夕城さなえのパロディ劇場 『赤ずきんちゃん』 キャスト 赤ずきん………ジャン 狼 ………ハーレム 猟師 ………サービス おばあさん………赤の秘石(笑) 他 赤ずきんジャンは美味しいぶどう酒と焼きたてのパンを持って、病気のおばあさんの所にお見舞いに行く。 それを物陰から見ていた狼。 「なんて旨そうな――ぶどう酒とパン」 ――あの、赤ずきんちゃんは? 「パス。固くてまずそうだ」 さて、赤ずきん――じゃなかった、ぶどう酒とパンを食べたい一心の狼はここで一計を案じます。 「おい、そこの赤ずきんの男」 「……やだなぁ。いま俺は可愛い女の子なんだって。打ち合わせしたでしょうが」 あー、もしもし、こんな所で芝居の馬脚を現さないでくれます? 「どっちでもいい。どこへ行く」 「病気のおばあさんの所へ、お見舞いに行くのよ」 「なるほど。しかし、ぶどう酒とパンだけでは、いかにも素っ気なさ過ぎる。ばあさんてなぁ、さり気ない心遣いを喜ぶもんなんだぜ」 「そうかぁ。どうしたらいいかなぁ」 「花でも摘んで、持っていってやったらどうだ。きっと喜ぶぜ。俺も手伝うから」 赤ずきんは喜んで、狼の言う通りにしました。狼は草むらに置かれたバスケットを横目で見ながら、ごくりと唾を飲み込みましたが、焦りは禁物。もしここでぶどう酒とパンがなくなっていることに気付いたら、赤ずきんはきっと警察に知らせるに違いありません。 狼は花を摘むふりをしながら、そっと赤ずきんのそばを離れました。どこかへ行ったのかって? 決まってます。彼はおばあさんの家に向かったのです。森の中には一軒しか家がありません。 「うわぁっ!――びっくりした。なんだこりゃ。人面草や、ひとの体をなめ回す花――注意して見てなかったけど、森には変てこな草花がたくさんあるんだなぁ。珍しいけど……おばあさんにはあんまり喜ばれそうもないなぁ」 などと赤ずきんが言ってる間に、すでに狼は、おばあさんと無事入れ替わり仰せてしまいました。 「いけない。すっかりすっかり遅くなっちゃった。おばあさん、怒ってるだろうなぁ」 場面変わって森の一軒家―― 「こんにちは、おばあさん。あなたの孫の赤ずきんが、お見舞いに参りましたよ」 「お、おお、おお、赤ずきんや。わしは今とっても気分が悪い。お土産を置いてとっととお引き取り願えんかね」 だが、赤ずきんはずかずかと入っていって、狼の寝ているベッドに近付いて来ます。 「まぁ、おばあさん。すっかり耳が大きくなっちゃって。なんて大きな耳なの?」 「はいはい。お前の声をよく聞くためだよ」 面倒くさくなって狼は答えた。 「それに、なんて大きな口」 「それはお前の持っているぶどう酒とパンを――」 その時である。ばんっ!と勢い良く開いた扉から現れ出でたるは、鉄砲携えた猟師のサービス。 「家の者はいるか」 「はい、なんでしょう」 「この森に狼がいると聞いて、忠告しに来たんだ。この家にはおばあさんが一人暮らしだから、危険はないかと思ってね。君も気をつけた方がいい。おばあさんはともかく、君なんかはまだ若いから――」 「ちょっと待った!俺にも選ぶ権利があるぞ!」 迂闊にも狼は声を張り上げてしまった。 「あっ、狼!」 「あっ――」 猟師は鉄砲に弾丸を込め、狼に狙いをつける。 「待って。その狼を撃たないで」 息を切らした青年が、叫びながら飛び込んで来た。 「ルーザー……兄さん?」 さしものサービスも呆然としています。 「突然すみません。あそこにいるのは、以前僕の所で飼っていた狼です。何のつもりか勝手に飛び出していってしまって―――本当にすみません」 「し……しかし……」 「ぶどう酒とパンを欲しがりませんでしたか?」 「ぶどう酒とパン?――って、これ?」 「そうそう。それが大好物なんですよ」 なんともグルメな狼である。 「ハーレム、どうして逃げたりしたんだい。今まで何不自由ない暮らしをさせてやったじゃないか。ほら、帰って来たら、お前の大好きなぶどう酒とパンをたくさん食べさせてあげるから」 「そんなもん――いらねぇよ」 「どうして?あの赤ずきんの子のは欲しがるくせに、僕のは食べたくないわけ?」 「ああ。もううんざりなんだよ。てめぇの所になんざ、二度と戻りたくねぇ」 「今だって、こんなに大事に思ってるのに」 「てめぇがしてきたこと、もう一度胸に手ェ当てて考えてみろってんだ。あン時俺は、一匹狼として生きていくって、決意したんだ」 「あら。おばあさん」 周囲の騒がしさを後目に、赤ずきんはのんきに声を上げる。おばあさんは洋服ダンスの中に閉じ込められていたのだ。 『赤ずきん、お前も無事で良かったこと。でも、もう少し早く助けに来て欲しかったわ』 「結局僕は何しに来たんだ」とサービス。 「あ、サービス、これ――」 ジャンがサービスに手渡したのは、ぶどう酒とパンの入ったバスケット。 「あーーーっ!ちょっと待て!そいつは俺ンだ!」 『ジャン、あなた、それ私に持って来たんじゃないんですか』 「ハーレム。帰ったら僕がたくさん作ってあげるから」 「兄さん!狼なんか飼っちゃダメでしょう」 こうして舞台は、何がなんだかわからないままに幕を閉じるのである。 語り手は私、高松でお送りいたしました。 「待ってくれ。まだ私が全く出てないじゃないか」 ――幕。 「おーい」 最後の声……マジック総帥(特別出演) |