SEIRIN☆文化祭 前編

「さぁー! 今年も誠凛高校の文化祭が近づいてきたわよー!」
 やたらと張り切っているのは、誠凛高校男子バスケ部監督の相田リコ。今年で高校三年生。女子高生(しかも可愛い)のカントクということで一部では人気が高い。部員達からはカントク、と呼ばれて慕われて(?)いる。
「何で、カントクが張り切ってんの?」
 と、一年。
「お祭り好きのカントクがこのチャンスを逃すはずはないっての」
 と、誠凛高校バスケ部主将の日向順平。
「一年と二年の時は悲惨だったからなぁ……模擬店でカントクが料理してて……」
 ちなみに誠凛バスケ部の模擬店は一昨年はカレー、去年はクレープで二年とも撃沈している。男子バスケ部の模擬店には絶対行くな、死人が出たようだぞ――それが誠凛高校の生徒達の間で広まっている噂らしい。
「カントクも料理さえ上手ならいい人なんだけどなぁ……」
 バスケ部のエース、火神大我が呆れたように溜息を吐いた。
「カントクもカレーだけはまともに作れるようになりましたよ」
 と、火神の相棒の黒子テツヤ。異様に影が薄い。
「あら。今年は模擬店はやらないわよ」
 あー、良かった。バスケ部員達――特に二年と三年はほっと安堵の息をもらした。
「じゃあ、何すんの?」
「……実は私、去年秀徳高校の文化祭に行ってるの――偵察を兼ねてね」
「あいつらは何やってたの?」
 三年の小金井慎二の目がきらりと光る。ちょっと猫っぽい。目も口元も猫っぽい。
「バスケのエキシビションとミニゲームやってたわ。なかなか好評だったの。緑間君の話では、秀徳は今年もそれで行くって」
 へぇ、秀徳やるなぁ、てか、カントクって緑間と仲いいんだ、カントクすげぇ……一年の部員達は一様に目を輝かせていた。
「じゃあ、オレ達もそれでいんじゃね?」
 と、小金井。
「ダメよ――それじゃ秀徳に負けちゃうじゃない!」
 リコの目は燃えている。
「つか、試合以外で勝っても意味ねぇよ」
 日向がツッコむ。
「そんな態度じゃ試合でも勝てないわよ――うちはもっとインパクトのある演し物をしないと!」
「何するんですかー?」
 二年の降旗が無邪気に訊く。
「私の水着姿の披露会! みんな私に釘付け! イチコロ!」
 リコがばぁん!と勝負水着を取り出した。
「さぁさ、クラスの模擬店の手伝いでもすっかー」
「オレ、演劇の大道具やりたいんだけどー」
 ぞろぞろと部員達が帰って行こうとする。
「ちょっと待たんかい!」
「は? 何?」
「『おおー!』とか『すげぇー!』とか、そんなリアクションないの?!」
「だってカントクだもんなぁ……いまいち盛り上がらねぇよ」
 日向はリコのことが好きらしいが、こういうところでは冷静な男だった。
「そっすね。桐皇の美人マネージャーならともかく……」
「あ、あのボインの」
「そうそう」
「やぁねぇ。水着お披露目はいくら何でもナシに決まってるじゃない。つか、アンタら私の水着姿はどうだっていいわけ~? 練習メニュー三倍にしてやってもいいけど~?」
 ――黒子が手を挙げる。
「あの……カントク、カントクの水着姿をみんなに見せるのはちょっともったいないので、他のことをするのに賛成です」
「そうね。黒子君の言う通りだわね」
 機嫌を直したリコが鼻歌を歌い始めた。さすが黒子……と、部員達の尊敬の目が黒子に集まる。
「黒子……お前なにげにすげーな」
 火神の台詞に、
「何のことですか?」
 と、黒子は平静な態度で返した。
「それにしてもイヤな予感がするな。……カントク、どんなことを考えているんだ? 今度こそ本当に大丈夫なんだろうな」
 日向の言葉にリコがふっふっふ、と含み笑いをした。
「実はもう準備してあるのよ……じゃーん! バスケ部の部員全員で女装ダンス!」
「はぁ?!」
「ちなみに私はカントク権限で出ないから宜しくね~」
(なっ……! カントクは女なんだから出てもいいじゃん! 水着よりマシだし!)
 しかし、相田リコには敵わない。皆は部室でドレスを着てお化粧することになった。
「……たく、何が悲しくてこんなカッコ……」
「あら、日向君、似合うわよ」
「うっせ! 似合ってたまっか!」
「そんなこと言うとメニュー三倍……」
「――すみませんでした」
 日向がリコに謝る。例え理不尽だとわかってはいても。皆は日向に同情した。大変だなぁ、主将も。確か日向センパイって、カントクの幼馴染じゃなかったっけ? 長い付き合いなんだなぁ……。カントクの性格についてはもう慣れてるのかな。
「できました」
「まぁ、黒子君、綺麗ね。お化粧上手じゃない」
「どうも……」
 あまり嬉しくなさそうに水色ドレスの黒子は言った。尤も、黒子はいつも無表情だ。彼を凝視していた火神が小声で、
「ワンダホー……」
 と呟いていた。火神は体格が良過ぎて赤いドレスがぱっつんぱっつんだ。
「火神君はあまり似合わないわね。また育った? でも、サイズがそれ以上のがなかったからねぇ……。伊月君はこんな服も着こなしちゃうなんてさすがね。――で、水戸部君が……化け物ね」
「…………」
 好き勝手顔をいじられ、散々な評価を与えられ、水戸部は気の毒だった。
「カントクー。降旗センパイがまだなんですけどー」
 一年の言葉にリコが頷いて答えた。
「降旗君にも女装させたかったんだけどね……なんか変な人召喚しそうで」

 その頃、洛山高校の赤司――
「くしゅん!」
「あら、征ちゃん風邪? 珍しい」
「ああ。実渕か。大丈夫。何でもないよ。――きっと降旗が俺のことを噂してるんだろうな」
 赤司征十郎は二重人格だったが、どちらの人格の赤司も降旗が好きらしい――閑話休題。

「あっ!」
 ビリビリ――と、火神の衣装が破けた。
「あーっ! それ高かったのにー!」
「すいません! カントク!」
「もう……ドレスの替えはないって言うのに……まぁ、火神君のサイズに合うもの見つけられなかったのは私の責任だけど。――私、料理と違って裁縫は得意ではないのよ」
 料理と違って? じゃあ、カントクの裁縫の腕はどんだけ酷いんだ? 部員達は思ったが、ツッコむのは止めにした。リコにツッコミを入れるのは日向の役目だ。
「じゃあ、今回はオレのダジャレひゃくれんぱ……」
「はいはーい。オレ、いいこと考えたんだけどー!」
「なぁに? 小金井君」
 伊月の意見をスルーして、リコは小金井に訊いた。
「ダンスがダメならマジックショーなんかどうかなー」
「そうねぇ……」
「で、トリが黒子のあの芸!」
「芸?」
 小金井はリコの耳元でこしょこしょと囁く。
「いいかもね! じゃあバスケ部の演し物はマジックショーということで!」
 部員達が嬉しそうに拍手をした。やった! これで家族を呼べる! ――黒子一人だけが訳がわからないというように首を捻っていた。小金井が早速打ち合わせの為に黒子に駆け寄った。

→後編へ

2015.9.18

BACK/HOME