この少女は誰?

 シンタローとグンマは、廊下のひらけた場所にある椅子に座っているキンタローの後姿を認めた。
「あれ、キンタローじゃねぇ」
「本当だ」
 キンタローは、何かを眺めているようだ。
「何見ているんだろう」
 いとこ同士の気安さ、グンマは駆けて行って、キンタローの肩を叩いた。
「キーンちゃん」
「わあっ!」
 キンタローは、さっきまで眺めていたものを慌てて後ろに隠す。
「キンちゃん。いったい、何隠してるの?」
「い、いや。なんでもない」
 表情を滅多に動かすことのしないキンタローが、珍しく慌てている。
「なーんか怪しいなぁ」
 シンタローが人の悪い笑みを浮かべる。
「ヒミツのニオイがするね。シンちゃん」
 グンマとシンタローは顔を見合わせてにっこり笑う。そして、キンタローににじり寄った。
「悪く思うなよ。キンタロー」
「――……って、おい、やめろッ! おまえらッ!――わあッ!」

――数分後。
「はーっはっはっ! ついに取ったぞ!」
「――ちくしょう。ニセ者め!」
「よしよし。気の毒だったね。キンちゃん。僕もよくシンちゃんにやられたんだ」
 首謀者の一人が、いけしゃあしゃあと悔しげなキンタローを慰めている。
「どれどれ。おっ。結構可愛いじゃん」
 シンタローが手にしたのは、写真であった。
 金色の髪をポニーテールにして、そのてっぺんでリボンを結んでいる気の強そうなセーラー服の少女の写真である。中学生くらいだろうか。目が大きく、笑顔ではないが、なんともいえない愛嬌があった。
「ホントだー。かわいいー。ねぇ、キンちゃん、これ、誰?」
 グンマの声が弾む。
「知らん」
 キンタローがむっつりと答える。
「昨日高松と親父の部屋を掃除してたら、写真箱からこれが出てきた」
「ドクターと?」
「ああ。鼻血を出してばかりいたので大変だった。掃除そのものより、そっちの後始末の方に時間がかかったくらいだ」
 グンマとシンタローは、顔を引き攣らせながら、「は、は……」と笑った。そのときの状況が目に見えるようだ。キンタローも災難である。
「で? キンちゃんはどうしてこれを持っているの?」
 グンマが訊く。
「ああ、手掛りになると思ってな」
「手掛り?」
「この子を探す手掛りだ」
「探してどうするの?」
「どうするって――一度でいいから話がしたい」
 そう言ってキンタローは微かに顔を赤らめた。
 これはひょっとしてひょっとすると――
(恋だな)
(恋だね)
 囁き交わしたシンタローとグンマがにんまり笑った。
 キンタローにも春が来た。
 シンタロー達の心に、むくむくと、親切心、というより、おせっかい心が湧き起こった。
「ようし。じゃあ、百戦錬磨のこの俺に任せなさい」
「100人に告白したことあるんだもんね。シンちゃんは」
 次の瞬間、グンマは壁にめり込んだ。下手なツッコミは災難を呼ぶという、体を張った教訓――閑話休題。
「とにかく、恋愛の達人の俺が協力してやる。まずは写真の女の子から見つけてやるから、待ってろ、キン」
「僕も行く~」

「とは言ったものの……」
 ぽくぽくと歩きながらシンタローは考え込む。
「手掛りと言っても、写真だけじゃなぁ」
 大見得切った割には、頼りなげだ。
「聞き込みしてみようよ」と、グンマ。
「そうだな。でも、これ、どこの制服だろ」
「その写真って、お父様――じゃなくって、ルーザー叔父様の部屋から出てきたんでしょ? だったら、まずその辺りから捜してみたら?」
 こういうことになると、グンマはよく頭が働く。
「でも……ルーザー叔父さんの知り合いだとすると――もうこの人結構なトシじゃねぇ? この写真もだいぶ古いみてぇだし」
「うーん……でも、その人に似た娘さんとかもいるかもしれないよ」
「だな。まずとにかく当たってみるか」

