OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 27

「キク・ホンダ……」
 ジュダは呆然としたように呟いた。
「よく俺の来る場所がわかったな」
「なぁに、千里眼をちょっと使ってみたんですよ」
「センリガン?」
「正露丸なら知ってるが……」
 ローデリヒとギルベルトは『何それ美味しいの?』状態であった。
「ジュダ……菊の敵なら俺の敵……」
 うっそりと菊達の後ろからヘラクレスが現われる。
「まぁ、待て。この場は俺に任せろ。ぼっこぼこにしてやる!」
「エリス! 仮にもてめえは女なんだから引っ込んでろ!」
「仮にも、とは何だ! ギル! それに、今の俺は女を捨てて男になってんだ!」
「危ねぇ目に合ったらどうすんだ!」
「上等じゃねぇか。これでもトルコといい勝負だったんだぜ!」
「てめえに危険な目には合わせらんねぇよ!」
「何でだよ!」
 エリスが怒鳴ると、辺りはしんとなった。
 ギルベルトは、熟れたトマトのように赤くなって、
「だから、それはだな……」
 と、ごにょごにょと口の中で独り言を言う。
(おやおや)
 千年以上生きている菊でなくとも、この反応は面白く思える。ギルベルトは、エリス――エリザベータのことがどうやら好きらしい。
 性格の悪いギルベルトの弱点をつかんだような気がした。
「ここは危険だから下がっていてください!」
 ローデリヒが、ばっとエリスの前に出た。
「ローデリヒ……」
 エリスは少し感動したらしく、頬を紅潮させた。
「えーい! 貴様ばかりにいいかっこさせてたまるかよ!」
 ギルベルトはジュダにおどりかかった。
 ジュダはひらりとかわした。
 ギルベルトは勢い余って壁にぶつかった。呆気なく気絶してしまう。
「相変わらずバカなヤツだなぁ……」
 エリスが呟く。
「でも、そんなところが嬉しいぜ」
 エリスの台詞は、気を失ったギルベルトには感知できなかった。
「気を取り直して……」
 菊はこほんと咳払いをした。
「ドラゴンの間――来ると思ってましたよ。貴方なら」
「俺をやっつけに来たのか?」
「それは半分正解ですね。後の半分は――」
 ちゃらり。
 菊は懐からK国の団員票を出した。
 そこには、名前が書いてある。――アポロ―ニャ・バビロニア。
「これを届けに来ました。あなたのでしょう?」
「あ……」
 ジュダは、菊から大慌てで団員票をひったくった。
「アポロ―ニャのだ……」
 鎖が切れている。だから落としたのであろう。
「バビロニア……古代の国の名前ですね。何でそんな名を名乗ってたのですか? 貴方の恋人は」
「こ……恋人?!」
「違いますか?」
 菊は、ジュダを真っ直ぐに見据えた。ジュダはたじたじとなった。菊には、他の国には真似できない眼力というものがある。
「ああ……俺には過ぎた恋人だった……」
 隠しても仕様がないと悟ったのか、ジュダは白状した。
「世界を作るプロジェクトに、科学者や魔術師らが集められて……アポロ―ニャは出来損ないの……それでも、俺にはかけがえのない『国』だった」
「ジョン・フォレストさんみたいですね。一途なところは」
「あんなヤツと一緒にするな」
「で、耀さんにそっくりだった、と」
「ああ……耀さんは本当に好きだった……」
 ジュダの頬を涙が一滴伝った。
「耀さんは優しかった……アポロ―ニャそっくりだった」
「それは本当あるか?」
 女性のような、高めの声がした。
「耀さん?!」
 ジュダは思わず、といっていい態で叫んだ。
「兄貴! アーサーとアル、どこにもいないんだぜ」
「げっ! 馬鹿のヨンス!」
 耀とヨンスがやってきたのだった。ジュダはヨンスに対しては、眉間に皺を寄せ、露骨に嫌な顔を見せた。
「馬鹿とは失礼なんだぜ。K国の起源は俺なんだぜ!」
「……また起源あるか……」
 ヨンスの癖、それは起源を主張すること。耀もいい加減慣れてきただろうが、呆れてしまうのも本当だろう。
「そんなはずあるか、だってこの国は、俺が、俺が……」
「ジュダさんは、この国自身なんですね」
 菊が助け船を出すと、ジュダは目元を拭い、こくりと頷いた。そして、顔を上げて堂々と名乗った。
「俺は、K国だ」

 マシューとフランシスは、姿の見えないジョーンズに連れられて廊下を駆けていく。
「ドラゴンの間はもう少しだよ!」
「ありがとう! ジョーンズ!」
「本当に……お兄さんの名前にしてくれたら良かったのに……」
 マシューに対してフランシスは拗ねてみせる。
「今だったらボヌフォアとつけてあげますよ。……でもちょっと発音しにくいかな」
「マシュー……それってすっごい殺し文句だな。お兄さんも参考にしたいよ」
「もう……からかわないでくださいよ」
「からかっているわけじゃないんだけどな……」
 その時である。
 黒いフードをかぶったドルイドみたいな、いかにも魔法使いのような生き物――それは人間ではないかもしれない――が、うずくまっていた。
「ほっほ。探したぞ。マシュー・ウィリアムズ」
「えっ?!」
 フランシスが見てる前で――
 マシューは姿を消した。ついでにドルイドもどきも。
「おい、マシュー、マシュー」
「フランシスさん、フランシスさん」
「おい、ジョーンズ。今のはおまえの仕業か?」
「いえ。あの魔術師です。彼らは今異次元に行っています。僕としても最大限近付けないようにしていましたが」
「どうすりゃいいんだよ!」
「魔術師って食えるん?」
 この空気の中で、暢気な声が聞こえた。
「何言って……」
 フランシスが振り向くと、フェリクスがニヨ二ヨしながら立っていた。トーリスや、その他の面々も。

後書き
魔術師は簡単には食べられないと思います。多分。
ジョーンズだったら食べることできるかなぁ……。

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