リコたんが緑間クンにデートを申し込まれた話

「だから! 一体だけって言ったじゃねぇか! カントク! 武将フィギュア折るの!」
「だって日向君今日試合でシュート二本落としたじゃないの!」
「一本だ!」
「二本よ!」
「あーっ! もう話になんねぇ! ちょっと外行ってくらぁ!」
「あっ、ちょっと日向君!」
 確かに二本だったと思ったのに……。
「ふん、話になんないなんてそれはこっちの台詞よ」
 カントク――相田リコは溜息を吐いた。

「相田さん!」
「緑間君?!」
「ちょっと話いいだろうか」
 緑間が自分を訪ねに来たこと自体驚きなのに、話があるというのだ。
(――練習試合の申し込みかしら。でも、そしたら秀徳の監督が来るはずだし……)
 取り敢えず、別の場所に連れて行った。
「今度の日曜、一緒に散歩に行きませんか?」
 ――はい?
「散歩って、散歩?」
「ああ」
 どうしよう……。
 緑間君はキセキのNo.1シューターだ。彼の様子を見ていればシュートの秘密が何かわかるかもしれない。
「――いいわよ」
 リコは緑間の申し出を受け入れた。待ち合わせ場所を決めると、緑間は言った。
「日曜日、楽しみにしているのだよ」
「ええ」
 緑間が去ると草むらから黒子が、がさっと姿を現した。
「く……黒子君?!」
「話は聞きました。モテますね、カントク」
「そんな話じゃないわよ。ただの散歩よ。さ・ん・ぽ」
「緑間君は本気です」
「はぁ、何が?」
「緑間君はカントクのこと好きなんですよ」
「え、ええええええっ?!」
「日向センパイのことがなければ、僕も緑間君の恋を応援したいのですが」
「なっ……! あ、私は……別に、日向君なんて……!」
 それに、日向君とは昨日ケンカしたばかりだし……。
「まぁ、緑間君は緑間君で、他に気になる相手もいるようですし」
「そう、そうよ! 緑間君、モテそうだもの!」
「カントクだってモテますよ」
「あ――ありがと、と言っておくわ」
「この間会った時、緑間君、中学時代より生き生きしてしていましたからね。恋の力でしょうか。――僕も一緒に行きたいところですけど、その日は約束があるんですよねぇ……」
「てゆーか、ついて来るつもりだったの?!」
「はい。面白そうですから」
「いいこと?! これは敵情視察よ。緑間君の秘密を握っておけば、後々作戦も立てやすいでしょ?」
「はぁ……そういうことにしておきます」
 そういうことにしておきますって何よ!
「日曜日、がんばってください」
 何をがんばれって言うのよ。
 でも、黒子の言わんとしていることは、リコにもわかった。
「ま、せいぜいがんばってくるわ。敵情視察をね!」

 そして、日曜――。
 リコは、黒子の台詞が気になったわけではないが、一応お洒落をして行ってみた。
 リコの父、相田景虎が、
「リコたんデート?! 相手は誰だ?! ぶっ殺す!」
 と喚いていたのをリコは母と一緒に止めたのだった。緑間が殺されては敵情視察どころではなくなってしまう。
 待ち合わせ場所にはかなりかっこいい、背の高い男性が立っていた。道行く女性達はひそひそと噂し合う。
 眼鏡にあの緑色の髪は――。
(緑間君?!)
 急に心臓の鼓動が早くなった。
 な、何よこれ――。これじゃまるで、デートみたいじゃない……。
(黒子君の言った通りってわけ?)
 落ち着け、落ち着け心臓――。
 リコは深呼吸して落ち着きを取り戻すと明るく言った。
「お待たせ~」

 緑間とのデート(としか言いようがない)は楽しかった。
 緑間が時々他の人を思い出したりしている風な様子を見せたり、リコ自身、日向のことを思い出したりさえしなければ。
(日向君……)
 やっぱり、謝ろうかな――。でも、確かに落としたシュートは二本だったし――。
(はっ! なに日向君のこと考えてんのよ、私のばかばか!)
 今は――緑間君のことに集中しなきゃ。こんなに至近距離で彼のシュートが観察できるんですもの。
 リコは笑った。どこかにぎこちなさはなかっただろうか。
(それにしても――相変わらずすごいシュートね。あんな動き辛そうな服着てるのに――)
 ハイタッチしようとしたリコが転んだ時も緑間は優しかった。テーピングは自分でもできるが、今回は緑間にやってもらった。
 チキッ! リコの目が光った。
(うーん。やっぱりすごい体格ね。パワーもありそうだし。服の上からじゃよくわからないけど……)
 けれど、緑間にいきなり脱げというわけにはいかない。
 緑間はリコの為にシュートを撃ってくれた。
(ほーんと、落ちないわねぇ。どっかの誰かさんとは大違い――)
 その『どっかの誰かさん』のことを思い出した時、ずきり、と胸が痛くなった。
(な……何で日向君のことを思い出すのよ!)
 しっかりして相田リコ! 緑間君の方が日向君よりよっぽどいい男じゃない。
 そうは言っても――リコは日向のことを忘れることができなかった。
 リコは、あの武将フィギュアを巡ってのケンカ以来、日向とは事務的にしか話していない。日向にとって、武将フィギュアの問題は大事だってわかってはいるけれど、やはり少し寂しかった。
 決めた。私、日向君と話し合う!

 緑間から告白されたが、結局フッてしまった。けれど、緑間は紳士だし、いい男でもあるからすぐに恋人ができるであろう。
(というか、黒子君も緑間君には好きな人がいるようだって言ってたし)
 家から帰ると、景虎が苦虫を噛み潰したような表情で待っていた。
「リコ……プッツンメガネが来てるぞ」
「日向君が?!」
 だだっと居間に向かうと、
「あ、お帰り」
 と、日向が手を挙げた。
「日向君?!」
「あのさ――オレ、勘違いしててさ……やっぱり――あん時落としたシュートの数、二本だったわ。わり」
「日向君……」
 どうしよう。涙が出てきそう。
「私の方こそ――よく確かめもしないで折ってごめんね」
「いや、それはオレが――」
「わかってる。私にはゴミでも、日向君にとって武将フィギュアは大事なものなのよね」
「ゴミってオマエなぁ……まぁ、いいや」
「そんで――謝りに来たの?」
「ま、そーゆーこと」
 リコは、この間のケンカのことなんてどうでも良くなってしまった。
「い、いいわよ。そんな……謝んなくたって……それより、お茶、飲む?」
「――コーヒーでいいよ。オレが淹れる。カントクも飲むか?」
「うんっ!」
 物陰から様子を見ている人物が二人。リコの母と父だ。
「やっぱり日向君とリコはお似合いね」
「プッツンメガネ……後で殺す!」
 景虎が壁に爪を立てながら物騒なことを呟いていたのを、リコと日向は知らない。

後書き
『緑間クンがリコたんに恋する話』、リコバージョンです。
日リコが前提です。
緑間には高尾がいます!(笑)
2014.5.11


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