僕らがここに、いる理由。

 太陽の光を照り返す、鋼鉄のビル。その無機質な群れの中、ひときわ目を引く巨大なタワー。
 正面ゲートには、六角星に『G』と刻まれたシンボルが輝いている。
 ――ガンマ団本部。
 それが、都市の中央に構えるビルの名称であった。
 長く続いた世界平和の後、突如として勃発した世界大戦。各国がいがみ合い、いよいよ実力行使が行われようとした時、ガンマ団はその全貌を明らかにした。
 兵器の使用無しで都市一つ破壊する恐るべき力。抵抗する者には容赦無い非情さ。
 殺しのスペシャリストとしての腕を持って、ガンマ団は全世界に挑んだ。そして、世界大戦は始まったと同時に、ガンマ団の勝利で幕を閉じたのだった。
 組織を統べるのは『総帥』と名乗る男で、彼の下にはそれぞれが特殊な能力を持つ精鋭がそろっている。
 ガンマ団は世界征服を旗に掲げ、大戦終了後も反抗勢力を排除していった。
 世界が恐れる、殺し屋集団。
その組織の本部ビル、最上階。都市の喧騒すら届かぬ部屋に、ガンマ団最強の男は――いた。

「フフ~ン♪フッフフ~ン♪」
 部屋には、何とも言い難い鼻歌が流れていた。
 それは、暗殺集団のボスの部屋には、あまり相応しいものとは言えまい。
 そして、もし、ガンマ団を恐れる者がこの部屋を見たならば、十人中十人が叫ぶだろう。
『俺は、こんな悪趣味な男を恐れていたのかーッ!?』と……。
部屋に広がるのは、ピンクとフリルのメルヒェンな世界。
 アンティークなテーブルにはシミ一つ無いクロスが掛かり、白磁の花瓶にコスモスとかすみ草が生けられている。高級そうなソファやラックの上には、総帥――マジックの最愛の息子である『シンタロー』のヌイグルミが、何体も並べられていた。
 そして、奇抜な赤のスーツに身を包んだマジック本人が、鼻血を滴らせながら繕っているのも『シンタロー』のヌイグルミである。よく見ると、一つ一つ表情が違う所が、尚のこと恐ろしい。
 この部屋で展開されている光景は、正常な感覚を持つ者ならば身の毛もよだつような代物であった。
 見る者にダメージを与える別世界の中、部屋の主であるマジックだけが、それはもう至福の表情を浮かべて縫い物に勤しんでいる。

