OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 7

「これはこれは。ようこそ。菊さん」
「お父様」
 グンマが振り返る。菊は、恋人と会えた喜びから現実へと引き戻された。
「お久しぶりです。マジック総帥」
 菊がマジックと握手を交わす。
「おいおい。総帥はよしてくれ。今は現役を退いているんだ。――シンタローは来られないと言っていた。残念がってたよ」
「いいですよ。シンタロー様はお忙しいでしょうから」
「カナダの危機だと言うのに、すまないね」
「いえいえ。青の一族の力を貸していただければ」
「ああ。もう全員来ているよ。皆さんもどうぞ。時にアルフレッドくん」
「は……」
 アルフレッドは息を呑んだようだった。彼らしくもなく。
「大統領によろしく伝えておいてくれ」
「わかりました」
 アルフレッドはよそ行きの口調で答えた。

「それでは、これより緊急会議を行う。議題はK国の制圧についてだ」
『G』のロゴを六茫星で囲んだ、赤が基調の旗を壁に飾った会議室――。マジックが最高責任者の位置についている。青の一族と、マシュー達擬人化された『国』。これだけ美形が並ぶと壮観であった。
「それでは、まず初めに自己紹介と行こうか――」
 青の一族の共通点は、皆金髪碧眼であることだ。彼らがひとわたり自己紹介した後、『国』の化身達の番となった。
「アメリカのアルフレッド・ジョーンズです」
「イギリスのアーサー・カークランドです」
「イギリス?」
 それまで退屈そうに聞いていた青の一族の三男坊、ハーレムが、眉を吊り上げる。決して怒ってるわけではないのだが。
「俺と同郷じゃねぇか」
「そうなのか?」
「俺達も、元はイギリス貴族の血をひいているんだよ」
「へぇ……とてもそうは見えませんね」
「何だと?! このガキ」
「おまえらがイギリス人だと言うなら、もっと俺に敬意を示せ。それに俺はガキじゃねぇ」
 アーサーとハーレムが睨み合った。お互い、(気に食わんヤツ)と思いながら。
「やれやれ。また始まったよ」
 アルフレッドのぼやきに、ハーレムの双子の弟サービスがくすくすと笑った。
「大変だね、君も」
「サービスさんの方が大変そうなんだぞ」
「慣れてるからね」
「俺も、慣れてるぞ」
 会議はフランクなものに代わって行った。イヴァンなど、どこから持ち込んだのか、お菓子をさくさく食べている。
「あー、静かに。マシューくん――ひいてはカナダ国民の命が関わっているんだからな」
 マジックが仕切る。この分なら安心だと、ルートヴィヒは司会進行を彼に任せる。
「私達は、マシューくんを守る為に、全面的に協力することを約束する。おまえ達に異存はないか?」
 マジックは自分の親族達を見遣る。
「賛成」
「ま、しゃあねぇか」
「俺も、異議はない」
「だいさんせ~い!」
 サービス、ハーレム、キンタロー、グンマの順で応えは上がった。
「すみません……コタロー様が大変な時に」菊が言った。
「いいんだよ。時期が来たら、自然に目覚めるだろうからね」
 マジックの口元が綻んだ。
「おい、兄貴……この男にそんなことまで喋ったのかよ」
「喋ったのは僕だよ~」
 ぽわぽわ~とグンマが言った。
「えーい。自慢になるか」ハーレムが不機嫌そうに言い放った。
「えぇと、私達のことはどのぐらい知っているかね?」
「以前は、暗殺集団として恐れられていたこと。シンタロー様が総帥になられて平和への第一歩を踏み出したこと……」
「あれには、あいつの影響があるな」
 マジックの顔が、苦笑いに変わった。
「噂をすれば何とやらだ」
 重厚な扉が開いた。
「こんにちは。マジックに会いに来たんだけど……」
 今日の天気はどうだった、ガンマ団の団員はああだった、それにしても大勢集まって何してるんだ、ああ、みんなでこっそり旨い物でも食おうと思ってたんだね、ずるいぞ、ねぇ君、一体何を食べてるんだい? オチ? 旨いのかい?
 などと、マシンガントークを発した長い黒髪の男は、マジックに止められた。
「挨拶したらどうだ? ジョン」
「あ、皆さん。初めましての方が多いようだね。ジョン・フォレストと言います。ジョンで結構だよ。趣味は……」
「わかったわかった。おまえには千も万もの趣味があるからな。肩書きと同じように」
「俺は肩書きにこだわるヤツはあんまり頭が良くない――つまりバカだと思う」
「じゃあ、なんでそんなに肩書きを集める」
「趣味さ」
 ジョン・フォレストは肩を竦めた。
「初めまして。ジョン・スミスです。同じジョンのよしみで仲良くしてください」
「おお。おまえ、アメリカ人か?」
「そうです」
「アメリカ人にはジョンが多い。犬も歩けばジョンに当たる」
「人のことは言えないでしょう」
「もちろん、偽名さ。本名は秘密。いろいろ裏で悪いことしてっからね」
 これにはジョン・スミスも苦笑した。『裏で悪いことやってる』と堂々と言うところに。
「俺も陰で悪いことをやってる。スパイだからね」
 ジョン・スミスはこう返した。
「ほうほう。仲間だね。どんな悪いことしたのかは言えんのかね?」
「言えません。守秘義務がありますから」
「そういや、俺も言えないな。カウンセラーにも守秘義務があると言うことだが、君はアメリカのカウンセラーかね?」
「そんな仕事は請け負ってません」
「俺は趣味でカウンセラーもやってる。同時にスパイもな。それから……あ、マジックが睨んでる。この辺で止めた方がいいかもしんない。俺の話は長いから」
 ジョン・フォレストがおかしそうに笑う。
 そして訊く。「で、何の会議?」
「おまえのせいで会議が踊るところだったが……」
 マジックの言葉にルートヴィヒがぴくっと反応したが、相手は気付かなかったようだ。
「K国制圧の話だ」
「制圧?」
 ジョン・フォレストが陽気な仮面を脱ぎ棄て、うろんそうに眉を顰める。
「制圧ってことは……戦争か?」
「そうなるかもしれん」
「戦争は反対だ。俺の恋人も戦争で死んだ。フローラのオヤジもオフクロも、じいさんも」
 ジョン・フォレストは一瞬追憶に浸るかのように遠い目をしてみせると、一気に怖いものになった。
「おまえの戦争アレルギーは重々承知だ。それに、今回はおまえの助けは求めない」
「戦争なんか引き起こしてみろ。俺とシンタローとで止めるかんな」
「ああ。このK国への報復措置に関しては、私の独断で決める」
 マジックも怒りの表情を露わにした。さっきまでの温厚な紳士の態度とは、全く別物だった。
「なんせ、私達は――青の一族は、長い間K国の人間兵器として利用されていたのだからな」

後書き
ジョン・フォレスト、オリジナルキャラクターです。またオリキャラ出してしまいましたよ(汗)。

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