OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 37

 昼下がり――
 アントー二ョとロヴィーノはバッシュと一緒に屋外でティータイムを楽しんでいた。
「我輩がいない間にそんな冒険談を――」
 バッシュが不服そうに眉を寄せた。仲間外れにされたようで悔しいのであろう。
「そんないいもんじゃなかったぜ。ジュダは消えるしな。これからは恋人と一緒にずっとワルハラにいるんだと」
 ロヴィーノはむしゃむしゃお菓子を食べながら喋る。
「でも、あんなドラゴンの背に乗ったのは、初めてやったなぁ」
 と、アントー二ョが食べる手を止めて遠くを見つめる。
「ああ、あれは壮大だったな」
 ロヴィーノが答える。
「何だかんだ言って楽しんだみたいであるな」
 バッシュの声に怒気が籠っている。
「もういい! 我輩は家族と話すのである!」
 バッシュが家の中に入って行く。バタン!と乱暴に扉を閉めて。
「どうしたんだ? バッシュの奴」
「きっと妹にグチでも言うんやで。きっと」
「妹?」
「えらい別嬪さんやで。えっと名前は……リヒテン……?」
「女の子の名前ぐらい覚えとけよ。だからてめえはモテねぇんだよ」
「いいんやぁ。俺はロヴィーノさえいれば」
「俺はおまえのこと嫌いだ」
「あはは~。嫌われてしもうたなぁ」
 アントー二ョは頭を掻く。ロヴィーノが本気でないのはもちろん知っている。

 場面は変わって――。
 暗闇の中にフードを被った男が二人。
「K国は滅びたか」
「そのようだな」
「全く……ジュダも散々邪魔してくれたな」
「けれど――我々の味方も多いはず」
「そうだな……しかし、しばらくは身を潜めよう。何、我々には無限の時間が残されている」
「二匹の龍がカナダについた。あの教えの本には書いていなかった。あれが預言書でない証拠だ」
「教会が子羊の花嫁になるとあったな。千年王国が来ると」
「それはいかん。千年王国は我々の手でなさなければならない」
「そうだ。反キリストはまだか」
「兆しは現われている。だが、今ではない」
「もう一度、この世界を闇に変えるのだ。我々は闇から来て、闇に帰って行く存在なのだから」
 彼らは祈った。平和の祈りではなく、血と破壊を願う祈りを。

 ジョン・フォレストはしばらく姿を見せなくなった。
 イスラエルへ行っていたのだ。
 ヤーウェの神とアッラーの神が対立する世界へ。

 マシューは北欧神話に関する夢を時々見る。
 ユグドラシルやワルキューレ、ワルハラの世界だ。一度などはソレイユがファフナ―に変身する夢を見た。

 マジックは自叙伝『秘石と私』で、青の一族がK国に人間兵器として利用されたことを書いた。
 これによって、元K国の国民達はもっとややこしい立場に立たされることになる。
 ただでさえ、マジックに殺されたK国の英雄ジャーナリストの妹が、マジックの元に嫁いでいたのだから――。
 今でも、K国に人間兵器として使われていた青の一族やマジックに味方する派と、それにしても彼は人を殺し過ぎたという派が口角泡を飛ばして議論し合っている。

 マシュー、フランシス、アーサー、アルフレッド、フェリシアーノ、ロヴィーノ、アントーニョ、ギルベルト、ローデリヒ、エリザベータ、菊、ヘラクレス、耀、ヨンス、トーリス、フェリクス、イヴァン、ルートヴィヒ――。
 この国々はそれぞれの用をなした後、それぞれの生活に戻って行った。 

 さて、この話は一旦ここで終わることにする。
 けれど、人生は死ぬまで終わらない。それは国も同じだ。
 なくなっても、消え去りはしない。
 人はいつでも光を求めている。けれど、闇がなければ光もまたない。
 光と闇の均衡を保って、世の中は回っている。
 この話の続きを書くこともあるであろうか――あってもなくても、彼らの物語に終わりはない。

後書き
これで『OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~』は終わりです。
何故、こんな尻切れトンボで終わったのでしょう。
それは、筆者が飽きたからです!(笑)。
だから、一旦終わりにしました。
でも、続きも書きたいな、とは思います。名前も決まっていて、『OVER THE TROUBLE ~ファフナ―編~』です。
それでは、長い間ご愛読ありがとうございました!

2012.3.31
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