OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 34 「それじゃ、行くか」 ジュダ・マイヤーが言った。 「そうだな。随分時間を食ったようだし」 ルートヴィヒが同意する。フェリシアーノがぎゅっと彼にくっついた。 「マシューさん……」 「ジョーンズ……」 「覚悟はできたかい?」 「はい」 マシューは力強く頷いた。 僕は、僕の運命に向きあう。 マシューの顔が引き締まる。 「おや?」 アルフレッドが不思議がる。 「何だい?」 「マシュー、君もそういう表情できたんだね」 「だって……僕だって男だもの。覚悟を決める時は、決めるさ」 「お兄さんだってサポートするよ♪」 「ありがとうフランシスさん」 さぁ―― 突撃だ。 運命の扉が開く。 重い扉で、ギギギーッと軋む音が鳴った。イヴァンとジュダとジョン・フォレストの三人の力でやっと開いたのである。 「さあ、早く、みんな、みんな」 「いいんだけどさ、ジュダ」 「何だい?」 「ここは僕が開けた方が良かったんじゃない?」 ドラゴンのジョーンズが言った。 「あっ、そうか……そうだな」 脱力したジュダに扉が閉じそうになる。 「おっと。力は入れなきゃね」 アルフレッドが支える。 「おまえ、相変わらず馬鹿力だな」 「茶々入れないでくれ、アーサー」 アルフレッドの額に汗の玉が浮いた。 「さぁ、みんな通って通って」 「アルフレッド。僕が支えてるから」 ジョーンズが閉まりそうになる扉を押さえた。 マシューも通った。 「うわぁっ……すごい!」 そこには……ガラスで出来たドラゴンのオブジェがあった。 「兄さん……」 ジョーンズはそう言って涙を流した。 「うーし、これで全員通ったな」 アーサーの声を合図に扉が重い音を立てて閉まる。 「ジョーンズ……どうしたの? これが君の兄さんを象ったものなの?」 マシューがなだめようとして、ジョーンズに訊く。 「ううん。違う……これは僕の兄さん……そのものなんだ」 「何だって?」 ルートヴィヒが振り返る。 「待てよ。これは単なるガラスだろ?」 ギルベルトも不審がる。ジョーンズが続ける。 「信じられないのも尤もだよね。でも、僕には会った途端にわかったんだ。これが兄さんだということを。そして――いろいろなことを思い出したよ」 「ジョン!」 フランシスがジョン・フォレストに向き直る。 「俺も全ては知らないんだ。わかることとわからないことがある。俺だって生き字引ではない」 「ああ、でも……この感じ……懐かしい……」 何かに引き寄せられるようにマシューがドラゴンのオブジェに近づいて行く。 「危ない! マシュー! 離れて!」 「ううん。大丈夫だよ、ジョーンズ」 マシューがガラスの鱗に触る。 「君は……君がこの国を護り続けていたんだね」 「マシュー!」 「よせ! マシュー!」 ジュダとフランシスの声がする。 ガラスのドラゴンが血の涙を流した。 「あれ……見てると何か切なくなって来ねぇか?」 「そうやな。ロヴィーノ」 「馬鹿。訛り入れて喋るんじゃねぇよ。アントー二ョ」 「だって、これが親分の喋り方やし」 「おまえを親分だなんて思ったこと、一度もねぇよ……」 ロヴィーノはそう言いながらも満更でもない様子だった。 「羨ましいな。ロヴィーノくんは。あんな仲良しの国がいて」 「おい、本当に羨ましいのか? おまえは……」 イヴァンの台詞に、エリスは呆れ顔だ。大体、アントー二ョとロヴィーノが仲良しなんて、このやり取りからどうやって推察したのだろう。 (エリスさんが疑問に思うのもわかるな……) マシューは密かに考える。 「兄さん……」 ジョーンズがガラスのドラゴンに近寄る。赤い涙と青い涙が混じり合った。 その途端――。 「いけない!」 ジュダが叫んだ。しかし、遅かった。 ジョーンズと、ガラスの透明な体から黒い姿へと変じたドラゴンはするすると上昇し――床も建物も突き抜けて消えて行った。 (ありがとう、マシュー) ジョーンズの声が聴こえたような気がした。 そう。これが僕の運命。 ジョーンズを生かし、育て、この対のドラゴン達を出会わせること――。 ジュダ・マイヤーがマシューを睨めつけた。 「貴様……大変なことをしてくれたな……!」 ジュダがマシューに詰め寄る。 「待て! マシューは悪くない!」 フランシスが立ちはだかる。 「フランシス……さ、ん……」 そうして――マシューは気を失った。 「……シュー、マシュー……」 ジョーンズの呼びかけでマシューは目を覚ました。 「フランシスさん、アル、アーサーさん……以下略……」 「おい、俺様が以下略ってどういうことだよ!」 ギルベルトが喚いた。 「――……兄さん、少し静かにしてくれ」 ルートヴィヒが頭を押さえた。フェリシアーノは何も言わず寄り添っている。 後書き なかなか賑やかなパーティーです。 2012.3.7 35へ→ |