証人1:高松
「尋ね人、ですか?」
「ああ、この子なんだが……」
 シンタローはポケットから写真を取り出し、高松に差し出す。
 実験中の高松は、それを人に邪魔されたり、中断されたりすると、機嫌が悪くなるのが常である。
 事実、高松の城であるこの実験室に何の断りもなく入ってきた二人は、部屋の主に、「誰ですかぁ?」とふてくされた声で誰何された。だが、入ってきた二人の中に、グンマがいるのを見てとると、高松はたちまち相好を崩した。
「うーん……存じませんねぇ……なんかどこかで見たことがあるような気がするけど……」
「なんだよ。忘れたのか? もしかしてもうボケが始まっているんじゃねぇの? ドクター」
 シンタローが憎まれ口を叩く。
「失礼な。いくら奇跡の記憶力の持ち主の私でも、数十年前のことなら、ど忘れすることぐらいあります」
「へぇ~。僕はてっきり高松の飼ってるカビが脳に入って、記憶喪失起こしたのかと思っちゃった」
「はっはっはっ。イヤですねぇ。グンマ様。そんなことあるわけないじゃないですか」
 言っていることは同じくらい酷い――いや、グンマの方が辛辣だと思われるのに、高松はシンタローの台詞には気分を害した様子を見せたが、グンマには笑顔で応じている。
(なんだかなぁ……)
「でもさ、高松ぅ、この写真はルーザー叔父様の部屋から出てきたんだよ? この人って、叔父様の関係者だったんじゃない? 叔父様の関係者を高松が忘れるなんて、考えられないんだよね」
「それはもちろん。この高松、ルーザー様の関係者なら通行人に至るまで覚えております。関係者のリストもあります。ほら、これがそうです」
 どこから出してきたのか、高松は人の名前がずらりと並んだ長い巻物を広げた。
「うわっ、すっげぇ」
「よく調べたねぇ」
 しかし、一人の人間にここまで入れあげる高松の熱情には、なんだか怖いものがあった。
「……もしかして、こんなものいつも持ち歩いているのか? ドクター」
「当然です! これでいつでもルーザー様と心はひとつ~!!」
 シンタローの問いに、涙と鼻血を流さんばかりの高松であった。
「ねぇ、高松。この赤い文字は何? なんだか血みたいだけど……」
「ああ、これですか? これはですねぇ、今までルーザー様に関係したです」
「はぁ……」
 高松は、藁人形に五寸釘を打ったり、丑の刻参りをしたりして、この女性達に呪いをかけていたんじゃなかろうか。シンタローがその疑問を口にすると、
「おや、よくわかりましたねぇ」
という答えが返ってきた。
「科学者がんなことするな!」
 しかし、ルーザーが幸せな結婚をしたところを見ると、呪いも役に立たないようである。しかし、恐ろしいには違いなかった。
「そうだ。この少女って、ルーザー叔父さんの元カノってことはねぇ?」
「それはないですね。それだったら、私が知らないはずはないですし。第一この子、ルーザー様の好みのタイプじゃないですしね」
「でも、いくら高松だって、情報漏れってことぐらいあるんじゃないの?」
 今度はグンマだ。
「それは……私が会う前のことだったら……でも、そこら辺のところも、かなりフォローしてあるつもりなんですがねぇ……」
「ふぅん」
「とにかく、ドクターは知らないってことだな」
「ええ。残念ながら」
 シンタローの言葉に、高松は頷く。
「そうか。邪魔したな」
「じゃあねぇ。高松」
 二人は出て行こうとする。
「ああ、そうそう。その人の正体がわかったら、私にも教えてください」
「なんで?」
「決まってるでしょう。ルーザー様の重大かもしれない関係者のことを掴み損ねたとあっては、一生の不覚~!!」
「ルーザー叔父様にとって重要だったかはわからないよ。キンちゃんにとっては、そうなるかもしれないけど」
「何ッ! キンタロー様にとってッ?!」
「余計なこと言うんじゃねぇよ。グンマ。ほら、行くぞ」
「待ってよ、シンちゃん。引っ張らないでよ」
 建て付けのわるい扉が、ぴしゃんと閉まった。

