OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 4

 フランシスがマシューの部屋の前に行くと、黒服の男達が累々と横たわっていた。
「うへえ、こいつはすげえ」
「よっ、フランシス」
「アントーニヨ」
 アントーニヨは、黒い髪を緩くカールさせた、陽気なスペイン人である。
「やっぱりこいつらの目当てはマシューか……」
 フランシスは顎に手を当てて、考え込んでいた。
「でも、俺らでやっつけたんやで~。な、ロヴィーノ」
「まあな」
 ロヴィーノと呼ばれた青年が答えた。フェリシアーノによく似た彼だが、目つきと、くるんの位置が違う。
「俺の方が倒した敵の数が多いけどな」
「はいはい。そういうことにしといたるわ」
「そういうことってなんだ! そういうことって!」
「んなこと言ってる場合じゃないだろ。マシューは?」
 フランシスが訊くと、
「寝てるで」
 とアントーニヨが簡潔な答えを返した。
「寝てるだぁ?!」
 フランシスが思わず素っ頓狂な声を上げた。
 鍵を開けてもらって、マシューのところに行くと、彼はアントーニヨの言った通り、眠っていた。
「あらら。ほんとに寝てるよ。天下太平だねぇ」
 意外と図太い神経の持ち主なのかもなー、と、フランシスが考えていた時だった。
「ん……ジョーンズ……」
 その名前を聞いて、フランシスはかっとなった。
「マシュー!起きろ!」
 そう言って、フランシスはマシューを揺さぶった。
「ん?何?」
 マシューは寝ぼけているようだった。
「さっきおまえジョーンズって……あいつの夢を見ていたのか?!」

「え?ジョーンズ……ああ、僕の友達のことですか」
 マシューはくすくすと笑った。
「な……何がおかしい」
 フランシスが動揺した。
(あなたに妬いてもらえるなんて嬉しいです)
 マシューは思ったが、口には出さなかった。
「ジョーンズは人でも国でもないです……ドラゴンに似た子供の怪獣ですよ」
「ジョーンズという名前はどこから?」
「ああ、僕がつけたんですよ」
「……どうせならお兄さんの名前をつければよかったのに」
「ごめんね」
 そう言って、マシューはまたくすくす笑った。
「何がおかしいんだい?」
「だって……フランシスさん、子供みたいでおかしくて」

