OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 35

「ああ……見つかったよ、僕の運命……クマ四郎さん……」
 それは、このドラゴン二匹をK国の戒めから解き放ち、自分の体内に住まわせるということ。
 目立たない、大人しいマシューができる、たったひとつのこと。
 一見人畜無害な――だけど、強さをその中に秘めているマシューだからこそできたこと。
 K国……お別れだね。
 飛び翔けるドラゴンに向かって、敬礼をする兵隊達がいた。それはきっとガンマ団。マシューには手に取るようにわかった。
「僕は兄さんとワルハラへ行く。君達も行くかい?」
 再びみんなの前に姿を現したジョーンズがマシューに尋ねる。マシューは頷いた。
「僕は……マシュー・ウィリアムズだ。ひ弱で目立たない……」
「しかし、その実、誰よりも勇気を持った――」
 マジックの声どこからか重なる。
「がんばれ、マシュー」
「さあ乗って」
「わかった」
 マシューはジョーンズのピンク色の鱗に覆われた皮膚に頬ずりした。フランシスも、「行こう」と賛同した。メンバーは皆ジョーンズの背に乗る。
「K国は……終りだな」
 ジョン・フォレストが珍しくネガティブな意見を吐く。
「ジョーンズ達はもうこの国の守り神ではない。守り神が二体もいなくなっちゃな――」
「なぁに。心配いらないさぁ」
 ジュダ・マイヤーが言った。口調が当初のちゃらちゃらした感じに戻っている。
「俺がK国を立て直す――カナダのような、平和な国として」
「お手伝いします」
「俺もだ」
「私もよ」
 ローデリヒ、ギルベルト、エリスの順で応答する。
「私って……エリス、おまえ、その口調……」
「ああ。私、エリザベータに戻ることにしたの。その方がいろいろと楽しいしね。それとも、何か文句ある?」
「う……いや、まぁ……」
「変な答えしない方がいいんだぜ」
 ヨンスが冷やかす。
「わかったー。ギルベルトはマジエリザベータのこと好きなんだー。応援するしー」
「フェリクス……」
「俺の金玉触ったことはもう水に流してやるしー」
 途端に冷ややかな視線がギルベルトのぐるりを取り囲む。
「おまえ、それ、ちっとも水に流せてないだろ!」
 ギルベルトが抗弁する。
「ふぅん。やっぱりアンタって変態だったのね……」
「ギルベルトさん……私には弁護もできませんね」
「……兄さん……」
「ヴェ?」
「ああっ! イタちゃんまでそんな目俺に向けないでーっ!」
 ギルベルトが泣き出した。無理もない。普段は優しくて人当たりの良いトーリスでさえ冷たい視線を寄越しているのだから。
「ギルくん……国土を差し出してくれるなら友達になってあげてもいいよ」
 イヴァンは相変わらず素で腹黒い。
「誰がおまえなんかにやるかー!!!」
 泣きながらも、線引きはきっちりとするギルベルトであった。
「おい。ガンマ団の建物が見えるぜ」
 相手にしていなかったアーサーが雲の下を見下ろしている。アルフレッドが下を覗く。
「本当だ」
「アーサーさん、アルフレッドさん、ガンマ団に帰りますか?」と菊が尋ねる。
「いや、このまま行く」
「俺達もワルハラとやらへ行くんだぞ」
 アルフレッドは張り切っている。
「ここは……? 菊の故郷に似ているが」
 今まで寝ていたヘラクレスが訊いた。
「似ているのも道理ですよ。ここは私の国ですからね」
「……ということは……日本か……」
「ガンマ団には日本支部もありますからね」
「すごいんだぞ! デジカメ持ってくれば良かったんだぞ! ううん、スマホがいいかな?!」
 アルフレッドがはしゃぐのを、アーサーがげんなりした表情で見ている。
「アホは気楽でいいよな……」
「ん? それは君自身のことかい?」
「てめえのことだよ! アホフレッド!」
「HAHAHA! そんなだから君には友達ができないんだぞ!」
「う、うるへー!」
「アーサーくん、僕が友達に……」
「断る!」
 イヴァンの台詞をアーサーは遮った。
「まだ最後まで言ってないのに……」
「友達なってあげる代わりにイギリス全土が欲しいと言うんだろ? どうせ。あの国はなぁ、俺と女王様のものなんだ!」
「騒がしいぜ、おちおち寝てもいられないんだぞ、こん畜生」
「寝てられないんなら、ほら、空でも眺めるとええやんか。ほっこりするでぇ」
「けっ!」
 ロヴィーノはアントーニョの感想を一蹴する。
「これは龍の背中に乗せてもらった時以来の快感あるね!」
 耀も喜んでいる。
「良かったっすね、兄貴!」
「耀さんが嬉しいと俺も嬉しいっす」
「むっ! 蝙蝠のジョン・スミスが何か言ってるんだぜ」
「俺の本名はジュダ・マイヤーだっつーの! 覚えとけ! 馬鹿ヨンス」
「馬鹿と言った奴が馬鹿なんだぜ!」
 また小学生レベルの喧嘩をしている二人がいる。けれど、この言い合いが聞けるのも、平和だからこそ。
 ジョーンズがぐっぐっと笑った。そして続けた。
「僕達は、貴方がたに明日を託します」
「ジュダ」
 重々しい声が響く。
「な……あのドラゴンか?」
「そうだ。長らく貴様達の魔術で封印されていた――……もう名前も忘れてしまった」
「誰か、名前つけてあげてくれない? ねぇ、マシュー」
 ジョーンズの突然の指名に、「え? 僕ですか?」と戸惑うマシュー。
「まぁ、マシュー。君に任すよ」
 ジュダ・マイヤーも丸投げする。
「そうですね……」
 マシューはしばし考えた。僕は暖かいものが好き。太陽はいつでも僕達を照らしてくれる――そうだ。
「ソレイユ、またはサンというのはどうでしょう」
「こんなに黒い体なのにか?」
 兄ドラゴンが尋ねる。
「日焼けしたってことで……」
 それを聞くと、二匹のドラゴンが愉快そうに笑った。
 太陽のドラゴン。フランス語でソレイユ、英語でサン。フランス語と英語の名前を同時につけたのはフランシスと、アルフレッドやアーサーに配慮した為。

後書き
ドラゴン使いになったマシュー。
2012.3.29
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