OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 2 「フランシス、フェリシアーノ、会議だぞ」 アーサーがマシューの部屋に入ってきた。 「おっ、もうそんな時間か」 フランシスは扉に向かう。 「もう……行ってしまうんですか?」 マシューが心細そうに訊く。 フランシスは、そんな彼に向かって微笑んだ。 「まぁな――すぐ帰ってくるよ。護衛もつけといたから、まずは安心だよ」 「ヴェー、またね」 フランシスとフェリシアーノが行った後―― 「じゃあ、俺達、ちょっと話し合ってくるよ。おまえはあんな目にあった後だから、ゆっくり休んでていいぜ」 アーサーが労って、スライド式のドアを閉めた。 三人がいなくなって、マシューには静かな時が訪れた。 マシューは、気を紛らわす為、天井のシミの数などを数えていた。 (やることがないって、辛いな) 自分も会議に出たかったな、とマシューは思う。アーサー達の気遣いはわかるが。 しかし、とろとろと眠気が襲ってきて、そんなことも考えられないようになり――マシューの意識は暗闇に落ちた。 「さぁ、みんな揃ったか!」 アルフレッドはいつものように元気いっぱいだ。 「どうしてそう張り切ってるんだよ。おまえは」 「マシューが危ない目にあったんだ。どうしても、ここは一発、敵さんをノックアウトしなきゃ気がすまないってもんじゃない?」 「でも、『赤い三月』は壊滅したんじゃなかったっけ?」 イヴァンがのんびりとした口調で話す。この男は、どこか心優しい大熊を思い起こさせる。しかし、本当は子供の純粋さと残酷さを兼ね備えた、恐ろしい男なのだ。 「それについては俺が話す!」 ギルベルトが、得意げに立ち上がった。 「とかげの尻尾切りだよ。今回の件は」 「とかげの尻尾切り?」 「そう。『赤い三月』はとかげの尻尾だったんだ」 「うむ」 ギルベルトの台詞にルートヴィヒが頷く。 「俺達が『バックに大物がいる』と睨んで調べていた時、大変なことがわかったんだ」 そして、ギルベルトは水を飲む。 「ヴェー……でも、どうしてギルベルトさんは、大物がいることわかったの?」 フェリシアーノの疑問は尤もだ。 「それはな……長年の経験と勘だ!」 「ヴェー……」 (それじゃ出たとこまかせじゃないか!) と、みんな思っている。フェリシアーノですら、呆れ顔だ。 「で、大物とは?」 フランシスが尋ねる。マシューの世話にかかりきりだったので、あまり事情には通じていない。 「うん。聞いて驚け……K国軍情報部だ!」 「K国?!」 「な、厄介だろ?」 誰かの驚きの声に、ギルベルトは答えた。 K国――と言っても、韓国の近くのあの国ではない。 ヨーロッパの近くの小国だ。小さいからと言って、軍事力は侮れない。 「ヴェー……菊。K国のこと、知ってる?」 「そうですねぇ。私も一個の国ですから、いろいろな噂は耳にしますが……どれも眉つばものなんですよね」 「悪魔崇拝をしているとか、人間兵器が存在しているとかな」 アーサーがバサッと部下の報告書を机の上に投げた。 「そしたら、君とおんなじじゃないか!」 アルフレッドの言葉に、 「ばぁか。悪魔と妖精は違うんだよ」 とアーサーが返す。 「でも、俺のこと呪ったりもしてたじゃないか」 「う……あ、あれは……。でも、もっとたちの悪いもんだよ、きっと」 「でも、どうしてK国が絡んでるって、わかったの?」 フェリシアーノの当然の疑問、その2。 「ふっふっ、それはね……おおい、入っていいよ」 アルフレッドが言うと、 「はぁーい!」 と、大きな声がして、一人の人物が登場した。 「ジョン・スミスだ。俺の国のスパイで、なかなか優秀なんだぞ!」 「ジョンでーす! コロラド出身でーす! どうぞよろしく!」 金髪のちゃらちゃらした男が、自己紹介をする。顔はまぁ、端正と言っていいだろうが、何となくノリが軽い。 「なっ……なっ……」 フランシスはわなわなと震えている。 「どうしてこんな奴を呼んでくるんだ! 冗談ごとじゃないんだぞ!」 会議に出ている男達も、多かれ少なかれ同意見である。 「こう見えてもジョンはすごいんだぞ」 「なんだと? おい、アーサー、おまえからも何とか言ってやってくれ」 「いや、俺の国にも似たような奴がいるから」 ハワードのことを思い出して、アーサーは盛大な溜息を吐いた。 「まぁまぁ。君の大事なマシューが危ない目に遭ったからって、余裕を失うのは、いけないことなんだぞ」 アルフレッドがたしなめようとする。 「だ……誰が、大事なマシューって……」 「あれ、違うのかい?」 「ち……違わない! 違わない! けど!」 「なんだよ。取り乱して。君だって俺とアーサーのこと散々冷やかしたくせに」 立ち上がっていたフランシスは、アルフレッドの言葉にくらくらしながら、どさっと席に着く。 「K国か……厄介な相手あるな」 アルフレッド達のやり取りを気にも留めずに、王耀が独り呟く。長い髪を一つに纏めて、うっかりすると女性に見間違えられるほどの美形だ。 その彼が、手を組み合わせその上に顎を乗せているのは、絵心のある人間なら、スケッチしたいと思っても無理はない。 「あ、綺麗なお姉さんがいる。お嬢さん、俺とデートしてくんない? あのランドででも」 「ば、馬鹿を言うなある。今、大事な会議中ある」 王耀がジョンを叱る。さすが仙人。伊達に四千年は生きていない。 「えー、いいじゃーん。頼むよーう。こんな仕事、ぱぱっと終わらせてさ」 「ジョン」 アルフレッドが咳払いをする。 「で? 君は何か話したいことがあったんじゃなかったのかい?」 「あ、そうそう。マシュー・ウィリアムズはね、アルフレッドに間違えられたわけじゃないの」 「何? どういうことだ?」 ルートヴィヒが身を乗り出す。 「マシュー・ウィリアムズは、『マシュー・ウィリアムズ』として殺される予定だったんだ」 「えっ?!」 「つまり、人違いでも何でもなかったわけ」 「でも、どうしてマシューが……あんな人畜無害な男が……」 「それはね――最初に箱を開けてしまったのが、彼だったから」 会議場に沈黙が下りた。みんなしばらく、無言のままだった。 後書き ちょっと尻切れトンボかなぁ……まぁ、まだ続きがありますからね。 2010.7.28 3へ→ |