OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 23 「道に迷ったんだぞ!」 「高らかに宣告しなくてもいいだろ。そんなこと」 アルフレッドの台詞に、アーサーがツッコむ。 だが、夫婦漫才をやっている場合ではない。 「早く奴らと合流しないと……」 「俺はアーサーと二人っきりでもいいんだぞ」 「縁起でもねぇ……」 だが、満更でもないアーサーであった。 「だけど、イヴァンとバッタリってのは避けたいよな。あんな不吉な奴……」 「もっと不吉な奴がいるんだぞ」 「げっ!」 彼らの目の前にいたのは、ジョン・スミスこと、ジュダ・マイヤーであった。 「おまえ達か……」 ジュダは銃を構え、撃鉄を起こした。 「は……話せばわかるんだぞ」 アルフレッドが慌てた。 「犬養毅みたいなこと言ってんじゃねぇ!」 「五・一五事件の時の日本の首相か。変なこと知ってんな、おまえ」 「アーサー……君だって人のこと言えないと思う」 アルフレッドの珍しいまともなツッコミも、しかし、スルーされた。 「いいだろう。撃つんなら撃て。ただし、おまえにも愛国心というものがあるなら、おまえの先の上司、つまりアルフレッドは逃がしてやれ」 「アーサー……」 アルフレッドはぎゅっと口元を引き締めた。 「俺から撃て」 「アルフレッド……」 「君は独立戦争の時に俺を撃たなかったからね。せめてもの恩返しさ」 アルフレッドが振り返ってにこっと笑った。 「馬鹿野郎……かっこ良すぎるだろ……おまえ……」 アーサーは泣いていた。涙腺が弱いのである。 「心配しなくても、二人共あの世へ送ってやるさ。最後の弔いの言葉だけは言ってやる。父と子と、聖霊の御名において――」 銃が火を噴く音がした。 「――アーメン」 白っぽい髪のにやにやした男が、ジュダの後ろから撃って来た。 「ギルベルト!」 「無事か? まぁ、威嚇射撃だからな」 ギルベルトは得意そうに言った。 「ジュダ。てめぇはどこまで腐ってやがる」 「はっ、ギルベルトめ。女にぼこぼこにされてたくせに」 「女――女ってあいつか?」 エリスこと、エリザベータがジュダをぽこーんとフライパンで殴った。 「こんな奴、女じゃねぇ」 普段ならこんなことを言ったら、エリザベータにこてんぱんにやっつけられるのだが―― 「そうだ! 今の俺は女じゃねぇ! おまえらを倒すまではな!」 今はエリスとなったエリザベータがぼかぼかとフライパンで攻撃する。 「お二人さん、待ってください!」 「おう。ローデリヒ。おまえの出番もうねぇぞ」 「まぁ、ジュダの言い分も聞いてやったらどうですか?」 「何でだよ。こいつら、問答無用でアル達を撃とうとしたんだぜ」 「あなたの気持ちはわかりますが――」 「いや、俺も聞きたい」 アルフレッドが静かに口を開いた。 「何があった。話せ。ジュダ」 「ふふっ、話すことなんか何もねぇよ」 「話せ」 ギルベルトが銃をジュダにつきつけた。 「そういえば――どうしたんだい? その銃」――と、アルフレッド。 「倒した黒服からかっぱらってきたんだよ」 「あっ、その手があったか!」 アルフレッドがぽんと手を叩いた。 「俺もすっかり忘れてたぜ」 アーサーもぽかんとしていた。 「――おめぇら抜けてやがんな。まぁいい」 「――兄さん」 ルートヴィヒがやってきた。 「おお、弟か」 「ジュダを……放してやってくれ」 「何?!」 ギルベルトの眉が釣り上がった。 「寝惚けたこと言うと、おまえでも許さねぇぞ」 「いいから聞いてくれ。――ジュダは、騙されているんだ!」 「俺が騙されているだと?」 今度はジュダが訊く番だった。 「どうして」 「アポローニャ・バビロニア」 「な……何でその名前を……」 アポローニャ……初恋の人の名前を出されて、ジュダは少なからず動揺した。 「菊から聞いた。フェリシアーノからも、大体情報は得た」 「フェリシアーノ?」 アーサーは首を傾げた。 「あいつも戦力になるのか?」 「おまえ……イタちゃんをなめるととんでもないことになるぞ」 と、ギルベルトが忠告した。 「俺達がなんやかんややっている間に、話を集めてきたらしい――ジュダ、こんなことをやっていても、アポローニャは甦らんぞ」 「俺も役に立てて嬉しいよ~」 フェリシアーノはニヨ二ヨと笑っていた。 「くそっ。このふやけた男に俺の秘密が……」 「秘密というのはバレるもんさ」 ルートヴィヒは溜息と共に話した。 「で……俺が騙されているとはどういう意味だ」 「バビロニアは、もう甦らない」 「し……しかし……この国の守護神の力を借りれば……」 「この国に守護神はいない。復活を待っている者は大勢いるが」 「なっ……そこまで調べたのか」 「ああ。この国が悪魔崇拝をしていることもな。青の一族から聞いた話だが」 「青の一族……あの裏切り者め……」 「詳しいことは菊から聞いた。ジュダ、もうこんなことはやめろ」 「うるせぇっ!」 ジュダはルートヴィヒの脇腹を撃った。 「占い師のババァに聞いた! マシュー・ウィリアムズこそ全ての鍵だ!」 ――そう言って、ジュダは走り去った。 後書き ジュダ……口悪過ぎ……。 しかし、フェリちゃんてばどこから情報得たんだか。 24へ→ |