OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 22

「フランシスさん……」
 フランシスはつかつかとマシューのところへやってきた。
 そして――
 バシーン!と思い切り平手打ちした。
「な……何?!」
 マシューは、悲しみよりも、叩かれた痛みよりも、驚きの方が先に立った。
 フランシスは何も言わずにマシューをずるずると引きずって行った。
「青春だねぇ……」
 ジョン・フォレストが呟いたが、二人とも聞いてはいないのであった。

(ジョン・フォレストさん)
(ジョーンズか……)
 ジョン・フォレストは、ジョーンズに思念で答えてやる。
(さっきはびっくりしましたよ。まさか、僕の正体に気付いて、話しかけてくるなんて)
(マシューに何かとり憑いてるのがわかったからな。オーラで)
(とり憑くなんて……僕は背後霊じゃありませんよ)
(似たようなもんだろ)
 ジョン・フォレストはゆっくり息を吐いた。敵側の男達は彼を恐れて近付いて来ない。
(とにかく、僕はマシューを守ってあげるんだ)
(フランシスとマシューを取り合うのか? 奴さん、かなり本気だぞ)
(僕は……マシューを守りたいだけです。僕の恩人だから。彼がいなかったら、僕の目は開かなかったでしょう)
(そうだな……けど、いいのか?)
 ジョン・フォレストが一拍置いた。
(K国の守護神であるおまえが)
(構いません)
 断固とした決意が、ジョン・フォレストの頭の中に流れ込んできた。
(そうか、なら協力してやる。俺もK国の人間は好きじゃない)
(ありがとうございます)
 ジョーンズは礼を言った。

「ふ……フランシスさん……」
 フランシスは思いのほか足が速い。マシューはついていくのにせいいっぱいだ。
「フランシスさんてば!」
「うるさい!」
 フランシスは珍しく本気で怒ってる。
(でも、何故?)
「フランシスさん……どうしたって言うんですか」
「……ジョン・フォレストと浮気してたんじゃないだろうな……おまえは、俺にくっついてればいいんだ!」
「な……!」
 何て勝手な台詞! そして――……こともあろうにジョン・フォレストと浮気だって?!
 冗談じゃない!
 それに、それに――
「フランシスさんだって浮気はいっぱいしてるじゃありませんか!」
「おまえに対しては本気だ!」
「信じられません!」
 マシューは、自分が言ってはいけないことを言ってしまったことを悟った。
 フランシスが、見たこともないような怖い顔で睨む。
(あ……)
 今更ごめんでは済まない。その時だった。
「あっ!」
 二人の姿を見つけた一人の男が発砲した。フランシスは、マシューを突き飛ばした。
「うわっ!」
 マシューが体勢を崩しているうちに、フランシスは男をやっつけて銃を奪った。
「おまえは俺が守る!」
 フランシスは宣誓した。
「フランシスさん!」
 マシューが駆けつけた。
「マシュー……」
 銃弾がフランシスの肩口に穴を開けていた。傷口から血が流れている。
「フランシスさん! 怪我!」
「はっ! こんなもん、何でもないさ。坊ちゃんなんかの攻撃に比べりゃな……」
 フランシスは、痛そうに顔をしかめた。
「どうだ、マシュー。俺のこと、信じてくれたか……?」
「う、うん。それより、手当を……」
「いいってことよ。まだ死ぬほどの怪我じゃない」
「でも……」
 ぺったぺったぺった。
 およそシリアスな場面に似合わない間の抜けた足音が近付いて来た。
「ジョン・フォレストさん!」
「何ッ?!」
「いよう、生きてたのか。フランシス坊や」
「俺が……坊やだと?」
「これでもおまえ達より長生きしてるもんでね」
 ジョン・フォレストは、にっと笑った。
「ジョン・フォレストさん! フランシスさんを助けてください!」
「オーライ」
「イヤだ……」
 かすれ声でフランシスは言った。
「アンタに借りは作りたくないね」
「おまえさんが痛い思いをすると、困る人が大勢いるんだ」
 たとえば、フランス国民……『国』の化身が怪我をすると、その『国』もただでは済まない。
 それに、マシューや、マシューが傷つくと自分が傷ついたようになるジョーンズ……。
「わかった。……痛くしないでね☆」
 フランシスは、さっきとは態度を変えて、冗談を飛ばしながらウィンクした。しかし、その瞬間、辛そうに眉を顰めた。
「あいよ」
 ジョン・フォレストの瞳が紫に変るのを、マシューは見た。
「あ……」
 銃弾が、フランシスの肩口から出てきた。
(念動力……)
 マシューは、それを驚愕の目で見つめていた。そして、弾丸はマシュー質の眼前で粉々に砕けた。
「ようし。後は治療だけだ」
 ジョン・フォレストは、フランシスの傷口に手をかざした。緑色の綺麗な光が彼の手から現われた。
 穴がみるみるうちに塞がっていく。やがて、血の痕も消えた。
「痛くない……」
 フランシスは意外そうな面持ちで撃たれた肩に手をやった。怪我は完治していた。彼はふっと笑った。
「ジョン・フォレスト……アンタを疑って悪かった」
 フランシスは手を差し出した。
「フランシス・ボヌフォア、アンタは誇り高い男だ」
 ジョン・フォレストは賞賛した。そして続けた。
「俺はマシューとは何でもない。今の俺の女は、フローラただ一人だ」

後書き
緑色の綺麗な光……GN粒子?! とセルフツッコミを入れてみました(笑)。

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