SEIRIN☆文化祭 後編

「やぁ、お前も来てたのか。緑間」
 赤司が呼びかける。
「ああ……赤司。お前は京都からか」
 緑間が眼鏡のブリッジを直す。
「青峰君、早く行こ」
「あー、何か買ってくるわ」
 青峰と桃井のコンビも健在である。
「バスケ部はマジックやるんだって。楽しみっスね~」
 黄瀬は浮かれている。尤も、黄瀬は浮かれていることの方が多い。
「黒ちんもやるんでしょ? どんなのやるのかな~」
 秋田からわざわざやって来た紫原も、タコ焼きを頬張りながら喋る。図らずもキセキの世代全員集合となった。イケメン&美女に誠凛の生徒から「あれ、あれ」と指さされている。
「すごーい。あそこだけオーラが違う~」
「あの金髪の人、どこかで見たんだけど」
「雑誌じゃない? えー? 取材?」
「取材というか、何かのロケ?」
「やー、遅くなっちった。ごめんね、真ちゃん。――あれ? 氷室さん?」
「やぁ」
「室ちんも遅いよぉ」
 紫原が不満顔だ。
「ごめんごめん、アツシ。えーと、そっちは高尾君?」
「そうでっす。真ちゃんと一緒に来ました」
 因みに高尾の言う真ちゃんとは緑間のこと、氷室の言うアツシとは紫原のことである。高尾と氷室の登場に『イケメン増えたー!』と女子達は歓喜の声。
「お好み焼き四つな」
 青峰はそんな騒ぎを無視してお好み焼きを買っている。
「ちょっと青峰君食べ過ぎ……」
「いーだろ? オレの金で買ってオレが食うんだから」
「そうだけどさぁ……」
 キセキやその仲間達の近くに人が集まってきた。写メを撮る人もいる。桃井がびくびくしている。
「な……何なのこれ……」
「知らねぇよ。それより早く行こうぜ。バスケ部のマジックショーだっけ?が始まっちまう」
「うん!」
 体育館にも人が集まっていた。そして、バスケ部の出番。
 日向が観客にネタをバラされたり、これ、本当にマジックか?というのがあったり、火神が結構上手いハンカチマジックを披露したり、水戸部と小金井が器用さを発揮して案外好評を博したりしつつショーは進行し――
 いざ、大トリ!
「さぁ、最後に人間消失をやります! いいわね、黒子君!」
 司会のリコの言葉に黒子は、
「はい」
 と返事した。
「へぇ~、黒ちんが大トリかぁ」
 紫原が焼きそばを食べている。
「紫っちも食べ過ぎじゃないスか?」
「ああ……でも、もう注意するのは諦めたよ……」
 黄瀬の言葉に氷室が溜息を吐く。
「あ、真ちゃん。黒子が出てきたよ」
 高尾がはしゃいでいる。
「黙れ高尾。見ればわかるのだよ。お前が隣だと少々煩いな」
「またー、オレがいないと不機嫌になるくせに。宮地サンが言ってたよ」
「ふん……」
 何も言わずに緑間は眼鏡のブリッジを直す。どうやら思い当たるところがあるらしい。
「人間消失ってホントかな」
「さっきみたくタネがあるんじゃないの? ほら日向さん」
「ああ、あれはねぇ、日向さんには悪いけど面白かったよねぇ。マジックとは別の意味で」
 最前列の女の子が笑っているのを日向は舞台裏で聞いていた。
「くそ、ほっとけよ」
 真っ赤になる日向をまぁまぁ、と降旗が宥めている。
「タネも仕掛けもありません。今から黒子君が目の前から消えます。5……4……」
 黒子の輪郭がゆらりと揺れている。
「3……2……1……0!」
「消えたッ!」
「おおッ!」
「どんな仕掛けがあるの? じっと見てたけどわからなかった!」
「――わかるか? 高尾」
 緑間が訊く。
「うん。まぁね。オレ見えちゃってるし。本当にタネも仕掛けもないよ。ただ、黒子が消えたように見えるだけ。あーっ、オレも『黒子消えたー!』って大騒ぎしたかったなぁ」
「ホークアイもこういう時は不便なのだな」
「普段は武器なんだけどねぇ……」
 観客がざわめき出したその時、リコが言った。
「さぁ、お静かに。黒子君が登場します。黒子君」
「はい」
 皆は声がした方を振り向いた。するとそこには消失したはずの黒子テツヤが!
 ――ちなみに火神も一緒にいる。火神は黒子の手を取った。
 わああああああっ! ――と、館内は盛り上がった。
 リコが盛大な拍手を!という前に皆が拍手をしていた。
 バスケ部員全員がステージに上がってお辞儀をした。アンコールが鳴りやまなかった。
「ど、ど、どうしよう……アンコールなんて予想してなかったよ」
 小金井が焦る。福田が言った。
「降旗、カードマジックできるよな?」
「できるけど……緊張してあがりそうだよ~」
「いいから行ってらっしゃい」
「あ、降旗だ」
 赤司がパンパンと手を叩いた。
「あ、えーと、これからカードマジックをやります。お客様、誰か一人ステージに上がってもいいという人は手を挙げてください」
 何人かの人が挙手をした。勿論赤司も。
 あ、赤司もか~。スルーしたいけど、後が怖いし……。
「じゃあ、そこの赤い髪の人。赤司征十郎さん」
 彼を知っている人々が「赤司だ、赤司だ」と囁き合っている。――カードマジックは降旗がぎくしゃくしながらも成功させた。降旗はチワワみたいに震えていたくせにメンタルは結構強いらしい。
「割と面白かったね~」
 終った後、紫原がゆるく喋る。氷室が頷く。
「下らん茶番だったのだよ」
「そんなこと言ってぇ、真ちゃん、なんだかんだで結構楽しんでたくせに」
「黙れ高尾」
「黒子っち、文化祭の演し物でも影が薄いの逆手に取るなんてやるっスね~」
「黄瀬……んなこたいいからメイド喫茶行こうぜ。お前ここでもやってるって言ってたじゃん」
「まだ食べるの~?」
 桃井が青峰の旺盛な食欲に呆れている。赤司は降旗に会えたことで満足そうだった。

 舞台裏――。
「あの時は緊張したね~。まさかキセキのヤツらが来るとは思わなかったもん。特に赤司が来るとは……」
 と、降旗は後に語る。お疲れ様、とリコが部員達を労った。黒子君も大活躍だったわねと、ぽんと肩を叩く。黒子にしてみればいつぞやバスケ部の人々に見せた芸をやっただけなのだが。
 ――そして夕方。ファイヤーストームの周りでフォークダンスをして、今年の誠凛の文化祭は終った。黒子も火神と一緒に踊った。

後書き
ほんとにねー、これは楽しんで書いた!
前編も後編もね。
父に訊いてみたところ、最近の文化祭は夏休み明けにすることも多いんだって。原因は受験……。
――それでは、受験生の皆様も時には張り切って参りましょう!
2015.9.20


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