OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 6

 お天道様が中天にさしかかろうとしている。その下で聳え立つのは、黒く禍々しい要塞。
 マシュー達は、菊に案内されて、ガンマ団に向かっていた。
「暑いねー」
「これからもっと暑くなるんじゃね?」
 修学旅行気分が一掃しきれないメンバー達だった。だが、その中で、フランシスだけが元気がない。
「あの……どうしたんでしょうね、フランシスさん」
 マシューがアルフレッドの耳元で囁いた。
「知らないよ。自分で訊いてみたら?」
 アルフレッドの答えは素っ気ないものであった。
「フランシスさん、フランシスさん……」
 マシューが呼びかけた。
「一体どうしたんです。いつもひまわりのようなあなたが、こんなに暗くって……」
「俺だって、落ち込むことはあるさ。なんか、嫌な予感がすんだよね」
「嫌な予感?」
「はっきりとはわからないけれど」
 そこで、フランシスは、はぁぁっと、盛大に溜息を吐いた。
「菊ちゃーん。おーい!」
 団の正面玄関の前で、グンマ博士が待機していた。――変てこりんな機械に乗って。
「お久しぶりです。グンマ博士」
「おい、ありゃあ、何なんだい?」
 ギルベルトがルートヴィヒにそっと耳打ちする。
「聞かない方がいいと思うぞ。兄さん」
 だが、その彼らの逡巡を、菊はあっさり蹴散らした。
「また発明品ですか?」
「うん。スワン号の試作機だよー」
「また変なもの発明して……」
 頭が痛いとでもいう風に、菊はこめかみを押さえた。
「変かなー。俺、とってもかわいいと思うよー」
「どこがだよ! このバカ弟! ケ・バッレ!」
「ロヴィーノ。あんまり下品な言葉使うのはやめようや、な?」
 アントー二ヨがロヴィーノを諌める。
 だが、具合の良いことに、グンマには、フェリシアーノの褒め言葉しか耳に入らなかったらしい。
「なかなか優れたセンスの持ち主だね。君は。名前はなんていうの?」
「俺ー? フェリシアーノだよー」
 ぽわ~ん。辺りにほわわんとした空気が流れた。
「おお……」
「おお……」
「何か、君は他人とは思えないよ」
「俺もだよー」
 そう言って機械から降りたグンマとフェリシアーノは抱き合った。ハグである。
「グンマ博士とフェリシアーノ君はさぞかし話が合うでしょうね。馬鹿者……いえ、若者同士」
「菊、今、馬鹿者って言わなかったか?」
 そう訊いて来たアーサーに、「気のせいでしょう」と、笑顔で返す。
「あ、そうだ。菊ちゃん。お客さん、来てるよ。さっき着いたばかり。驚くよ」
「はいはい。今度はなんでしょうねぇ。老体を驚かせようとするのは、あまりいい趣味とは言えませんよ」
「なんか、菊ちゃんの喋り方って、高松みたい」
「あんな鼻血まみれの変態のどこが……」
「菊」
 菊の文句を、ある声が遮った。
「え……この声は……」
 いや、もしかして、でも……。ああ、そうだ。ギリシャ大使館とここは、そんなに離れていなかったはず。
 ということは、これは空耳ではありませんね。
「ヘラクレスさん」
 風がさぁっと吹いた。ヘラクレスが正面玄関から出て来た。
「菊!」
 そう言って、ヘラクレスは駆け寄ってきた。今度は菊とヘラクレスが熱い抱擁を交わした。熱烈な恋人同士のそれである。
「あ、あー……目のやり場に困るんだぞ」
 アルフレッドが呆れている。
「兄貴! 俺達もやりましょうぜ!」
「断るある……全く、菊もこんな衆人環視の中で」
 ヨンスに詰め寄られる耀は真っ赤な顔をしている。
「嫌だねー。あんな恋をするのは、俺と耀さんしかいないって決まってるのにね」
 ジョン・スミスがにじり寄る。
「離れるある。鬱陶しい!」
「そうなんだぜ。ジョン。大体、兄貴と俺は長い年月の間愛を育んできたんだぜ。兄貴の起源は俺なんだぜ」
「出たよ。ヨンスの起源説」
 アーサーがあーあ、と言うような表情だ。それに、前にも同じようなこと言ってなかったっけ?
 下手をするとこの地球まで、『俺が起源なんだぜ』と言い出すかもしれない。だが、ジョン・スミスも負けてはいない。
「俺、前世は耀さんと恋人同士だったんですよ、きっと。ハートにビビッと来ましたもん! ねぇ、耀さん、今生でも結ばれましょうねぇ」
「兄貴と結ばれるのは、俺なんだぜ!」
「いーや、俺でしょう!」
「いい加減にするあるー」
「なんなんでしょうね。あの人達……」
 ふと、我に返った菊が、耀達の方を見た。
「さぁ……わからないけど……俺、菊に会えて嬉しい」
「私もですよ。ヘラクレスさん」
 そこで、二人は熟れたトマトのように真っ赤になって俯いた。
「あーあ。熱い熱い熱いんだぞ。菊、今日はスイートルームを頼むよ。二人部屋」
「二人?」
「泊るんだよ。アーサーと二人で」
「お、おいおい」
 アーサーが止めようとする。が、アルフレッドは聞いてはいない。
「フェリシアーノ……その、なんだ?」
 ルートヴィヒがフェリシアーノに声をかける。
「おまえ、まだ部屋が決まってないんだったら、その……」
「あー。ルート、フェリちゃんといちょいちょしたいのかー」
「なっ! 兄さん! そんな露骨な……」
「俺達別に構わねぇよ、なぁ」
 ギルベルトが、ローデリヒとエリザベータに意見を求める。
「私は貴方と相室というのはちょっと……」
「私もローデリヒさんと一緒がいいです」
「なんだよぉー。俺だけハブかよー」
 ちぇちぇちぇのちぇー、とギルベルトは悔しそうに言った。
「ま、仲間に入れてあげてもいいわよ。昔のよしみでね」
「まぁ、仕方ないですね」と、ローデリヒも渋々従った。
「ああ、あの頃のエリザベータ、おまえ超野蛮だったよな……」
 ギルベルトがケセセセ、と笑う。すると、エリザベータはどこからか出してきたフライパンでスパコーン、と彼を叩いた。
「素直に感謝しなさい」
 鼻血を出したギルベルトは、大人しく「はい……」と言った。(おまえ、昔より野蛮度超あがってるぜ!!)と思いながら。
「まぁまぁ、ここでお部屋は用意したから……」と、何とかこの場を収めようとするグンマの働きは、全くの徒労に終わるのである。

後書き
ははは。またカップリング話ですねぇ。
これからどうなるか、私も楽しみです。
ギルベルトには「一人楽し過ぎるぜー」と言って欲しかった……(笑)。
この話は、ずーっとずーっと書きたいな。

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