明日は永遠に来ない
6
 あれから季節は移り行き――。
 街はジングルベル。お祭り騒ぎの時期。
 サービスは際立った美貌の為目だったが、そんなことも気にせず、さくさくと雪道を進んで行った。
 マジック邸に着くと、チャイムを鳴らした。真っ先に出迎えに来てくれたのは、シンタローとグンマ。彼の甥っ子達だった。
「おじさん、こんにちはー」
「こんにちはー」
「やあ。元気だったかい? シンタロー。グンマ」
「うん!」
 シンタローは元気よく頷くと、グンマの方に向き直って言った。
「ほーら。ぼくのいったとおりだったろ? サービスおじさんはくるって」
「で、でも、高松はこないって……」
「あんなまっどさいえんてぃすとのこと、しんじるなよ」
 サービスは苦笑した。
(マッドサイエンティストね……確かに)
 だが――
「シンタロー、『マッドサイエンティスト』なんて言葉、どこで覚えた?」と、サービスが尋ねた。
「え? みんないってるよ」
「意味はわかるかい?」
「あやしいかがくしゃのこと、じゃないの?」
「正解! シンタローは賢いな」
「ぼくだってかしこいよ。このあいだロボットつくったもん!」
 グンマが口を挟んだ。
「でも、そのあとすぐこわれたろ。やーい。グンマはまっどさいえんてぃすと2号だー」
「ちがうもん。シンちゃんのいじわる」
「私とグンマ様を馬鹿にするのは誰です」
 高松が現われた。
「ばかになんかしてないよ。ほんとのこといっただけだもん」
「だからちがうってばー」
「またシンタロー様ですか。いい加減にしてください。――あ、総帥。総帥からも注意してやってください」
「おや。シンちゃんは正直者だからねぇ」
 セーターを着ている、金髪を整えた男が、奥から出て来た。
 ガンマ団総帥、マジック――だが、普段着の今はそうは見えない。いい父親、といった雰囲気を漂わせている。鷹揚で、優しそうで――だが、一旦仮面を脱げば、そこには冷酷な顔があるのだと、サービスは考えていた。
「よーぉ。メリークリスマス」
 最後に登場したのは――
「おまえか」
「久しぶりだな。サービス」
 ハーレムはすっかりできあがっているようだった。
「あまり飲むなよ」
 サービスは眉を顰めた。
「おうおう。弟のくせに指図するか」
「君の健康が心配なんだ」
 それは本心だった。
「忠告、ありがたく承っておくよ」
 サービスの双子の兄は、おどけて礼をした。
「ところでよ、招待状に書かれていた、へったな字。あれは、いったいどいつが書いたんだ?」
 と、そのハーレムが誰とはなしに訊く。
「しょうたいじょう? ぼくのかいたやつ?」
「ああ。シンタローか。道理でな」
「待ちなさい、ハーレム」
 マジックが気色ばむ。
「シンちゃんが一生懸命書いた字を下手だなんて言ったら、私が許さないよ」
「俺は真実を言っただけだぜ。――その横に描いてあった幼稚な絵もシンタローか?」
「う……ぼく、ぼくなんだけど……」
 グンマが泣き出した。
「何てこと言うんです! グンマ様泣いちゃったじゃないですか! おお、よしよし。グンマ様。ひどい叔父さんですねぇ」
「ひっく……もうハーレムおじ様にはしょうたいじょうかかないんだからぁ」
「ぼくもだよ!」
 シンタローも悔しげに台詞を叩きつける。
「……ちっ。悪かったよ。おい。兄貴。酒ないか?」
「少しぐらいならあるが……あまり飲み過ぎるんじゃないぞ」
「――サービスと同じこと言いやがって。わかった。少しは控えとくよ。それにしてもクリスマスはいいよな。タダ酒がたくさん飲めてよ♪」
 ハーレムはいそいそと姿を消した。
「全く……手伝いもしないで……シンちゃん。パパはツリーの飾りつけの続きをするからね」
「あっ、ぼくもー」
「ぼくもぼくも」
 シンタローとグンマが叫んだ。
「おじさんもこない?」
「すみません。シンタロー様。私、サービスに話があるのですが。――グンマ様と遊んでいらしていただけますか?」
 と、高松が言った。
「ちぇっ。つまんないの。でも、おじさんのじゃましちゃわるいよね。いこ。グンマ」
「うん」
 二人はどたどたと廊下を走っていく。
「ちょっと散歩しませんか?」
 高松の誘いに、
「何を企んでいる?」
 と、サービスが怪訝な顔をした。
「企むだなんて……ただ訊きたいことがあっただけです。……外に行きましょう」
 高松とサービスは、雪の積もった道を踏みしめながら歩いた。
「まさか戻ってくるとは思いませんでしたよ」
「…………」
「シンタロー様とグンマ様は、それはそれは仲がよろしくて」
「どういう意味だい? 『戻ってくるとは思わなかった』とは」
「ああ。ここに来るのは、もう数年かかるかな、と思ってたんですよ。アンタが行方知れずになった時。ハーレムは一生懸命探してたようですけどね」
「…………」
「あの手紙、どういう意味だったんですか?」
 サービスは、マジックに宛てて、一通の手紙を送った。
 そこには近況と――自分の現在の住所を書いておいた。だから、シンタロー達の招待状が届いたのだ。
「あなたを変えたのは何だったんですかねぇ」
「――何でもいいだろ」
「あなたがここに来るとは、いまいち信じられなかったんですよねぇ。今は、こうして会えて嬉しく思っています」
「――そうか」
 サービスはあたう限りの努力で、にこっと友情の証の笑みを浮かべた。
「ルーザー様やジャンの墓参りにでも行きますか? このまま」
「そうだな。行こうか」
 高松も明るくなった、とサービスは思った。愛する者ができたのであろうか。そう訊いても、高松は、「見たらわかるでしょう」と言ったきりにやにやしている。――サービスも、それで納得した。
 今年のクリスマスは、どういうものになるだろう。シンタロー、グンマ、高松、マジック――そしてハーレム。何故かわからないが、温かいものが、サービスの胸を浸す。彼は、自分の幸福感に驚いていた。幸せを感じるその資格がないとしても――いや、資格で幸せになるものではないはずだ。
「あなたもいい表情するようになりましたね、サービス」
 高松はにやにやするのをやめ、心からの笑顔を見せた。
 今度のクリスマスは、久しぶりに、楽しい聖夜になるだろう。
 ジャン、今だけは、あの悪夢から遠ざかるよ。それぐらいは許してくれ。決して忘れる訳ではない。忘れることはできないのだから――私の犯した罪も――。サービスは声に出さずに呟いた。

後書き
終わったー。
中学時代の原作からはかなーり離れているような気がしますが。
こっちの方がサビハレ風味は強いです。
しかもクリスマスって――季節外れですね(汗)。
原作もクリスマスで締めましたから、その影響です。
2010.3.14


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