「手掛りはなかったね」
「次行こーぜ、次」

証人2:ハーレム
「聞きたいことがある?」
 今は仕事のない特戦部隊の隊長が、うろんげに聞き返す。
「そう。ハーレム叔父さん。この子知らない?」
 シンタローから写真を見せられたとき、ハーレムは驚愕の表情になった。
「おまえら、それをどこから見つけた!」
 ハーレムは手を伸ばして、掴みかかるようにそれを取ろうとした。
「おっと」
 シンタローは写真を高く上げてひらりと避けた。
「ルーザー叔父様の部屋から出てきたんだよ」
 グンマが口を挟む。
「そ、そうか。おまえらそれをさっさと寄越せ」
 ハーレムが歯を剥き出しにしながら言う。
「俺達の話に答える方が先だぜ、叔父さん。いったい、この写真の少女は誰だ」
 シンタローの言葉に、ハーレムは、はっとしたようだった。そして、顔を背けた。
「知らん! そんな奴は知らん!」
「ウソだっ!!」
 グンマが引き下がるまいとする。
「うるせぇっ! 知らんもんは知らん! おまえらさっさと出て行け!」
 シンタローとグンマはちらと目と目を見交わす。
(こいつは手強そうだな)
(後回しにしよう)
 二人は「お邪魔しました」と言い置いて、早々に出て行った。

「次は、サービス叔父さんのところに行ってみるか?」
「そうだね」
「よぉっ。グンマ、シンタロー」
 二人は後ろから肩を叩かれた。
 振り向くと、破顔一笑のジャンがいた。この男はたいていにへらにへらと笑っている。

証人(?)3:ジャン
「チンじゃなー、訊いてもしょーがねぇしなぁ――」
「うーん」
「あ、なんだよ。気になるなぁ、その態度。訊いてもしょうがないなんて、どうしてわかるんだよ。俺にも教えてくれよ。ほら、なんかわかることあるかもしれないし」
「どうする?」
「しゃあない、一応訊いてみるか――この子、知ってる?」
 シンタローは写真を出して、本日お馴染みとなった質問を発した。
「うーん――知らない!」
 ジャンは、小学校の先生から、『とっても元気がいいですね』と褒めてもらえそうな花丸の笑顔で答えた。
「やっぱり無駄だったか」
「行こう」
「待ってくれよ。その子誰だかわかったら、俺にも紹介してくれる? ねぇ、聞いてる? おーい……」

証人4:サービス
「なんだい? 私に話って」
 ソファで新聞を読んでいたサービスが顔を上げた。
 サービスの部屋は、豪奢さと簡素さのバランスの程良くとれた、趣味のいい部屋だ。そこで新聞を優雅に読んでいるサービスは、さながら一幅の絵のようだ。
「お願いします! 叔父さん! もう叔父さんだけが頼みの綱なんです」
「シンちゃん、何もそこまで……」
「そんなことを言われても、用件を聞かなければ、答えようがない」
「ああ、そうだった。叔父さん、この子、知らない?」
 シンタローが出した写真の少女を目にしたとき、サービスは目を瞠った。彼にしては珍しく、はっきりとその表情を動かしたのだ。
「こんなものが……まだ残っていたのか」
「ルーザー叔父様の部屋から出てきたんだよ。サービス叔父様」
「そう。で、キンタローがこの子を気に入っちまったらしくってさぁ……ねぇ、叔父さん、この子知らない? ……叔父さん?」
 サービスは手で顔を隠していた。
「その人はその人はだなぁ……」
 くぐもった声だった。
「……すまん。悪いが一人にしてくれないか。落ち着いたら話すから。全て話すから――」
 そう言われ、追いやられたとき、シンタローはサービスの目元に光るものを見つけた。