 その時――
「総帥ッ!!」
 扉が開き、騒々しく入ってきたのは、マジックの側近の一人であるティラミスであった。栗色の髪と切れ長の目が特徴の青年である。
 ティラミスはずかずかとマジックへ歩み寄ると、両腕を広げて部屋を指し示して叫んだ。
「総帥!いったい幾つ人形を増やせば気が済むんですかッ!?」
「う~ん?」
  緊張感の無い返答。マジックの意識は、今だ妄想の世界の中である。
「…………はぁ」
 諦めきった深い溜息が、漏れた。
 ティラミス自身、今話し掛けても相手がうわの空である事は重々承知していた。マジックの側近となって、そこそこの年月が経っている。彼は、初めて会った時から全く変わらない。いや、むしろ彼の息子がガンマ団から逃走して以来、その性癖は悪化の一途を辿っているような気がする……。
 ティラミスが就職先を誤った感に囚われそうになった時、
「何か用か? ティラミス」
 上司からの返答があった。
(――遅ッ!! )
 思わずツッコミそうになったが、すんでのところで堪える。
「……あの、総帥。いいかげん人形を作るのは止めにしてはどうかと、思うのですが」
 気を取り直して、用件を伝え直す。
 幾分控えめなのは、マジックに真正面から見つめられているが故である。
 ――『秘石眼』。それは、秘石の一族のみが持つ、美しくも冷たい瞳のことである。『秘石眼』は片目に持つだけでも、凄まじい破壊力がある。そして、コントロール出来ず、その力が暴走した時の被害は計り知れない。
 しかし、そこは『総帥』を名乗るだけはある。マジックは両目ともが『秘石眼』であるにも拘らず、その力をいとも簡単に制御しているのだ。
 その瞳の威力を身近でもって目にしているティラミスは、背筋に嫌な汗を感じた。
「総帥、敢えて申します。いい大人になって、まだ子煩悩だなんて恥ずかしくないのですかッ!?」
 しかも、その子供もいい大人ときている。
 だが言ってしまってから、ティラミスは困惑した。
 マジックはこめかみに指を添えて今だ自分を見つめており、思案しているようだった。その表情はいたくまともである。
 こういう然り気無い仕草が様になるのも、トップに立つ者の威厳であろうか。背景のピンクと手作りのヌイグルミを除けば、十二分に理想の指導者ではある。
 外見に惑わされ、ティラミスは(少し)マジックを見直していた。
 ――だがしかし、やはり神に見放されているのであろうか。
  先程までのクールな印象は何処へやら、マジックは拳を握り締めて、吼えた。
「親が子を可愛がって、何処が悪いッ!!? 親なんて、みんなこんなもンだぞ! お前も人の親になれば分かるッ!」
 明らかに、標準にするには無理があると思われる。親の愛が皆こんなだったら、世界中の子供の、十分の九が家出しているに違いない。
「……総帥、それはちょっと無理が――」
 控えめな反対は、総帥の一言で一蹴される。
「あーッ!! うるさいゾ! 用がそれだけなら、もう行きたまえ」
 ティラミスはジロリと睨まれ、視線を逸らした。
「…………失礼しました」
 しばしの沈黙の後、ティラミスはすごすごと退室した。
 部屋を出ると、ティラミスは幾度目かの溜息をついた。が、然程の落胆も無い。今回も失敗に終わっただけである。
 根気よく続ければ、いずれ自分の思いは通じるはずだ。
 が――
「シンちゃーん。パパはこんなにシンちゃんの事を愛してるのに、あの独身男には分からないンだね~。クスン……」
 背後から聞こえてくる気色悪い――もとい、愛情溢れる声を聞いていると、自分のしている事が無意味なような気がしてくる。
 重い足取りで通路を歩く。と、自分の足音だけが響いていた中に、突如くぐもった笑いが混ざった。
 声の出所は、今通り過ぎた曲がり角からだ。どうやら、考え事に夢中になり過ぎていたらしい。
「おい、笑う事はないだろ! チョコレートロマンス」
 ティラミスは振り返り、通路の曲がり角に向けて不機嫌な声を投げた。
「ククク……。だぁってよ~、いつまでもがんばってンだもんな~」
 これが笑わずにいられるかっての――そう付け足しながら、長ったらしい名前のもう一人の側近が、曲がり角から姿を現した。こちらは、肩に届く金髪に茶色い瞳のタレ眼と、ティラミスとは対照の印象の青年だった。
「なんだよ! もとは二人で立てた計画だろッ!?」
 そうなのである。今しがた、ティラミス一人で挑んでいた無謀な計画は、元々は二人でやっていたのである。
 現在のマジックの振る舞いは、彼の弱点がシンタローであると公言しているようなものであった。この事が、ガンマ団に恨みを持つ者に知れれば、シンタローの身に危険が及ぶ。それを避ける為にも、マジックには、素行を改めてもらう必要がある。
 その為の、計画であった――。
「でもよ、総帥のアノご様子じゃあ、やってるのが無意味に感じてこないか? 現にムリそうじゃん? 素行を改めさせるなんてよ」
 そうそうに諦めてしまった元加担者は、呆れ顔でオーバーに肩を竦ませて首を振る。
「…………」
 ティラミスは押し黙った。確かに、自分もたった今感じた思いである。
 反論が無いのを目の隅で確認すると、チョコレートロマンスは畳み掛けた。
「それにさ~。シンタロー様も、オレらが気に掛ける必要無いくらいに強いじゃん。大丈夫だって。例え、総帥の弱点がシンタロー様だってバレても、敵に大人しく捕まるような人じゃない。……それに、おっそろしく強いお父様もいるんだし」
 敵の方が、怖がって近づけないんじゃねーかな?―――ふざけた調子で、付け足すのも忘れない。
「………確かにな」
 ティラミスは小声で呟いた。
 ティラミス自身、分かっていなかったわけではない。あの親子は、自分たちとはレベルが違う。こんな風に、裏であれこれと画策する必要が無いくらいに………。
 分かってはいる。けれど、ならば自分たちが側近である理由は? 力では勝らないのならば、せめて何かの役に立ちたかった。
 無言で立ち尽くすティラミスの心情を察し、チョコレートロマンスはティラミスの肩を叩くと、満面の笑みを向けた――。

