HS ~ある双子の物語~ 第三十四話 最終回

「ほんと、ほんとに?!」
 サービスが嬉しそうに叫んだ。
「よかった……ハーレムが死ぬぐらいだったら、ぼくが死んだ方がいいもの」
「バカなことを言うな。俺だっておまえの代わりに死ねる」
 ハーレムも言った。
「あなた達、これから大人になるにつれて、辛い目にも悲しい目にも合うと思うわ。でもね、私はこう思うの。最後はね、『みんな揃ってハッピーエンド』よ」
 松村智子は笑った。
「みんな揃って……」
「ハッピーエンド……」
「さあ、起きなさい。もう祭りは終わったわ。これからは日常に戻るのよ……」
 智子の声を遠くに感じて――
 双子達は目を覚ました。
「ハーレム……」
「サービス……」
 双子は顔を見合わせた。
「良かった! 元に戻ってる!」
「全然だるくない!」
 二人は手に手を取って喜んだ。
「サービス……!」
 部屋に入って来た兄達が、心配そうな顔をした。ルーザーはお湯の入った盥を持っている。
「大丈夫か! サービス!」
「うん! もう元気元気だよ!」
 サービスがぴょんとベッドから飛び降りる。
「いけないよ、サービス」
 ルーザーが窘めた。
「どれどれ……? 信じられない! 熱が下がってる!」
 マジックがサービスの額に手をやる。
 医者が、
「もう心配ありませんよ。でも、こんなに早く良くなるなんて……奇跡ですな」
 と、感心していた。
「ねぇ、マジックお兄ちゃん、ルーザーお兄ちゃん。お話聞かせてあげるよ。いいよね。ハーレム。あのこと言っても」
「あのこと?」
「ぼく達の中身が入れ換わってたこと」
「ああ」
 ハーレムが笑った。
「俺達の間には、信じられないことが起こったんだよな」
「そうそう、まずぼくがね……」
「いいんだよ」
 マジックが遮った。
「おまえ達が変だったのは、よく知ってる。けれど、喋りたいなら喋っていいぞ。私達は大人しく聞いているから」
 双子達は、夢中で話した。マジックとルーザーは、頷いたり、笑ったりした。

 さて、以下は後日談――
 サービスは結局『イーグルス』の入団を断念した。兄達がサービスの体を心配したのである。けれど、サービスは風邪すら滅多にひかない丈夫な子に育っていった。
 リリーとは、彼女がドイツの青年と結婚するまで、手紙のやり取りをした。
 数年後、マジック達の父親、クラウン率いるガンマ団はK国に宣戦布告をした。それによってK国と戦う為、マジックは帰っていった。
 ルーザーや双子達も、他の場所に行かなくてはならなくなった。
 大林留吉は、
「いじめられたらいつでも俺にいいな。一緒にやっつけてやろう」
 と約束してくれた。
 サービスは、
(野蛮なヤツ……)
 と思っても、大林の純粋な好意を嬉しく思った。
 ササキ先生とアライ先生は、一姫ニ太郎に恵まれた。
 イザベラは、四兄弟の家庭教師として君臨した。君臨、としか言いようがない。
 尤も、ルーザーとの場合は、ルーザーの方が頭が良かったので、時々講義を聞いたこともあるようだが。
 イザベラは四兄弟を大事にした。何故って――友人ジュリアの子供達だからである。
 さて――忘れてはいけない高松のことである。
 すっかりルーザーに心酔するようになった高松だが、双子達のいい友達でいることも忘れなかった。
 彼は、後にガンマ団士官学校に入学し、双子達や、ジャンと一緒に様々な経験をすることになる。
 ハーレムは途中で退学してしまって、ガンマ団に入団したのだが。
 彼らは――ジャンが死ぬまで幸せだった。
「えーっ?! 俺死ぬのーっ?! ひっでー!!」
 ジャンは永遠の命があるからいいじゃない。
「でも、サービスがいない世界で生きてくなんて嫌だ。ハーレムが死んだら張り合いがなくなるだろうし……」
 そりゃまぁ、確かに。
 チャンネル5で全ては明らかになるんだろうか……柴田先生、ジャンや高松の活躍を待ってますよ。
 さて……松村智子は……。
 松村智子は、定年退職するまで小学校の先生をしていた。
 言っておくけど松村智子と私は、似ているようで別人だからね。
 さぁ……後日談はこのぐらいにして。
 今まで読んでくれた方、どうもありがとう。
 私にとっては実験作だったこの話、私は楽しめたし、一応は成功したと思うけど――評価は読者であるあなた方に委ねます。
「私の出番が足りなかったじゃありませんか」
 まぁま、そう言うもんじゃないよ、高松くん。
 サービスとハーレムが入れ換わって、結構戸惑ったわね、最初は。
 うーん。スペースはまだあるのに、話が終わってしまったぞ。
 いや、話はまだ終わっていないんだった。
 サービスとハーレムは、これからすくすくと成長するのである。
 その辺については、また書かせてもらいますね。
 感想を寄せてくださった方々、どうもありがとう。
 特に、連載中コメントを書いてくださった風魔の杏里さんと山之辺黄菜里さんには、感謝してもし足りません。
 それから、柴田先生。魅力たっぷりのキャラクターを生んでくださって、ありがとうございます。
 私が中学時代、人生に絶望しなかったのは、柴田先生と同人界のおかげです。
 その中で、様々な体験をさせてもらいました。
 以上、私信も混じりました。
 いろんなことがあったけど、私、生きてて良かった。
 子供時代の双子が書けてよかった。
 人生は矢のように過ぎ去って行く。
 私は今年三十になります。
 教会の人達は、
「三十代は楽しいよ」
 と言ってくださったので、それを期待して生きて行きます。
 二十九歳でいるうちにこの話が完結して良かったです。
 三十路……人生に少し倦んでいても、その先の未来に希望を託せるほど、まだ若くもあります。
 若輩者ですが、皆様宜しくお願いします。
 それから――
 家族に感謝を!
 みんな揃ってハッピーエンド。
 そうなれるように、私、語り手Tomokoは今日も祈っています。

2011.6.24

BACK/HOME