 グンマとシンタローは、なんとなくしんみりしながら廊下を歩いていた。
「……叔父さん、泣いてたな」
 シンタローが言った。
「泣いてた?! ホントに?!」
「ああ。一瞬、目元にきらりと光るものを見たんだ。あれは……涙だったんじゃないかな」
「そう……」
 二人とも、なんとはなしに黙り込んでしまった。
 しばらくして後、グンマがぽつりと呟いた。
「悪いことしちゃったかな。僕達」
「なんでだよ。キンタローの為にやったことだろ」
「でも僕達、単に面白がっているだけだったよ」
「……そうだな……」
 また、沈黙。
 それを再び破ったのはグンマだった。
「どうする? もう止める?」
「馬鹿野郎! ここまで来て止められるかよ!」
「そうだね……」
「俺、あの少女には秘密があると思うんだ」
「秘密?」
「例えば――ずっと前に死んでしまったとか。そうか! そうだよ!」
「え? なに? なに?」
「つまり、あの少女は死んでしまってたんだ。つまりこうだ。あの少女はもともとルーザー叔父さんの知り合いで、サービス叔父さん達に紹介された。或いは最初から共通の友人だったのかもしれない。少女はサービス叔父さんと仲良くなって恋をする。でも、少女は、何らかの原因で死んでしまう。サービス叔父さんは嘆き悲しむ。すると、ブラコンのハーレム叔父さんは、サービス叔父さんを悲しませる奴は許さない、とそのコの写真すら見たくないような気持ちになって――」
「ま、待って待って、シンちゃん。それを事実かどうか判断するには、データが少な過ぎるよ。曇りのない目で物事を見るには、すぐに結論に飛びつかない方がいいんじゃないかなぁ」
「そりゃ、ま、そうだ。俺はそういう可能性もあるんじゃないかって言いたかったんだ。でも、ハーレム叔父さんとサービス叔父さんのあの態度。あの少女にはきっと何かあるんだ」
「うん。僕もそう思う」
 歩みを止めていた二人は、また足を進めた。
「あ、親父だ」
「お父さん……」
 曲がり角からマジックが姿を現した。

