OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 20

「検閲だぜ」
「エリザベータさん……」
「今だけはエリスって呼んでくれ」
 すっかり男らしくなったエリザベータ――エリスがウィンクをくれた。
「よっしゃ、エリス。一緒に組織壊滅と行こうぜ」
「やだ」
 ギルベルトの誘いをエリスはすげなく断った。
 ――マシュー達一行の乗っている、ジョン・スミスが運転していたバスは、国境付近で止まった。K国の警察とおぼしき一群が彼らを取り囲んだ。
「マシュー・ウィリアムズ! およびその一行、身柄を確保する!」
「ええー!!」
 まさかいきなりそう来るとは思わなかったマシューである。
「俺達が何か悪いことしたのかよ!」
 エリスがいきり立つ。
「黙れ! さっさと出てこい」
「――仕方ないね。みんな行こう。君達も来るんだぞ。ジョンその一、その二」
「……何だ? その一、って言うのは」
 アルフレッドの言い方に、ジョン・フォレストは苦笑いを隠しきれない。
「早く来いよ。ジョン・スミス」――と、バスの出入り口でアルフレッドが呼ぶ。
「――貴様の指図は受けない」
 ジョン・スミスの口調ががらりと変わった。
「……ジョン?」
「俺はジョン・スミスではない」
 皆がバスから降りると、ジョン・スミスは、K国側の人間に向かって敬礼をした。
「ジュダ・マイヤー少佐、ただいま帰還しました」

 マシュー達は牢屋に放り込まれた。
「くっそー。あいつ、とんだ食わせもんなんだぜ」
 イ・ヨンスが縄に縛られたままぐちぐち独り言を呟く。
「あいつを信じた俺が馬鹿だったんだぜ」
「おい、アル。お前の部下だったんだろ? あいつ。何か変な様子でもなかったか?」
 アーサーが訊く。
「そうだねぇ……女の子によく電話していたみたいだったけど」
「アホ。その中に隠語でも混じっていたんだろうよ」
「ジョン・スミスにとっては、女の子に電話はいつものことだよ」
「とにかく、あいつを信用していたお前がアホだって話だ」
「君も疑ってなかったじゃないか」
「当たり前だ! あんなちゃらちゃらした奴、誰が疑う」
「あれでも腕利きのスパイだったんだけどなぁ……」
 アルフレッドが惜しそうに呟く。溜息をついて。
「まさかダブルスパイだったなんてなぁ……」
「過ぎたことはいい。早く縄ほどけ」
「自分で何とかしなよ。いっつもしてるプレイだろ?」
「してねぇっ!」
「アルにアーサー、痴話喧嘩してる場合じゃないね。何とかするよろし」
 王耀が言った。
「君だって丸投げじゃないか」
 アルフレッドが反駁する。
「みんなー。仲間割れしてる場合じゃないよー」
 マシューが泣きながら訴える。だが、誰も聞いていない。
「平気か? フェリシアーノ」
「ヴェー、縄痛いー」
「待ってろ。今、外してやるからな」
 先に自分の縄を解いたルートヴィヒがフェリシアーノの縄をほどきにかかる。
「ロヴィーノ。大丈夫かー。親分が助けてやるからな~」
「早くしろ! アントー二ヨ」
 アントー二ヨもなかなか大変だが、本人によればロヴィーノのこういうところがいいらしい。だから、他人が口を差し挟む余地などないのだが――。
 それでもやっぱり、ちょっと気の毒だ。マシューなんかから見れば。
「ほら、マシュー。じっとしてな」
「ありがとうございます。フランシスさん」
 見ると、ヘラクレスと菊も、ラブラブモードを発散させながら、何か言っている。
「ほらー。トーリス、早くするんだしー」
「待ってよ、フェリクス。動かないでよ」
 フェリクスとつき合っているトーリスは、何かと世話が焼けるようだ。
「おっし。こっちは終わったぜ」
「馬鹿だなぁ。ギル。こんな縄三秒で解けないとは」
「何だと?! エリス!」
「お……お馬鹿さん。早くこっちも救出してください」
 口調は丁寧ながらも、どこか居丈高なお坊ちゃん、ローデリヒ。
 ギルベルトがによによし始めた。ろくでもないことを思いついた時の彼の癖だ。
「よーし。助けてやるからお前の領土のどっか寄越せ。ウィーンでもいいぞ」
「こ……このお馬鹿さん。そんな条件飲めるわけないでしょうが」
「じゃあ、一生そのままでいろよ」
「く……」
 その途端、ギルベルトの後頭部にフライパンが!
「いってぇ~! 何だよ! エリス!」
「早くローデリヒを助けろ! 俺が剣を差してなかったことに感謝するんだな!」
「わぁったよ。冗談だよ、冗談」
 ギルベルトも大人しくなった。エリザベータ――エリスには敵わないらしい。
 イヴァンはもうとっくに自由の身である。縄を引きちぎったのだ。さすがに逞しい。
 ジョン・フォレストは、牢屋の隅でじっとしている。
「あのー、ジョン・フォレストさん……?」
 フランシスから助けられたマシューが声をかけようとした。だが、いつもとは違うオーラがジョン・フォレストを包んでいる。
「俺は縛られていると思えば縛られている。が――」
 ジョン・フォレストはかっと目を見開いた。ロープがばらばらになった。
「縛られていないと思えば縛られていない」
(す……すごい……)
 マシューは思った。ジョン・フォレストには、マジック並みの特殊能力があるのではないだろうか。
 全員の戒めが解かれたところで。
 アーサーが針金で牢屋の鍵を開ける。
「さあ、脱出なんだぞ!」
 アルフレッドが叫んだ。
「おまえなぁ、少し静かにしろよ」
「ん。わかった」
 アルフレッドは珍しくアーサーに従った。
「この大所帯じゃなぁ……二手に分かれるか?」
 フランシスが言った。
「そうだな……じゃあ、俺とアーサーと一緒なのは決定だな」
「俺と兄貴もなんだぜ」
「じゃ、マシュー。お兄さんと来るか?」
 フランシスが手を差し伸べた――誰と行くかでまたもめそうな気がする。マシューはどっと疲れが出てきた。

後書き
K国へはバスで向かっていたことを、前回書き忘れてました(汗)。

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