんかに手を出さないことだね。ほら、俺がほっぺた落ちるようなポロネーゼ作ってやるからさ」
「……ま、今日はロッドのポロネーゼに免じて許してやるよ。台所にも近づかないさ。二度と」
「ああ、それがいいそれがいい」
 ――それが数日前のこと。

「はーい、隊長、報告書だよん」
 ロッドが出した紙切れを見ながらハーレムがわなわなと震え出す。ハーレム。この飛行船の船長。特戦部隊を率いてガンマ団本部のアシストをしている。
「ロッド……」
「は~い」
「何だ、その間の抜けた声は」
「返事ぐらいしてあげようと思って」
「……お前はふざけてんのか?」
「わかります?」
「――お前と話していると頭がおかしくなってくる」
「心配しなくても。充分おかしな頭ですから」
「――俺の髪型のことを言ってるんじゃねぇだろうな……」
「髪型もですけど、中身の方も少々……」
「ロッドーーーーーーー!」
「げっ! セリザワちゃん」
「セリザワ……入って来る時はノックしろと言ったろ」
 流石にハーレムは動じない。
「ロッド! さっき隊長に悪口言ったな! 言ったな!」
「何だよ、セリザワちゃん、ほんの軽口でさぁ……」
「軽口でも、隊長を馬鹿にするヤツは俺が許さん!」
「はは……セリザワよか、ロッドの方がよっぽど質がいい」
「隊長……俺の気持ちわかってくれたんスか?」
 ロッドがハーレムに抱き着こうとする。ハーレムはするりと逃げた。
「お前の方が扱いやすいと言うことだ」
「そんな~」
「『ロッドは隊長にとっては扱いやすい』――と」
 セリザワはメモを取る。
「あんまりこんな騒ぎばっかり起こしてると、またアラスカに飛ばすぞセリザワ! 今度は脅しじゃないからな!」
「はい……」
 セリザワが悄然としている。ロッドが言った。
「隊長! セリザワちゃんをアラスカに飛ばすなら俺も一緒に行かせてください!」
「ロッド……」
 セリザワが涙声で同僚の名を呼んだ。
「だーって、アラスカ支部なら給料ちゃんともらえるんでしょ。俺、給料日には十円玉以外のコインも見たいっスよ」
 ロッドの言葉にハーレムが噴火した。
「お前ら、永久にただ働きだーっ!」

「るん♪」
「――楽しそうね、セリザワちゃん」
 ロッドはげっそり。
「だって、隊長のそばにいられるんだもん。ただ働きでもいいんだ♪」
「こっちが苦労を背負う身よ?」
「え? 俺と隊長以外のヤツらがどうなろうと俺知ったこっちゃないもん」
「お気楽ねー、アンタは」
「ま、この飛行船の台所には近づかないから」
「わかってくれたのね……やっと……」

 ガンマ団本部、特戦部隊の詰所――。
「明日は空の上っスね」
「しくじるんじゃねーぞ。お前ら。特にロッド!」
「もち」
 コンコンコン。――ノックの音が。
「入れ」
「セリザワです。あの……俺、隊長にクッキー作って来ました」
「あぁ? おめー台所出禁にされたの忘れたのか?」
「ですから! 飛行船の台所ではなく、本部の台所を使って作って来ました。マジック総帥に教えてもらって」
「兄貴を使うとは――考えたな」
 ハーレムの兄、マジックは人に命令されるのは嫌いだが、人に物を教えるのは上手である。褒めたりなだめすかしたり、時に厳しく。ハーレムはそんな長兄マジックの教育を受けたことがあるからわかるのである。
「今回は……台所爆発しませんでした。良かったらこれ、食べてください」
 セリザワが綺麗にラッピングされたクッキーを差し出した。ふぞろいののクッキーたち。それがセリザワの愛を現しているように見えた。
「――もらおう」
 ハーレムがクッキー一枚、手に取ってぱくっと食べた。
「――あま……でも、旨い。よく頑張ったな」
「ほんとですか? じゃあ……」
「このクッキーは、いただこう」
 セリザワは天にも昇るような心地、という表情をして天を見上げてうっとりしている。ロッド達は、今日は当分、ハーレムはトイレに籠城する羽目になるな、と苦笑いをした。

後書き
オリキャラのセリザワが主人公の話です。
あと私、ロッドも好きなんだなぁ。
その後のハーレムについては、気の毒な……としか言いようがありません……。

2019.02.10

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