 一方、その頃のマジックはと言うと――
 とにかく、感動していた。
 ティラミスが部屋から立ち去った後、マジックはさすがに罪悪感を覚えていた。
 愛するシンタローの事を言われ熱が入ってしまい、つい言い過ぎてしまったのだ。
 一言謝っておこうかと通路に出た時、ソレは聞こえてきたのだった。
「……よ~、いつまでもがんばってンだもんな~」
(おや、この声はチョコレートロマンスか?)
 マジックは歩みを止めて、通路の角から覗き込んだ。
 見ると、こちらに背を向けたチョコレートロマンスが、ティラミスと向かい合っている。
「なんだよ! もとは二人で立てた計画だろッ!?」
 ティラミスが、心外だと言わんばかりに怒鳴る。
 マジックは、『計画』と言う言葉に気を引き締めた。
(もしや、あの二人、何か企んでいるのか?)
 例え、親バカの極みにいるマジックでも、そこは暗殺集団のボスである。疑わしきは、身内でも気を抜かないのが常識だ。
「でもよ、総帥のアノご様子じゃあ、やってるのが無意味に感じてこないか? 現にムリそうじゃん? 素行を改めさせるなんてよ」
 マジックは首を捻った。二人の話す、『計画』をどうにも図りかねたからだ。
(……いったい、計画とは何なのだ?)
 あれこれと、思い当たる事を考え連ねていた時――
「それにさ~。シンタロー様も、オレらが気に掛ける必要無いくらいに強いじゃん。大丈夫だって。例え、総帥の弱点がシンタロー様だってバレても、敵に大人しく捕まるような人じゃない。……それに、おっそろしく強いお父様もいるんだし。敵の方が、怖がって近づけないんじゃねーかな?」
「――ッ!!? 」
 マジックは驚きに声が洩れそうになり、咄嗟に口を押さえた。
 まさか、二人の部下の『計画』が、自分とシンタローを思ってのものだとは想像もつかなかった。
 あの二人の事だ、どうせ自分をからかう企みを立てているのだとばかり思っていたのだ。
(あいつら……。そんな事を考えていたのか……)
 普段は雑務をこなし、いざという時はその身をもって自分を守る任に就いている側近の二人。
 しかし、実際、マジックの身に危害を加えさせる程近づける者など、この世にいるとは思えない。
 はっきり言って、身の回りの事をこなす為にいるとしか考えていなかった。
 それが、二人は自分が思っていた以上に気の回る人材だった。実戦の場ではそれ程でもなくとも、戦略に置いては、先を読む目に長けていると誉めてもいいだろう。
 マジックは、自分でも考えに入れていなかったシンタローの身の事を、二人の側近が気に掛けていた事を知り、我が身を恥じる思いであった。
(ううぅ……、私は何と愚かだったのだろうかッ! 私にシンタローを心配する資格は無いッ!! )
 ゴメンね、シンちゃんv――と、涙と鼻血を滝のように流しながら、『シンタロー』のヌイグルミに頬擦りする。
 マジックは、またも妄想の世界に足を踏み入れかけていた。

「……確かにな」
 ティラミスの消え入りそうな呟きが、マジックの正気をなんとか引き戻した。
(はッ!! いかん!)
 頭を振って妄想を払い、ヌイグルミを懐にしまう。
(……二人に謝らねばならんな。お前達のような部下を持てた事を、私は誇りに思うぞ)
そして、マジックが二人に謝罪と感謝を述べる為、一歩を踏み出そうとした時だった――
「――っつーかさ、あの変態親子に近づこうとする奴なんていないんじゃねーの?
 朗らかな声で語るチョコレートロマンスの言葉に、マジックの足は硬直した。
(…………な・に?)
 マジックの形の良い眉が、歪んでゆく。
 先程までの感動は急速に冷めつつあった。
「父親は息子を溺愛してるし、息子は息子で弟にベッタリ――」
(前言撤回……)
 口元に、皮肉な笑みが浮かぶ。
「ティラミスだってさ、あの部屋はどーかと思わねぇ? 息子のヌイグルミ作って飾るなんて、普通の親はしないって!っていうか、異常だな」
(チョコレートロマンス、減給決定ッ!)
 沸々と湧き上がる、苛立ち。
 限界までは、後、わずか……。
「やはり、お前もそう思うか……」
(――!!? な、ティラミスまでッ!?)
 ティラミスだけは反論してくれるはずだと信じていた矢先、彼がチョコレートロマンスに同意するのを聞いて、マジックはショックを受ける。
 しかし、この場合、チョコレートロマンスの意見に反論する者などいないに等しい事に、マジックは気付くまい。
 愛とは、なんと盲目的である事か…………。
「あはは、あったりまえだろ~?アレを異常と言わないで、何を異常と言えばいいンだよ」
(…………異常ね……)
 握り締めた拳が、微かに震える。
 冷めた思考が、余計に怖い。
「やはり、そうそうに人形作りを止めさせるべきだな」
「だな。……それにしても、シンタロー様って不憫だよなぁ。親が嫌で逃げたのかな~。秘石持ってったのは、腹いせにか?」
(……そこまで、言うか…………)
 湖水を連想させるマジックの瞳は、いつの間にやら冬を迎えて、氷のようであった。
 冷たい瞳に、怪しげな光がちらつく。
「ああいう親は、持ちたくはないな……」
「くくく、お前も言うね~」
(人が聞いておらんと思って、呑気なものだな……)
 その目は据わっており、ひどく危険な状態である。
 マジックは、二人の哀れな部下の言葉を軽く鼻であしらうと――
 一歩を踏み出した。
 ひどく、ゆっくりと――

