OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 21

「俺は絶対アーサーと行くんだぞ! ヒーローだからな!」
「俺も耀兄貴のことは守ってやるんだぜ」
 ――などと、少々うるさい面々もいたけれど……案外すんなりと決まった。
 そして――。
 今、マシューは広い建物の中で一人ぼっちである。他の人々とはぐれたのだ。
(ああ、どうしよう……)
 見つかれば、殺されるのは確実。敵に撃たれたら、マシューだってただでは済まない。
「フランシスさーん」
 危険を承知で、フランシスの名を聞こえるに呼ぶ。
 しーん。
「アルー」
 しーん。
「エリスさん! ルートヴィヒさん! アーサーさん! 菊さん……!」
 緊張でパニックになったマシューが、叫び声を上げ始めた。
 それにしても――頼りになりそうな人物の順に呼んでいるのは、気のせいではないだろう。
「ちょっと怖いけど……イヴァンさん……」
 やはり、返ってきたのは沈黙だけ。
 こうなったら……。
 いないよりはいた方がいい彼の名を言った。
「フェリシアーノさん……!」
 しーん。
 やはり、応えはない。
(僕、一人だ……)
(何言ってるんだい? 君は一人じゃない)
(ああ、ジョーンズ……)
 アルフレッドと違い、ジョーンズは頼りになる。
(それにほら、彼がいる)
 ジョーンズの声と共に、ひょっこりとジョン・フォレストが現われた。
「ジョン・フォレストさん!」
(ああ、そう言えばこの人がいた!)
 マシューは安堵の息を洩らした。
「おっ、マシュー」
「ジョン・フォレストさん……」
「何だい?」
「あ、あの、どうしてここに……」
(もしかして僕を探しに来たのかも……)
 マシューは彼の姿に一条の光明を見出す。
 が――。
「ああ、それがさぁ、俺、道に迷ったんだわ」
 こんな時だというのに、ジョン・フォレストは大声で笑う。
 よくこんな時に笑えるもんだと、マシューは感心するより呆れた。
(この……この人が助けてくれると、一瞬でも思った僕が馬鹿だった……!)
 これでは迷子が二人になっただけである。
(そう言うもんじゃないよ、マシュー)
 再び、ジョーンズの懐かしい声。
(そ、そうだね。この人、ロープを不思議な力でばらばらにしたんだもんね)
 マシューが気を取り直していると――。
「おまえら! 逃げる気か!」
 黒服にサングラス、典型的な悪役ファッションの男が銃を構えた。
「ああ、そうだ」
 こんな時にまでそんな返事しなくたっていいでしょうに――はらはらしながらマシューは思った。
 銃弾がジョン・フォレストに向かって発射される。――ジョン・フォレストがマシューの前にいたからだ。
(ジョンさん……!)
 目をつぶる暇もなかった。
 銃弾は、一瞬で粉々になった。
「え……」
 これにはマシューも驚いて目が点になった。
 国としてずいぶん長生きしたけれど、こんな奇跡を見たことは一度だってなかった。
「な……何だ何だおまえ!」
 男もうろたえ出した。
「俺に銃は効かない」
 ジョン・フォレストは威圧するように静かに言った。
「ふ……ふざけやがって!」
 パンパンパーン。
 男は銃をジョン・フォレストに絞って撃ち続けた。
 ――やがて、弾が切れた。
「さぁ、無駄な殺生はしたくない。逃げるか怪我するか、どちらか選べ」
 ジョン・フォレストが凄んだ。
 こういう時、普通だったら、前者を選ぶ。
(抵抗する方を選ぶのは、アルのバカしかいないよね……)
 マシューはこっそり思った。或いは、イヴァンの人間ダンプカーとかは戦う方を選ぶかもしれないが。
 果たして、男は逃げた。
「あ、あの……男、逃げちゃいましたけど……」
「ああ、いいんだ、いいんだ。もともと逃がすつもりでいたからね」
「でも、敵ですよ」
「敵でもだ。俺は人殺しはしたくない」
 ジョン・フォレストはふっと真顔になった。
 ああ、この人は優しい。強いだけでなく。
 戦争は嫌だと言っていた。僕も嫌だ。
 この人と、仲良くなれるかもしれない。
 ここで出会ったのが、この人で良かった――。
「ねぇ、ジョン・フォレストさん。僕、あなたと友達になれるでしょうか……」
「ははっ。面白いこと訊くな。マシューは。大丈夫。俺達は既に友達だ!」
「――はいっ!」
 マシューが元気よく叫んだ。
(もう大丈夫だ。僕にはジョン・フォレストさんがいる)
「なるたけ、俺の後ろについてけよ」
「はいっ! はいっ!」
(この人は、スペシャルに、最高に、うんと信じがいのある人なんだ!)
 マシューはぴったりとジョン・フォレストの後ろについた。
 ジョン・フォレストはお喋りで――それが少し煩わしかったが……それでも、命の危険がなくなったのだから、安いものだ。
 ジョン達は、何人かの敵に会ったが、全てそれを退けていた。
 マジックの親友(?)だけのことはある。この人は、すごい能力の持ち主だ。
(ジョーンズ……もしかしてジョン・フォレストのこと知ってた?)
 マシューはジョーンズに話しかける。
(うん。もう一人のジョン――ジョン・スミスのこともね。もう言ってもいいかな。彼が君達の敵であることも、君達より前に知った。多分、ジョン・フォレストも気付いていたと思う)
(じゃあ、どうして教えてくれなかったんだい?)
(……彼もわけあり、だからかな。だから、黙ってた)
(それでも、何故……僕に隠し事なんてひどいじゃないか! 友達なのに!)
 その時、フランシスがやってきた。

後書き
ジョン・フォレスト大活躍!

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