証人5:マジック
「そうだ。どうしてお父様のことを思い出さなかったんだろう」
「親父? 頼りになると思うか?」
 シンタローのマジックに関するイメージは、赤いブレザーの上から、フリフリのエプロンをつけて、カレーを作っているあの姿である。シリアスに総帥業をしている姿を知っているにしても――である。
「お父様だったら、なんでもよく知っているよ」
 グンマはマジックには、高松に対するのとはまた違った意味で敬意を払っているようだ。高松といい、親父といい、グンマが尊敬する奴には、変なのが多い、と思っていた。偉大な科学者だったというルーザー叔父にそうするのはわかるが。
「やぁ、グンちゃん、シンちゃん」
 マジックは、グンマには鷹揚な態度で、シンタローに対しては、殆どバカとしか言い様のない笑顔で挨拶した。
「シンちゃん。訊かないの?」
 グンマにうながされて、シンタローは仕方なく写真を取り出した。
「親父、このコ知ってる?」
「どれどれ……ああ、これはね――」
 マジックの後ろから、いつの間に現れたのか、ハーレムが猛スピードで走ってくる。
「ずっと昔、双子が中学生に上がるときに――もがっ」
 ハーレムがマジックの後ろから両手で口を塞ぐ。
「兄貴! 余計なこと言うんじゃねぇ!」
「叔父さん、どういうことなんだよ」
 シンタローが叫ぶ。
「いいから、もうこのことに首を突っ込むんじゃねぇよ!」
「そんなわけにはいかないよ。僕達、キンちゃんのキューピッドなんだから」
「キューピッドだぁ?」
 グンマの言葉に、ハーレムはうろんげに訊き返す。
「そうだよ――たとえどんな辛いことが待っていようとも、僕達逃げるつもりはないんだ」
「はぁ? 何訳わかんねぇこと言ってんだよ」
「ふんはん、はひははんひはひひへひふほうはへ」
「兄貴は黙ってろよ!」
「ははへー!!」
「兄さんに代わって、私が説明してやろう。――ハーレムは言いそうにないしな」
 黒いコートに包まれた、すらりとしたサービスの立ち姿が、シンタロー達の背後にあった。
「サービス叔父さん! いつの間に!」
「つまり、写真の少女は女の子ではない」
「え?!」
「サービス! 馬鹿ッ!!」
というハーレムの声が飛んだ。
「その『少女』は、今マジック兄さんの口を塞いでいる男だ」
「え……?」
「――てことは……」
 シンタローとグンマは一斉にハーレムを見る。
「えーーーーーーーーーーーーーーーーッ?!」
 彼らは、驚きの声を上げた。
 ナマハゲになってしまったこの中年男性が、あの気の強そうだが可憐で可愛かった少女――何かががらがらと崩れ落ちる音が、二人には聞こえたような気がした。
「まさかあの子がハーレム叔父さんだったなんてね」
「ああ。夢も希望もなくなりそうな事実だったな」
「或る意味何より辛い幕切れかもね」
 グンマとシンタローは、溜め息交じりに会話する。
「何だとー! 悪かったなおまえらー!!」
 ハーレムは怒鳴ったが、マジックを口止めするのはもう無駄と知って、その手を離した。
「グンマ様、シンタロー様」
 高松がジャンを従えて駆け寄ってきた。
「皆さんもお揃いで。二人とも、あまりにおぞましい事実だから、脳が認めるのを拒否したんですが、あれはやっぱりハーレムですよ」
「知ってる。サービス叔父さんから聞いたよ」
 遠い目でシンタローが言った。
「でも、なんであんな写真が? 俺、ハーレムに女装の趣味があるなんて知らなかったよ」
 ジャンがあっけらかんと言う。
「あるわけねぇだろ! そんなもの!」
 ハーレムの怒声が飛ぶ。
「つまりだね、我が一族には中学に上がる前に、日本人の女学生のセーラー服を着て、写真を撮る、という慣習がある」
 マジックが得意げに説明する。
「ああ、あったな。そんな変なしきたり」
 シンタローはげんなりしながら思い返す。
「でも、なんでセーラー服なんだ?」
と、ジャンが当然の疑問を発する。
「それは、うつろいやすい時分の花を最も美しい姿で永遠に留めておこうという試みなのだよ。私達は、美を愛する種族だからね」
「うつろいやすい……?」
 マジックの言葉に、ジャンはハーレムの方に目を向けた。
「はぁ、確かに」
 ジャンはそのことについては、深く納得したようだった。
「でも、それだったら、なにもセーラー服でなくてもいいんじゃない?」
 尤もなジャンの台詞に、マジックが詰まる。
「そうだ、そうだよ。おまえ、初めてまともなこと言ったじゃねぇか。俺もずっと、そう思ってたんだ」
「初めては余計だ!」
 ハーレムの一物ある褒め言葉に、ジャンは少しむっとした。
「わかってない!」
 マジックは唾を飛ばしながら叫んだ。
「おまえ達は何にもわかっていない! セーラー服は十代前半の子供を最も輝かせる服なのだ。男であれ、女であれ。特に、プリーツスカートの下から見える白い肉付きの良い足は、それはもう眩しいくらいだ。また、男子に女学生セーラー服を着せるのに訳があって――」
「わかってないのはてめぇだ! 変態親父!」
「シンちゃんは、セーラー服の良さを理解してはくれないんだね――」
 マジックはいささか傷ついたようだった。が、
「シンちゃんのあのときの写真も、大事にとってあるよ」
 そう言ってにぱっと笑った。立ち直りが早過ぎだった。
「私もグンマ様の写真は焼き増しして一冊コレクションにしましたよ」
 高松が言う。
「私なんてシンちゃんの写真を額縁に入れて飾ってあるもんねー」
「なんですか。そのぐらい。私は毎晩枕もとに入れて寝てますよ。夢で遭えるように」
「ふん。私なんてだな――」
 早速始まった変態の自慢合戦を尻目に、シンタローは、サービスに尋ねた。
「叔父さん。なんであのとき泣いたんですか?」
「泣いた? 私が?」
「だって、俺、部屋から出るとき、叔父さんの涙を見たような気がしたから――」
「そうかい。自分では気がつかなかったが――そりゃきっと、泣くほどおかしかったんだろうな」
「じゃあ、俺達に席を外させたのは――」
「大笑いして、顔が崩れるところを見せたくなかったからな」
「さいで……」
 しかし――
 シンタローは写真を眺め回した。端に少々破れ目のある、色褪せた写真である。こうして見ると、硬質の髪といい、きりりと吊り上がった黒眉毛といい、ハーレムの面影がありありと示されていた。
「キンタローにどう説明すりゃいいんだ? こりゃあ」