 チョコレートロマンスは、日頃の鬱憤を発散して実に気分が良かった。
 気難しい―――というか、理解し難い思考の持ち主の上司を持つと、気疲れしてしょうが無い。
 たまには愚痴ぐらいこぼしても、天罰は下らないだろう。
(ほ~んと、アノ人はどーして『ああ』かね……)
 息子のヌイグルミを作るマジックの姿が脳裏に浮かぶ。
 初めて部屋に入った時は絶句したものだが、今ではもう慣れてしまった。
 しかし、慣れてしまうのも問題であるのだが……。そのあたりの自覚が無いのが、慣れの怖さである。
「総帥も、アノ趣味さえなければ、イイ上司なんだけどねぇ」
 しみじみとしたチョコレートロマンスの言葉に、ティラミスがうなずく。
 が、顔を上げた瞬間、ティラミスはリトマス試験紙のように青ざめた。
 細い目を見開き、パクパクと口を動かす。
「? ……どうかしたのか?」
 何も知らぬチョコレートロマンスは、怪訝そうにティラミスを覗き込む。
 哀れな男の背後に、死神さながらのマジックが迫りつつあった。
「ああ……そ、そうすい…………」
 掠れた声でティラミスが言う。
 しかし、聞き取れなかったのか、チョコレートロマンスは聞き返した。
「え? 何だって?」
「『そうすい』って言ったんだよ……。ね、ティラミス?」
 やさしく教えてくれる渋い声。しかし、肩に置かれた手は獲物を逃がすまいと、骨が軋むほどに力が込められていた。
 チョコレートロマンスは全てを悟った。
 後ろにいるのが『例の人』で、様子から言って『先程の事』を聞いていたのだと……。
 振り返らずとも分かる。
 チョコレートロマンスは、真っ白になった思考で必死に言い訳を考える。
「あああ、あの……そうすいぃ~?」
 蚊の鳴くような声で弁明しようとするが、マジックの優しい囁きに遮られてしまう。
「ああ、チョコレートロマンス。何も言わなくていい。言いたい事は分かってるよ……」
(いいえ、分かってらっしゃらないです……)
 口にしたかったものの、肩に置かれた手の力が徐々に強くなっていくのを感じて、言うに言えない。
「お前たちの考えは聞かせてもらったよ。実に泣かせるじゃないか! 私でさえ気に留めていなかったシンタローの事を、お前たちが気に掛けていてくれたなんてね……。私は、有能な部下を持てた事に感謝するよ」
 チョコレートロマンスには見ることが叶わなかったが、やさしさに溢れた言葉とは裏腹に、湖水を連想させる瞳は笑ってはいなかった。
 そして、運悪く向かい合わせとなっていたティラミスは、自らの血が引いてゆく音を聞いた。
「あ、あのですね、総帥。私はチョコレートロマンスにそそのかされて……」
 ティラミスはとりあえず保身へと走った。何はともあれ、自分の身を守ることだ。その後、余裕があったならチョコレートロマンスを助けてやろうと、一人納得する。
(あッ、きったねー!! 自分だけ言い逃れする気かよ!?)
 口に出したくも、ヘタなことを言えないチョコレートロマンスは、恨みがましくティラミスをねめつけた。
 上下関係に支障きたした今、友情にまでもヒビが入りかけている。
 しかし、意外な所から友情修復(?)の手が差し伸べられた。
「ティラミス、自分だけ逃げるのはイケナイなぁ~。チョコレートロマンスが可哀想だろう?」
 暗に同罪と告げる、言葉であった………。
(けけけ、イイ気味だぜッ)
 自分の置かれた状況も忘れて、チョコレートロマンスは嫌味な笑いを浮かべる。
 ティラミスは、これから訪れる制裁を思い、軽率な同僚と愚かな自分を呪った………。 
 かくして、感動のフィニッシュを迎えるはずだった今回の事件は、部下たちの心無い会話から全てがうやむやとなってしまった。
 ティラミスは何故こんな事になってしまったのか、泣きたい気分だった。
 ただ、これだけは確かな事がある。
 自分たちの運命は、暗殺集団最強の男が握っているという事だ………。
 そして、運命の宣告は下される―――
「二人とも、最近緊張感が足りないみたいだな。大丈夫、いい訓練所があるんだ。そこで勉強しておいで。帰って来る頃には、私の気持ちも落ち着いているだろうからね。これでも、私はお前たちを手放す気は無いんだぞ?じゃあ、帰って来るのを待ってるよ。まぁ………帰って来れればの話だけどねぇ~(怒)」

