OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 26

「引きが来てる……」
 全力疾走していたジョン・フォレストが言った。
「――何だって?」
 隣のフランシスがジョン・フォレストに問うた。
「フランシス、済まんが、マシューを頼んだぞ!」
「――っておい!」
「大丈夫! ジョーンズがついているから」
「そうだよ」
「わっ!」
 声が聴こえて、フランシスは驚きの声を上げた。
「僕がジョーンズだよ。宜しくね」
「ジョーンズ……」
 マシューも戸惑いを隠せない。
 ジョン・フォレストも、ジョーンズのことを知っていたみたいだった。
「何でジョン・フォレストさんは君のことを知っていたんだい? ジョーンズ」
「彼にも、いろいろ不思議があるからね」
 ジョーンズはぐっぐっと唸った。きっと笑ったのだろう。
「でも、君、喋れるようになったんだ」
「姿も見せられるようになったよ、ほら」
「ぎゃあああああっ!」
 フランシスは間抜けな声を出した。
「ごめんね。フランシス。驚かして」
 ピンク色のドラゴンは言った。
「いやぁ……話に聞いてたけど、これほどとは……」
 フランシスが感嘆する。
「さぁ、他の人に見つかると大変だ。僕は姿を隠すよ」
 ジョーンズの姿がすぅっと消えた。
「見たか?」
「う……うん」
 フランシスの言葉に、マシューは頷いた。
「あ、そうか。ジョーンズはマシューの友達だったな。今更驚くこともないってわけか」
「いや、僕も驚いてるよ」
 マシューは目を丸くしていた。
(こんなに……こんなことができるくらいに成長したんだね。いつの間にか)
 もう僕だけの友達ではない。
 そう思うと、心強くなったと同時に、一抹の寂しさを覚えた。
「何しけた顔してんのよ」
「いや……ジョーンズが……僕の手から離れて行ってしまうようで……」
 マシューは眼鏡を外して、目元を拭った。
「何言ってんだよ。おまえさんのことを、ジョーンズは忘れないよ。きっとな」
「う……うん」
「それに、あのドラゴンは信用できる。俺、人を見る目はあるからな」
「ジョーンズはドラゴンだよ」
「よし、そのぐらい軽口が叩ければ大丈夫だな」
「そうだよ」
 ジョーンズの声がまた聴こえた。
「これからは僕が案内するからね」

「ルート……ルートォ……」
 えーと、確かこの辺だな。
 のどかな足音を響かせて、ジョン・フォレストがやってきた。
「やぁ、みんな」
 ルートヴィヒの傍に集まっていた人々、いや、国々は、ジョン・フォレストの方に顔を向けた。
「そんなに悲しい顔しないの」
「でもっ! ルートは撃たれたんだよ!」
 フェリシアーノが強気に出る。他の国もうん、うんと頷いた。
「そっか……じゃあ、今から俺が手品やるからね」
「手品ぁ? そんなことやっている暇……」
「黙って」
 ロヴィーノの台詞を、ジョン・フォレストは遮る。さっきとはうって変わって、ジョン・フォレストが真面目な顔をする。
「ふむ……弾は体の中にはないな……ということは……簡単に直せる」
 ジョン・フォレストは、かけてあったアーサーの上着を剥ぐった。
 傷跡から血が出ている。ジョン・フォレストは、そこに掌を向ける。
 光が――ルートヴィヒの傷を癒した。
「おお……」
 ルートヴィヒの眉間から、険しさが消えた。
「前より力が溢れて来るみたいだぞ」
 そして、彼は起き上った。
「ルートっ!」
 フェリシアーノが、今度は嬉し涙を流しながら、ルートヴィヒに抱きつく。
「ごめんな。遅くなっちゃって」
 ジョン・フォレストが謝る。
「いいよー。ルートが元気になったんだし」
「ありがとう。ジョン・フォレスト」
 ルートヴィヒが礼を言う。
「いや、なになに。どうせある力なんだから、使わないと」
 ジョン・フォレストはにやにやする。
「……どうも、な」
 ロヴィーノが呟くように、口にした。素直ではない彼だが、悪い子ではない。
「俺達はこれから、ドラゴンの間に行くんだが、おまえらも来るか?」
 ジョン・フォレストの質問に、全員が、
「もちろん!」
 と答えた。

 ジュダ・マイヤーは、ふと振り返る。
 誰も来ないようだ。
 そう思うと、ふと気が緩んだ。
「アポローニャ……」
 涙と共に、その名前が出てきた。
 誰よりも愛しい名前。アポローニャ・バビロニア。
 数十年前、K国では、いろいろな、擬人化された国を復活させようとの計画を実行していた。
 アポローニャもジュダも、その時造られた存在である。
 ジュダがアポローニャを見た時、彼は彼女に一目ぼれした。
 K国の計画に加担するつもりはなかったが、アポローニャの為なら、どんなことでも厭わない。そうする決心をさせるだけの魅力が、彼女にはあった。
 だが――アポローニャは失敗作であった。
 消えて行くアポローニャを見ながら、軍部の人々は、今後の計画を立てていた。
 K国の団員票――アポローニャの形見。それをジュダはいつも抱きしめていた。しかし――どこで落としたのだろう。
 その時であった。
「ジュダ・マイヤーさん」
 清々しささえ感じる男の声。――本田菊が、ジュダの名を呼んだのだ。

後書き
さぁさぁ、これからどうなる?!

27へ→
BACK/HOME