OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 29 「な……何なんだ。あれは……!」 人を見下ろすようにして作られた廊下から、アルフレッドが指差している。その先には、黒い衣装を纏った集団が。 「俺が知るかよ!」 アーサーが投げやりに答えた。 「でも、黒魔術は君の得意分野だろう?」 「黒魔術は黒魔術でも、俺の国の黒魔術は、地球と人間に優しい黒魔術なんだよ!」 「それでも黒魔術であることには変わりないんだね……」 アルフレッドは些か呆れ顔だ。アーサーのところの黒ミサとどう違うんだろう……。 「悪魔崇拝、だな」 祭壇には悪魔のタペストリがかかっている。 たくさんの人間――人間なんだろう、多分――が、跪いて祈っている。異様な光景だ。 アルフレッドにもアーサーにも、見向きもしない。 何かぶつぶつと、経のようなものを唱えている。 「怪しいな……」 「ああ、怪しい……」 「何をしているところなんだろう」 「だーかーらー。俺が知るかよ」 「こんな時ぐらい役に立っても良いのに……」 アルフレッドは溜息をついた。 「何か言ったか?」 「べーつーにー」 「仕方ない。紛れ込むぞ」 「この格好でかい? 目立ち過ぎるんだぞ!」 「目立つのはおまえの得意分野だろ。ヒーローってのは目立つもんなんだろ?」 ヒーロー。その言葉がアルフレッドに火をつけた。 「ようし。俺が君のヒーローになってやるんだぞ!」 「いや、俺のことはいいから」 アーサーは照れくさそうにしている。 「よーっし! 行っくぞー!」 アルフレッドが黒い集団の中に飛び降りた。 「K国ですか。なるほど……」 菊が納得したように頷いた。 「私の考えた通りでしたね」 「やい! ジュダ! どうしてタイミングを見計らったようにアメリカのスパイになった!」 エリスが訊いた。というより、怒鳴った。 「リンという占い師の通りにしたまでだ。それに……マシュー・ウィリアムズは……」 「K国の利益になる存在と考えてたのですか、なるほど」 「そうだ。あいつ、大人しそうな顔しているが、実は……」 「とんでもなく大物だったというわけですか」 「大物かどうか俺は知らねぇ。だが、魔力はかなりのもんだぜ」 「それをK国が利用しようとしていたのですか」 「おい、菊。取引しないか? アンタ、信用できそうだから」 「断る!」 エリスが言った。 「俺も、やめた方がいいと思う……」 ヘラクレスも間延びした声で言った。 「まぁまぁ、お二人さん。取引しようと持ちかけられているのはこの私ですよ」 「気に入らねぇな」 「同感です」 「じゃあ、その取引が公平なものであることを神かけて誓うか?」 ギルベルトの声が、ジュダの背後から聞こえた。ギルベルトが、ジュダの背中に銃を突き付けている。 「K国ってのは、随分のんきな奴だなぁ。こうしてバックを簡単に取らせてしまうなんてよ。てめぇは菊を信用しているかもしれんが、俺達はおまえを信用していない」 「ギルベルト!」 エリスが叫んだ。 「あーん。誰なんだぜ、それ」 「ヨンス……おまえも相当失礼あるな」 ヨンスの台詞に耀がツッコミを入れる。 「ギルベルトとか言ったな……おまえなんて知らねぇんだぜ」 「貴様……一緒に団体行動していたのに、知らないとはどういうことだ……」 「こういう奴なんだよ。こいつは。だからそんなにかりかりすんじゃねぇ、ギルベルト」 エリスが呆れた声で言った。 「菊と兄貴以外、知らない奴らばっかりなんだぜ」 今までの付き合いは何だったんだ! 全員がヨンスに心の中で叫んだ。 「それに、俺達は何でこんなところにいるんだぜ」 「マシューさんを取り戻しにですよ……」 さすがの菊も脱力した。 「菊、俺のもの。おまえには渡さない……」 と、ヘラクレス。少しテンポがズレているところが彼らしい。 「マシュー? マシューって誰なんだぜ?」 「カナダあるよ」 「ああ、カナダって何なんだぜ?」 「我らと同じ国あるよ」 「ああ。俺が起源の国か」 「ヨンス……おまえと喋っていると頭が痛くなってくるある」 「こらそこ! 漫才してんじゃねぇ! 羨ましいぞ!」 つい本音が出てきてしまうジュダであった。 「――で? 取引とは」 菊が無理矢理本題に戻す。 「ああ。そうだった。こいつらに撹乱されてすっかり忘れてたよ……マシューは返す。でも、その前にアポローニャも生き返らせてくれ」 「無理です。千里眼で姿を見せるだけだったらできますが」 「そうか……アポローニャが帰ってこないなら、マシューは返さねぇ。――なぁ、耀さん。アンタなら、アポローニャと話できるんだろ?」 「今度はこっちに来たあるか……」 ジュダの節操のなさに、些か嫌気がさしたようである。 けれど、ジュダのアポローニャに対する気持ちは真剣で純真なものである。無碍に断るのも気がひけた。 「それはできない!」 廊下によく通る声が響く。ジョン・フォレストだ。 「どうしてだ? アンタなんかに助太刀を頼んじゃいないぜ」 「じゃあ特別にだ。アポローニャと話ができると言っても?」 「何?! あんた、それはできないと言ったばかりだろ。人のこと馬鹿にしてるのか?」 ジュダは、目を吊り上げた。 「アポロ―ニャを再び帰すのは無理だと言ったまでだ。けれど、俺の力で一分間だけ、アポローニャに会わせてやる。久々に彼女、抱きしめてやってくれ」 ジョン・フォレストの目が紫色に光る。豊かな黒髪の見目麗しい女性が現われた。 「アポローニャ!」 ジュダはアポローニャを力いっぱい抱擁した。 「すごい技術ですね。ホログラフィーか何かか……けれど、それだと触れる筈ありませんから……もしかして反魂の術ですか?」 「企業秘密さ」 菊の言葉に、ジョン・フォレストは笑った。 その頃――フランシス達はようやく、ジョン・フォレストのいないことに気がついた。 後書き 一分間……邪眼か! とセルフ突っ込みを入れてみました。 2011.8.22 30へ→ |