OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 24

「ルート……ルート……大丈夫?」
 フェリシアーノが泣いている……。銃弾はルートヴィヒの脇腹を貫通していた。ギルベルトも心配そうに様子を窺う。ルートヴィヒはこう言った。
「ああ、大丈夫だ。そう簡単には死なん」
「そう……良かった」
「ただ、国民に迷惑をかけるかもしれん――」
「そこで休んでな。ルート」
 アーサーがぶっきらぼうに言葉をかけ、上着をかけてやった。
「すまんな……」
「無理はするなよ。それよりも、マシュー・ウィリアムズが鍵だって?」
「マシューが危ないんだぞ! 追いかけるんだぞ!」
 アルフレッドの言葉に、アーサーは頷いた。
「そうだな。敵の狙いはマシューみたいだしな。それにしても……」
 アーサーはきょろきょろとし出した。
「どこ行ったんだよ、フランシスの野郎」
「フランシスを頼りにしてるのかい? 君は」
 アルフレッドが気色ばむ。
「あ、ああ……それはだな……あいつも結構やる時はやるっつーか……」
「ふぅん。ずいぶんフランシスのことを買ってるんだね、君は」
 アルフレッドの、アーサーに対して向けられた視線は冷たいままだ。
「あのー。痴話げんかしてる場合じゃないですよ」
 菊がひょこっと現われた。
「わぁっ! 菊! 何だい! 今までどこにいたんだい?!」
 アルフレッドが驚いた。ヘラクレスも菊と一緒に来ていた。
「俺も、いるんだけど……」と、ヘラクレス。
「私がどこにいたかなんて、そんなことどうでもいいことです。さぁ、追いかけましょう、ジュダ・マイヤーを」
 菊が明日の方を指差した。
「もう見失なっちまったぜ」
 アーサーが言う。
「てめえらがもたもたしてるからだろう。ここは迷路みたいに入り組んでやがる……。とりあえず先に……敵の目標はマシューなんだからあいつのところに行こう」
 ギルベルトが提案をする。
「ちょっと待ってください。ギルベルトさん、マシューさんが今どこにいるか御存じなんですか?」
 菊は当然な質問をした。ギルベルトは堂々と腰に手を当てて、
「知らん!」
 と答えた。
「それじゃ意味ねぇだろ馬鹿! もうおまえなんかじゃ話にならん!」
 エリスがギルベルトをぼこぼこに殴った。
「おい、誰か! マシューの行きそうな場所は?」
「さぁ……」
「どこだろうなぁ……」
「ああもう! イライラさせられるぜ!」
 エリスが髪を掻きむしった。
「もしかしたらこれから重要になるかもしれない場所なら知っていますが、マシューさんがいるかどうかまでは……」
「そうか……とにかく行ってみようぜ。菊、それはどこなんだ?」
 エリスの台詞に、菊が一拍間を置いてから答えた。
「この国の守護神、ドラゴンを祀ってある場所です」
「じゃあ、そっちへ向かおう。ギル、ローデ。一緒に行こう。菊、案内頼む。ヘラクレスも来い」
 エリスがきびきびと指示を出す。
「そして? アルとアーサー、おまえらはどうするつもりだ?」
「俺達はジュダを探す」
「わかった。じゃあルートはそこで寝てな」
「ああ……すまない」
「俺もついてるからね」――とフェリシアーノが泣きながらルートヴィヒに縋った。

 一方――
「早く坊っちゃん達と会えるといいな」
「は……はい」
 フランシスが、マシューの手を取って走っていた。
「まぁ、急ぐんだな」
 ジョン・フォレストがウィンクした。
「あのー……僕達どこへ行ってるんでしょうか」
「どこだ?」
 フランシスがジョン・フォレストに訊く。マシューは脱力しそうになった。
「ドラゴンの間」
「ドラゴンの……」
 マシューが呟いて、それから、大声で叫んだ。
「ジョーンズにも関係があるところですか?」
「もちろん」
 ジョン・フォレストが言い、そして続けた。
「今回の騒ぎは、ジョーンズが起こしたようなもんだからな。尤も、その前にもいろいろあったわけだが……」
「ジョーンズが?」
 フランシスが訊いた。
「そんなに偉い奴だったんだな。マシュー、おまえの夢に出てきたドラゴンは」
「あ、覚えててくださったんですか。そうですね」
「マシュー。おまえ、只者じゃないんだな」
「え……」
 フランシスに言われ、マシューは驚いた。
「そんな……僕なんて平凡な国だし……」
「平穏かもしれないが、平凡じゃない」
 フランシスが前を向いて走ったたまま独りごちた。
(平凡じゃない……。そんなこと、生まれて初めて聞かされた……。ずぅっと、僕は平凡な国なんだと思ってたから……)
 マシューが思っていたその時だった。
(そうだよ。君は平凡じゃない)
(ジョーンズ……)
(君は僕の親だもの)
(ありがとう……ジョーンズ)
 そして、ありがとう。フランシス。それにしても……。
「ジョン・フォレストさん。どうしてあなたは僕達に協力しようとなさっているのですか?」と、マシュー。
「K国の悪魔を追い払う為だ」
「では、一人でもできるんじゃありませんか? あなたなら」
「いや。事はそう簡単に運ばないのよ」
「でも、あなたは何でもお出来になるし……」
「俺は、ジョーカーなんだ。何でも出来過ぎるんだよ。だから、助っ人にしかなれない。欠点がないとヒーローにはなれないんだよ」
 ヒーローに……。
 そういえば、アルはヒーローになりたいと言っていた。ジョン・フォレストのこの言葉を聞いたら、どう思うだろう。
「おまえには、立派にヒーローの資格がある。だから、俺は手を貸している」
「えええっ?! 僕がヒーローですかッ?!」
 マシューは素っ頓狂な声を上げる。
「ああ。初めてだろ。そんなこと言われたの」
「僕が、ヒーローだなんて……」
 こんなこと、後でアルフレッドが耳にしたら、怒るかもしれないなぁ――マシューはくすくす笑った。

後書き
マシューはヒーロー……というのは私の贔屓目かもしれませんが(笑)。

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