明日は永遠に来ない
街はジングルベル。お祭り騒ぎの時期。 サービスは際立った美貌の為目だったが、そんなことも気にせず、さくさくと雪道を進んで行った。 マジック邸に着くと、チャイムを鳴らした。真っ先に出迎えに来てくれたのは、シンタローとグンマ。彼の甥っ子達だった。 「おじさん、こんにちはー」 「こんにちはー」 「やあ。元気だったかい? シンタロー。グンマ」 「うん!」 シンタローは元気よく頷くと、グンマの方に向き直って言った。 「ほーら。ぼくのいったとおりだったろ? サービスおじさんはくるって」 「で、でも、高松はこないって……」 「あんなまっどさいえんてぃすとのこと、しんじるなよ」 サービスは苦笑した。 (マッドサイエンティストね……確かに) だが―― 「シンタロー、『マッドサイエンティスト』なんて言葉、どこで覚えた?」と、サービスが尋ねた。 「え? みんないってるよ」 「意味はわかるかい?」 「あやしいかがくしゃのこと、じゃないの?」 「正解! シンタローは賢いな」 「ぼくだってかしこいよ。このあいだロボットつくったもん!」 グンマが口を挟んだ。 「でも、そのあとすぐこわれたろ。やーい。グンマはまっどさいえんてぃすと2号だー」 「ちがうもん。シンちゃんのいじわる」 「私とグンマ様を馬鹿にするのは誰です」 高松が現われた。 「ばかになんかしてないよ。ほんとのこといっただけだもん」 「だからちがうってばー」 「またシンタロー様ですか。いい加減にしてください。――あ、総帥。総帥からも注意してやってください」 「おや。シンちゃんは正直者だからねぇ」 セーターを着ている、金髪を整えた男が、奥から出て来た。 ガンマ団総帥、マジック――だが、普段着の今はそうは見えない。いい父親、といった雰囲気を漂わせている。鷹揚で、優しそうで――だが、一旦仮面を脱げば、そこには冷酷な顔があるのだと、サービスは考えていた。 「よーぉ。メリークリスマス」 最後に登場したのは―― 「おまえか」 「久しぶりだな。サービス」 ハーレムはすっかりできあがっているようだった。 「あまり飲むなよ」 サービスは眉を顰めた。 「おうおう。弟のくせに指図するか」 「君の健康が心配なんだ」 それは本心だった。 「忠告、ありがたく承っておくよ」 サービスの双子の兄は、おどけて礼をした。 「ところでよ、招待状に書かれていた、へったな字。あれは、いったいどいつが書いたんだ?」 と、そのハーレムが誰とはなしに訊く。 「しょうたいじょう? ぼくのかいたやつ?」 「ああ。シンタローか。道理でな」 「待ちなさい、ハーレム」 マジックが気色ばむ。 「シンちゃんが一生懸命書いた字を下手だなんて言ったら、私が許さないよ」 「俺は真実を言っただけだぜ。――その横に描いてあった幼稚な絵もシンタローか?」 「う……ぼく、ぼくなんだけど……」 グンマが泣き出した。 「何てこと言うんです! グンマ様泣いちゃったじゃないですか! おお、よしよし。グンマ様。ひどい叔父さんですねぇ」 「ひっく……もうハーレムおじ様にはしょうたいじょうかかないんだからぁ」 「ぼくもだよ!」 シンタローも悔しげに台詞を叩きつける。 「……ちっ。悪かったよ。おい。兄貴。酒ないか?」 「少しぐらいならあるが……あまり飲み過ぎるんじゃないぞ」 「――サービスと同じこと言いやがって。わかった。少しは控えとくよ。それにしてもクリスマスはいいよな。タダ酒がたくさん飲めてよ♪」 ハーレムはいそいそと姿を消した。 「全く……手伝いもしないで……シンちゃん。パパはツリーの飾りつけの続きをするからね」 「あっ、ぼくもー」 「ぼくもぼくも」 シンタローとグンマが叫んだ。 「おじさんもこない?」 「すみません。シンタロー様。私、サービスに話があるのですが。――グンマ様と遊んでいらしていただけますか?」 と、高松が言った。 「ちぇっ。つまんないの。でも、おじさんのじゃましちゃわるいよね。いこ。グンマ」 「うん」 二人はどたどたと廊下を走っていく。 「ちょっと散歩しませんか?」 高松の誘いに、 「何を企んでいる?」 と、サービスが怪訝な顔をした。 「企むだなんて……ただ訊きたいことがあっただけです。……外に行きましょう」 高松とサービスは、雪の積もった道を踏みしめながら歩いた。 「まさか戻ってくるとは思いませんでしたよ」 「…………」 「シンタロー様とグンマ様は、それはそれは仲がよろしくて」 「どういう意味だい? 『戻ってくるとは思わなかった』とは」 「ああ。ここに来るのは、もう数年かかるかな、と思ってたんですよ。アンタが行方知れずになった時。ハーレムは一生懸命探してたようですけどね」 「…………」 「あの手紙、どういう意味だったんですか?」 サービスは、マジックに宛てて、一通の手紙を送った。 そこには近況と――自分の現在の住所を書いておいた。だから、シンタロー達の招待状が届いたのだ。 「あなたを変えたのは何だったんですかねぇ」 「――何でもいいだろ」 「あなたがここに来るとは、いまいち信じられなかったんですよねぇ。今は、こうして会えて嬉しく思っています」 「――そうか」 サービスはあたう限りの努力で、にこっと友情の証の笑みを浮かべた。 「ルーザー様やジャンの墓参りにでも行きますか? このまま」 「そうだな。行こうか」 高松も明るくなった、とサービスは思った。愛する者ができたのであろうか。そう訊いても、高松は、「見たらわかるでしょう」と言ったきりにやにやしている。――サービスも、それで納得した。 今年のクリスマスは、どういうものになるだろう。シンタロー、グンマ、高松、マジック――そしてハーレム。何故かわからないが、温かいものが、サービスの胸を浸す。彼は、自分の幸福感に驚いていた。幸せを感じるその資格がないとしても――いや、資格で幸せになるものではないはずだ。 「あなたもいい表情するようになりましたね、サービス」 高松はにやにやするのをやめ、心からの笑顔を見せた。 今度のクリスマスは、久しぶりに、楽しい聖夜になるだろう。 ジャン、今だけは、あの悪夢から遠ざかるよ。それぐらいは許してくれ。決して忘れる訳ではない。忘れることはできないのだから――私の犯した罪も――。サービスは声に出さずに呟いた。 後書き 終わったー。 中学時代の原作からはかなーり離れているような気がしますが。 こっちの方がサビハレ風味は強いです。 しかもクリスマスって――季節外れですね(汗)。 原作もクリスマスで締めましたから、その影響です。 2010.3.14 |