 数時間後――
「キンタロー。写真の『少女』だ。思う存分話して来い!」
 シンタローに背中を押された先には、ハーレムがいた。
「ハーレム叔父貴、何故――」
 混乱するキンタローに、グンマが駆け寄った。
「あのね、キンちゃん。あの写真はハーレム叔父様が昔、女装して撮ったものなの」
 それを聞くや、キンタローはがっくりと肩を落とした。
「がっかりするんじゃねー!!」
とハーレムに怒鳴られながら。
 こうして、キンタローの初恋は、儚く散った。
 ちょっと喜劇で、かなり悲劇な物語。

おまけその1
「ハーレム。見合い写真を持ってきたんだが」
 マジックがどさどさと写真の山をハーレムの目の前に積み上げる。
「げっ! なんだよ、こりゃあ。兄貴、俺の結婚の話は諦めたんじゃなかったのかよ!」
「いやぁ。一族の繁栄と、キンちゃんの将来の為にね。面食いのおまえの為に、特別キレイな娘を選んできたよ」
「待てよ。一族の繁栄ってのはわかるが、キンタローの将来ってのはなんだ?」
 マジックの隣に控えていたキンタローが口を開いた。
「叔父貴が結婚したら、可愛い娘が産まれるかもしれん」
「――おまえも諦めが悪いな。娘が育つまで待つつもりか? 今からでも、十五、六年はかかるぞ」
「大丈夫だ。俺は気が長い。なんせ、外に出るまで二十四年間待ったんだからな――だが叔父貴。これだけは言っておく」
「――なんだ?」
「結婚の話、真剣に考えてくれなかったら、俺は夜、叔父貴の枕もとに立つ
 髪を短く切り揃えたキンタローは、ハーレムの苦手とする、死んだルーザーと瓜二つの容貌になっていた。
 途端に、ハーレムの顔は蒼白になった。
「それだけは止めてくれ~~~~!!!!」
――ハーレムの受難は続く。

おまけその2
「一族のしきたりっていうぐらいだから、総帥もルーザー様も、セーラー服を着て、写真を撮った筈なんですよねぇ」
 お茶を飲みながら、高松は呟く。
「そうだろうねぇ」
 グンマは何気なく答えた。
「ルーザー様のセーラー服姿、しかとこの目で見たかったですねぇ」
「なんだ。高松。ルーザー叔父様の写真持ってなかったの。僕、既に持っているのかと思っちゃった」
「残念ながら、女学生のセーラー服のだけはないんですよねぇ。……ルーザー様のセーラー服……ルーザー様の……」
(あ、イヤな予感)
 グンマはこっそり部屋を抜け出そうとした。
「ルーザー様ァァァァッ!!」
 予感は的中。グンマは高松の鼻血をまともに浴びた。
(想像だけでこんなになっちゃうんだから、実物見たら出血多量で高松死んじゃうかも)
 グンマは、高松の健康と、己が鼻血で溺れ死なない為にも、もしルーザーのセーラー服写真なんてものがどこかから出てきても、闇に葬ってやろう――と決意した。

後書き
相変わらずのパクリワールドだなぁ(遠い目)
これを書いたのが四年前。だから、心戦組の方々も、本誌ではまだ出てきません。近藤さんと同じ趣味の人がたくさん!(笑)
今だったら、メイド服もありかな(笑)
どこがどの話から持ってきたネタかは、読者の方に探していただくとして、ひとつだけ。自由人HEROで、いなくなったミイちゃんを捜すとき、パーパ達写真を使ってましたよね。途中で気がついたんですよ。モロかぶるなって。
寛大な目で見ていただければ幸いです。
時期は、シンタロー達がパプワ島から帰ってきてすぐ、です。だから、シンちゃんも24歳! 若い!
この作品の上梓が、シンちゃんキンちゃんの誕生祝い! イェア!

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