OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 33

「どけどけー! 怪我したくなければ引っ込んでろ!」
 ハーレムが一度に数人の兵隊を倒した。
「こっちは順調だ。兄貴」
 トランシーバーで連絡を取り合う。その機械がグンマが作ったものであるということが多少不安材料ではあるが。
「よくやった」
 連絡先にいるマジックは一旦褒めてから心配そうに言った。
「誰ひとり殺しちゃいないな」
「安心しろよ。誰もあやめちゃいねぇよ」
 得意そうにハーレムが笑う。
 全く。兄貴は急に平和主義に目覚めたな。パプワ島の影響か、世界平和主義のジョン・フォレストのせいか。
 それとも――シンタローのおかげか。
 いずれにせよ、昔の兄よりは好きだ。しかし、マジック本人の前では滅多に口にしない。
 だが、懸念することがあった。
「でも大丈夫か? K国の軍隊みんな生かしておいて。寝首かかれたらどうすんだよ」
「心配いらない。そこまで不用心ではない。それに」
「それに?」
「私はもう殺生をするつもりはない」
「シンタローの存在が大きいのか? 兄貴がこうまで変わったのは」
「それもある」
「他にあんのか? やっぱりパプワ島か?」
「ああ。あの島で、コタローとわかり合える日が来ることを信じることができるようになったよ」
「コタローか……あの子が起きたら、シンタローがとち狂って大変だろうな」
「そりゃあもう」
 姿は見えないが、マジックが笑ったような気がした。
「おっと兄貴。アンタも人のことは言えないぜ」
「私がか?」
 ハーレムは、自覚のない兄にずっこけそうになった。
「アンタの息子好きにはこっちも困ってたんだぜ」
「子供に対する愛は、普遍的なものだ」
「アンタのは異常だ」
「何だと――」
 またいろいろうるさそうなマジックの台詞を皆まで聞かず、連絡を切った。
「あいつらは……大丈夫かな?」
 ジョンと一緒に別行動しているはずの『国』の化身にハーレムは想いを馳せた。
 彼らは、昔は争ったり戦ったりしたはずである。しかし、今は仲良くやっている。
 自分達もそうなれないだろうか――新総帥のシンタローとはどうも馬が合わないが。
 それに――自分も戦う方が性に合っている。
(因果な性(さが)だぜ。おっと)
 ぼやぼやしている暇はない。次の敵が待っていた。
(こんな奴ら相手に眼魔砲は使えねぇな。それに――)
 汚れ仕事は長兄のマジックがやっている。
(しょいこみ過ぎだぜ、兄貴)
 ハーレムは心の中で言うと、電光石火の動きで敵を薙ぎ払った。
 ま、今は勘弁してやるか。
 それにしても、あいつらは上手くやっているのかな。
 またしても考えるのは『国』達――特に、アーサー・カークランドのこと。
(あれがイギリスだって? ふん、貧弱だよな)
 あの国が何か怪我でもしてやしないかと、ハーレムは心配めいた気持ちになった。
(一応は俺の国だからな)
 本当か嘘かは知らないが、青の一族は英国人ということになっている。
(あいつら、無事だといいな。――おもしれぇもんな)
 ハーレムはふっと笑った。

 さて、アルフレッドと行動を共にしていたアーサーであるが――。
 その彼らは、やっとドラゴンの間に来た。
「遅いある。アルにあへん」
「耀……そのあへんというのは止めろ。あの戦争に関しては、俺も良心が痛むんだ」
「へぇ、アーサー、君にも良心というのがあるのかい」
 アルフレッドが茶々を入れたが、本当にアーサーは済まなく思っていた。
「――悪かったんだぞ」
 アルフレッドの謝罪にアーサーは、
「――ん」
 と答えた。
 悪いと思ったら素直に謝る。アルフレッドは成長したようだった。そう。あの独立戦争の時よりも。
 あまりあの戦争のことは思い出したくないのだが、つい思い出してしまう。
 けれど、アーサーだって昔はいろいろ悪いこともしていたのだから、人のことは言えない。国の歴史は戦争の歴史だ。
「ん? アホ達が来たんだぜ」
 ヨンスが言った。
「俺はアルフレッドだぞ。アホじゃない」
「でも、道に迷った。アホなんだぜ」
「そうあるな――それに関してはヨンスの肩を持つある」
「耀までひどいんだぞ」
「アルフレッド、アーサーさん!」
 マシューが嬉しそうに声を上げた。
「おまえら来ない方が話的にはわかりやすかったと思うぞ」
 フランシスの言葉に、
「残念でした」
 と舌を出すアルフレッド。
 マシューは笑っていた。
「嬉しそうですね、マシューさん」
 ローデリヒが呼びかけた。今はおっとりしているが、昔は勇名を馳せた男である。乱暴者でもあったらしい。
 だが、この男の国は料理が旨い。アーサーはそれに感動していた。今にローデリヒに負けないような美味しい料理を作る。それが、アーサーの目標でもあった。
「ええ、嬉しいですよ、だって――」
 マシューの声が涙ぐんでいた。
「昔は互いにぎすぎすしていた国達がですよ、こうやって楽しそうに騒いで――僕、いつかは本当の平和が来るような気がします」
「そうだな」
 アーサーも同意した。
 いつかは俺もアルと仲良くなれるかな。いや、もう充分仲いいか。
 アーサーの頬が赤くなる。
「大丈夫ですか? アーサーさん」
「大丈夫だよ、マシュー。心配すんな」
「アーサー、マシューと浮気するんじゃないんだぞ」
「するか馬鹿」
 俺にはおまえしかいねぇのに――だが、それを口にするのは今はやめておいた。
「うん……?」
 ジョーンズが目を覚ましたらしい。
「何だか騒がしいと思ったら――また誰か来たのかい?」
「これで全員集合なんだよ――ジョーンズ」
 フェリシアーノが、ジョーンズの鱗に覆われた体を撫でながら答えた。
 アーサーは、彼らが全員無事であることをフランシスから聞くと胸を撫で下ろした。イヴァンの無事すら、彼には有り難かった。

後書き
いよいよ大詰めに入ります。

2012.2.17
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