「子供……か」
 フランシスは面白くなさそうに言った。みんなのお兄さんを名乗っている彼としては、子供扱いされたことが心外だったのだろう。マシュー相手でも。いや、マシュー相手だからこそ。
 マシューは守らなければならない存在なのに、子供扱いされては世話はない。
「お兄さんにとっては……マシューの方が子供みたいだよ」
 フランシスは、ぎゅっとマシューを抱いた。こんなに愛しい存在に出会えたのは初めてだった。マシューもうっとりと、フランシスの抱擁に身を委ねる。彼らはしばらくそうしていた。
「おーい、二人ともー」
 アルフレッド他、会議に来ていた面々は、マシューの部屋に来た。
「お暑いところ、失礼しまーす」
「帰れ」
 フランシスがドアを指差した。
「そりゃないだろ。会議の結果伝えに来たのに」
「どうせローデリヒのショパンだろ?」
「んなわけないだろ」
 エリザベータが、
「ローデリヒさん、形無しね」
 と言った。
 ローデリヒは、拗ねたようにそっぽを向く。
 イヴァンはきょろきょろと辺りを見渡す。
「なかなかいい部屋だね」
「だろう?俺の国で一番のホテルだからな」
 アルフレッドが自慢げに言った。
「いずれアメリカも欲しいなあ」
 イヴァンは『征服』とは言わない。しかし、それが征服のことなのは、誰にとっても確かなことだった。周りの温度が数度下がった。
「でも、警備は手うすじゃねえか」
 アーサーが指摘した。
「むろん、並の警備員では歯が立たないだろうから、アントーニヨに守りを固めてもらったのさ」
 アントーニヨがピースした。ロヴィーノが、自分も構ってもらいたそうに睨んでいる。言い負かされて、アーサーは悔しそうな顔つきになった。
「兄ちゃん!」
 それに応えたのはロヴィーノの弟、フェリシアーノだった。
「ヴェー……大丈夫だった?兄ちゃん」
「大丈夫だよ、あんな奴らに俺を何とかできるわけねぇだろ? このバカ弟が!」
 バカ弟と言いながらも、その台詞は照れ隠しにしか聞こえない。そばでアントーニヨがニヨニヨしている。
「そんでさあ、話し合いの結果、K国に殴り込みに行こうという結論になったんだよ」
 ギルベルトがずるそうな笑みを浮かべながら伝える。
「兄さん……まだ殴り込みと決まったわけでは……」
 ルートヴィヒが口を出す。
「あーん?ヴェスト。殴り込みも同然じゃねぇかよ」
「K国に交渉に行くだけじゃないか」
 ルートヴィヒは、ギルベルトの言葉に溜め息をつきながら反論した。
「ちっともまとまってねぇな、おまえら……」
 アーサーの言う通りである。
「その前に、日本に行くことも決定しましたが」
 菊がおっとりと告げる。
「日本に知人がいましてね。多分今回の戦いの参考になるかと」
「そんな悠長なことしている場合かね」
 フランシスが首を捻る。
「菊なんかの言うことなんか聞かないで、早くK国行くんだぜ!」
 イ・ヨンスがせっつく。
「俺もマシューさんが心配だな。こっちがK国の企みに気づいたからには、奴らもうカムフラージュなどしないに決まっている。直に彼に向かってくるぞ」
 と、ジョン・スミス。
「おお。初めて意見が合ったんだぜ」
「そうだな。でも、耀さんは俺のもんだ」
「いいや、馬鹿言うな、なんだぜ。俺のに決まってるんだぜ」
「まだそんなこと言ってるあるか!」
 耀が呆れている。
「まあ、お待ちなさい。焦ったらろくなことないですよ」
「しかし菊。目算はあるのか?」
 アーサーが尋ねる。
「なかったらこんなこと意見したりはしませんよ。それに、私には日本にいろいろ秘密の場所がありますからね」
 菊が、「内緒」とでも言うように唇に人差し指を当てる。
「知人は今はガンマ団の日本支部にいるんですよ。電話お借りしますね」
 マシューの部屋には電話があった。菊は電話番号を押す。

「もしもし」
「もしもし、グンマ博士お願いします」
「どなたですか?」
「あ、失礼。日本の本田菊と言えばわかります」
「あ、菊様ですか。少々お待ちください」
 その間音楽が流れる。
「はーい、菊ちゃん」
「お久しぶりです。グンマ博士。元気でしたか?」
「うん!ところで、何か用なの?」
「友人の危機なんです!」
 菊は語気強く言った。
「友人って僕のこと?」
 マシューがのんびりと言った。
「あっ、ご迷惑でしたか?」
 菊が柄にもなく慌てた。
「ううん、嬉しいよ」
「マシューさん……」
 二人の間にほんわかとした空気が流れた。
「菊ちゃん。誰と話してんの?」
「いえ、こっちのことです」
 菊は、会議のこと、K国のこと、そしてマシューの危機のことを手短に話した。
「K国か……」
 グンマの声が厳しくなった。
「僕の一存では決められないから、お父様達に相談していい?」
「どうぞどうぞ。マジック様達にもご出動願えましたら。それから……私も近々日本に帰ることになると思いますが」
「わかった~。みんなで出迎えてあげる~」
 グンマが嬉しそうに言った。
「もう電話切ってもいいですね」
「うん、またね~」
 菊が電話を切った。
 フランシスが訊いた。
「なあ、日本の知り合いって……グンマとか言ったっけ? 大丈夫なのか?」
「大丈夫です!」
 滅多に断言しない菊が断言した。
「頭は軽そうに見えますが、中身はしっかりした青年です。マジック様の実の息子でもありますし」
「あれ、マジックの息子って、シンタローじゃなかったっけ? グンマもそうだったのかい?」
 アルフレッドが質問する。
「トップシークレットですよ。あの人達もいろいろややこしいですからね」
「ふぅん……」
 アルフレッドは、それ以上追求しなかった。

後書き
携帯で書いた為、ちょっと長くなりました。

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