OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 36

(ここは……どこ……?)
 気がつくとマシューは、真っ暗な闇の森の中にいた。葉がさやさやと揺れる。その木々の葉に、炎が移って燃え広がる。
 これは……ジークフリードの愛と死で燃え広がる炎ではないのか……?
 マシューの頭の中に、突然そんな考えが浮かんだ。彼もその話は少しは知っている。
 自分の涙で目覚めると、心配そうにフランシスが顔を覗き込んでいた。
「大丈夫か? マシュー」
「うん……うん……」
 マシューはフランシスに抱きついた。
 あの夢は何だったのだろう――。
「マシュー。君はトリップしてたんだ。あれが君の中のワルハラだ」
 ジョーンズの声が聴こえる。
「あれが……ワルハラ……」
 そうだったのか。しかし、あまり体験したいものではない。ちょっと背筋が寒くなる。
「ワルハラはいろんな次元に存在しているからな。俺達もワルハラを見た」
 ソレイユの台詞も聞かず、マシューは、
「フランシスさん――」
 と呟き、抱きつく手に力を込める。
「はいはい。マシューは甘えんぼだな。坊ちゃんの小さい時を思い出すよ」
「君、そんなだったのかい?」
 アルフレッドがアーサーに訊く。
「昔のことは忘れたよ」
 アーサーはふっと鼻息を飛ばす。
「やれやれ。それにしても、これで一件落着だな」
 ジュダの声がする。
「ジュダ……何か透けてるんだぜ」
 ヨンスが指摘した。
「ああ……俺の体はもうもたないらしい」
「そんなっ! 何言ってっ! アンタK国を建て直すんじゃなかったの?!」
 エリザベータが詰め寄る。
「うん。そのつもりだったんだけどさぁ……だめみたい……」
「そんな……行かないで、ジュダ」
 フェリシアーノも泣いている。
「行くなある! 皆の為に!」
 耀も必死だ。
「うーん。耀さんの為になら、是非ともここに留まっていたいんだけどねぇ……俺は、アポロ―ニャのところへ行くよ……」
 ジュダの体がますます透けて、光って映る。そして――彼の姿は消えた。
「ジュダーーーーー!!!!」
 ヨンスが叫んだ。
「ヨンス……もうジュダは戻って来ない」
 ジョン・フォレストが暴れるヨンスを抱きとめた。
「わかってるけどさ、こんなのってねぇぜ! あいつとは、また喧嘩したり、耀兄貴を取り合ったりしたかったんだぜ!」
「ヨンス……我の人権はどうなるある……」
 けれど、そんな口をきく耀も泣いていた。
「ジュダ……スパイだったけど、悪い奴じゃなかったのにな……」
 アルフレッドがぽつりと言った。
「ジュダ……アポロ―ニャに会えるといいな……」
 ジョン・フォレストが涙を一筋、こぼす。
「おまえら、よく平気なんだぜ!」
 ヨンスが泣きながら怒鳴った。
「けれど……ジュダにとっては、アポロ―ニャと一緒にいた方が幸せなんじゃないかな。俺もちょっと……気持ちわかるんだ」
 と、ジョン・フォレスト。
「けれど――K国はどうなるんや?」
「もうなくなるんでしょうねぇ」
 アントー二ョとローデリヒが話を交わす。菊とヘラクレスが無言で頷いた。
「なくなったら消えるのが俺達『国』の化身の運命だからな」
 ギルベルトの言葉に、辺りはしんとなった。ルートヴィヒも、イヴァンも、トーリスも、ロヴィーノも――フェリクスでさえも神妙な面持ちで黙っていた。
「そうですね……」
 空返事をしてマシューは上を見上げた。
 ジュダと黒髪の美女の笑顔が映っているような気がした。
 空は、真っ青だ。どこまでも、真っ青だ。
「もうすぐワルハラに到着します」
 ジョーンズが教えてくれた。
「え? でも、ワルハラは僕の夢の中で――」
「ワルハラはどこの次元にもあるんだよ。俺達が行くのは――この次元でのワルハラだ……」と、ソレイユ。
 彼らはワルキューレの案内によって、ワルハラへと着いた。
 そこでの光景は――筆舌に尽くし難い。ただ、とても美しいところだったと言っておこう。
 そしてそこで、彼らは――ジュダとアポロ―ニャに再び会った。しかし、彼らはもうここからは出られない。
 それでも幸せだ――と、ジュダは言った。本当に幸せそうであった。国達は別れを惜しんで彼らと抱き合った。

「やぁ、君達。無事だったかい?」
 マジックが声をかけた。マシュー達はガンマ団に帰ってきていた。
 二匹のドラゴンのことも話した。マジックは、
「本当にいたんだ。噂だけは聞いたことはあるがねぇ」
 と、感慨を込めて答えた。
 K国はもう既になく、領土はガンマ団のものとなった。
「今日もここに泊って行くかい?」
「そうしてもいいですわ」
 エリザベータが愛想良く笑う。
「俺はもう行くよ」
 ジョン・フォレストがずた袋を背負う。
「何で? 来るなと言っても来るおまえが」
 マジックが不思議そうに首を捻る。
「その代わり、帰るなと言っても帰るだろう、俺は――中東の方へ旅しようと思ってな」
「そうか――元気でな」
「おまえこそ」
 ジョン・フォレストは手を振った。そして、姿を消した。
「ドラゴンか……一度お目にかかりたかったぜ」
 ハーレムがライターで煙草に火をつけた。ドラゴンを見たい――それは、男なら誰でも一度は見る夢に違いない。
「後でお話しますよ」
「おう。菊。頼むな」
「はい。でも――あんなところが本当にあるとは思いませんでした」
 そして、菊は回想を楽しむように溜息を吐いた。
 その他の国々も、ガンマ団の建物の中に入って行った。

「マシュー。二匹もドラゴンを抱えて、この先何とかやってけそうか?」
「心配ありません。フランシスさん」
「そうだな。おまえさんは強いからな」
「ありがとうございます」
 言われ慣れていないことを口にされマシューは少々照れた。外見は弱そうだが、中身は強い国、それがマシュー――カナダであった。
 フランシスはマシューの髪をわしゃわしゃと撫でると、額にくちづけた。

後書き
次回は後日談。
2012.3.30
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