 数日後。
 ガンマ団特戦部隊、飛空挺内でちょっとした騒ぎが起きた。
「おい、何なんだよコレはぁ!?」
郵送物を前にして、ハーレムは素っ頓狂な声をあげた。
しかし、無理もあるまい。包みとは言え、小型の車でも入っているのではないかと、疑いたくなるような大きさなのである。
「あ~、ハーレム隊長。なんかソレ、総帥からの贈り物みたいですよぉ?」
 昼寝でもしていたのだろう、眠そうな顔のロッドが素っ気無く言う。
 どうやら半分寝ぼけているようで、この異常事態に気付いていないようだ。
「マジック兄貴からぁ~?」
 またも間の抜けた声で、不服そうに呟く。送り主の欄を見ると、いかにもマジックからであった。
(兄貴のヤツ、何のつもりだよ………)
 開けようかどうか躊躇っていると、急に部屋が騒がしくなった。
 席をはずしていた三人が戻って来たのである。
そして、三人とも一様に目を見張った。揃えたようなその光景は、ある意味滑稽でもある。
「………!?」
 相変わらず口数の少ないGでさえ、驚きが顔に出ていた。
「………隊長、いったい何を通販なされたんですか?」
「ちげーよ!」
 何時いかなる時も皮肉を忘れないマーカーも、どうにも目線は包みに釘付けである。
 しかし、全員がたじろぐなか(眠りの世界に足を突っ込んでいる一名を除いて)一人だけ、予想外の反応を示す者がいた。
「うわッ! スゲー!! 隊長、コレどーしたんですか!?」
 なんとも陽気な声を上げたのは、最年少でディ○ニー好きのリキッドに他ならない。
 少々うんざり気味に、ハーレムが説明してやる。
「総帥からのプレゼントだってよ……」
 その口調は心底嫌そうだった。
(――ったく、ロクな事ねーんだよな)
 いっそ、開けずに捨ててしまおうかとも考える。
 が、奇特にもその役を買って出る者もいた。
「隊長、開けないんですか?」
 リキッドはこの大きな包みの中身が気になるらしく、目を輝かせて『開けないの?』と無言で訴えている。
「リキッド、開けていいぞ」
 ちょうどイイとばかりに、ハーレムはその大役を譲ってやる。
(爆発でもされたら、たまんねーからな……)
 自身の身を守るためなら、部下の負傷も厭わない上司であった。
 お許しの出されたリキッドは、喜び勇んでリボンを解いてゆく。
「何が出るかな♪ 何が出るかな♪」
 歌をうたっているその様は、実に楽しそうだった。
 そして、いよいよ箱を開ける時がやってきた。
「…………では、オープン~♪」
 勢いきって蓋を持ち上げる。
「「「「ッッッッッ!!?」」」」
 そして。時が、止まった――――
 箱の中には逃走防止にズボンを剥がれ、手足を縛られて気絶する人間が――二人。
 中にはマジックの筆跡で『二人をよろしくv』と、律儀に手紙が添えられてあった。
 あまりに予想外の出来事に四人は硬直し、この状況を解決してくれる奇跡が起こるのを切望した。
 一瞬にして活人画となってしまった、室内に
「……わぉ」
という、ロッドの気の抜けた声だけが、虚しく響いたのだった。

Tomokoのコメント

おもしろく読ませていただきました! ささかずさん。
ちょっと長めかもしれないけど、そんなこと全然気になりませんでしたよ。
それにしても、この話の真の主役はロッドと言い切るささかずさんはすごい!(ティラとチョコロマの立場は……?)
かわいそうな側近さんたち。これが五巻のアノシーンにつながるのね……というのはウソ。
こんなもの送りつけられる特戦部隊もかわいそうかもしれない。げに恐ろしきは子煩悩な総帥なり。
二人はこの後生きて帰れたんでしょうか。気になるところです。

データ軽くするためにちょっと表示方法変えました。許してちょ(何度やっても、ティラミスとチョコロマの台詞を右に回り込ませる方法がわかんないのよ)。


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