OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 25

 ジュダ・マイヤーは駆け続けていた。ある場所へと――。
 はぁっ、はぁっ、はぁっ……。
 息を切らしながら走る。すると――
「待つよろし!」
 王耀が、ジュダの前に立ちはだかった。
「耀さん……」
 ジュダ・マイヤーは、耀に対しては、『さん』づけである。
「どいてください」
「嫌ある!」
 耀は断固として言った。
「そんなことをしても、アポローニャは浮かばれないある」
「な……何故アポローニャのことを……」
「おまえの後ろにいるある。我にそっくりな女の人……」
「どうしてそんなことがわかるんだ!」
「我は四千年以上生きているある。このぐらい年を重ねていれば、いろいろなことが見えてくるある」
「くそっ! どいてくれ! 耀さん!」
「嫌だと言っているある!」
 スガーン!
 銃声が轟いた。
「兄貴……!」
 イ・ヨンスが王耀に追いついた。
「貴様……よくも兄貴を……」
「ふんっ!」
 そう鼻を鳴らして、ジュダ・マイヤーは姿を消した。
「ま……待て……」
 ジュダはもういない。この建物には、いろいろな仕掛けがしてあるらしい。
「兄貴ー。兄貴、しっかりしてください!」
「あ……ヨンス、あるか?」
「そうです、兄貴」
「心配しなくても……どこも怪我してないある」
 しかし、腰を抜かしたらしい。動けない……。

「銃声が聞こえたぞ」
「大丈夫か?!」
 アルフレッドとアーサーが現われた。
「我は……平気ある」
「撃たれなかったのか? 耀」
「ああ」
「ジュダ・マイヤーめ。ルートに対してはためらいもなく撃ってきたくせに」
「耀に対しては……ただの威嚇射撃だったようだな」
 アルフレッドとアーサーは、顔を見合わせて頷き合った。
「我は……幸運だったある。あの男の恋人に似ていたおかげで、向こうも手加減したあるよ」
「そうか……よかったな」
「まさか、我の心配をしてくれるとは思わなかったある。あへん」
「そのあへんっての、もうやめろ」
 アーサーがぽこぽこと怒り出す。
「それよりも、ジュダを追う方が先なんだぞ」
 アルフレッドが焦ったように言う。
「もういなくなったぜ。それにここは入り組んでいるから、また探すのは大変だぞ」
 アーサーの言葉に、アルフレッドはしょんぼりとなった。
「それとも、さっきのように勘で探すか?」
「それしかないだろう」
 アルフレッドは堂々と宣言した。しかし、アルフレッドの勘は、これはこれで大したものなのである。道に迷ったりする可能性もなきにしもあらずだが。
「そんなことしなくてもいいあるよ。アルにあへん」
「だーかーらー。あへんと呼ぶのはやめろっつったろ」
 アーサーは耀の頬をぎゅーと引っ張る。
「兄貴に何をする!」
 イ・ヨンスに言われ、アーサーが手を離した。
「今は、仲間割れしている時ではないある」
 ようやくショックから立ち直った耀は、体勢を整えた。
「さぁ、行くあるよ」
「行くって……どこへ?」
 アルフレッドの疑問に、耀は答えた。
「ドラゴンの間」
「ドラゴンの間?」
「そこに向かっていると、アポローニャは教えてくれているある」

「やれやれ、みんなとは、はぐれちゃったね。おや?」
 イヴァンとトーリスとフェリクスは、途中で合流していた。トーリスはどこかびくびくしていたが、フェリクスはいつも通りである。
「何なんよー。イヴァン」
「あれ、フェリくん達じゃないかなぁ」
「ああ、本当だ」
「えーん。ルートー。死なないでー」
 フェリシアーノは泣いている。
「なんかあったらしいしー」
「行ってみようか」
 イヴァン達が行くと――
「あ、イヴァン……あのね、ルートが大変なの。……撃たれちゃったの」
「な……」
 トーリスはかっとなった。
「君がついていながら、こんなことに……」
「よせ、トーリス。フェリシアーノは悪くない」
 こんな時でも、ルートヴィヒは、フェリシアーノをかばうのを忘れない。
「でも……ルート、大変そうだから……俺、情けないね」
「そんなこと言うな、フェリシアーノ」
 ルートヴィヒが笑おうとした。だが、その笑顔は引きつっている。いつもより怖かった。
 その時――アントー二ヨとロヴィーノが来た。
「おお、ロヴィーノの言ってた通りやんなぁ」
「そうだぞ。俺はフェリのいるとこなら、どこでもわかるからな」
「何たって、兄弟だから、ってか?」
「それを言うんじゃねぇ。こんなへたれと兄弟になったのが運の尽きだったぜ」
「あ、兄ちゃーん」
 フェリシアーノがロヴィーノを手招きした。
「ルートが……ルートが死んじゃうかも……」
「いや……俺はそう簡単には死なん……国民には迷惑かかってるかもしれんがな」
 と、ルートヴィヒ。
「わー、どないしよー。応急キットもあらへんし」
 アントー二ヨが慌てている。
 ロヴィーノも、眉をぎゅっと寄せた。これでも、ルートヴィヒとフェリシアーノのことを気にかけているらしい。
「こんなふざけた真似した奴……許せねぇ!」

後書き
ロヴィーノも案外優しいのだと思います。

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