OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 19 マシュー達『国』の化身の面々はK国の首都を目指していた。 「まさかおまえが一緒に来るとは思わなかったで」 アントー二ヨが言った。 「お目付役だとさ。――マジックは軍部を叩くそうだから」 ジョン・フォレストがぶすっとして答えた。 マジックはきっと厄介払いしたかったのだろう。マシューがくすっと笑った。 彼らはマジック達青の一族とは別行動である。 「なんか遠足みたいなんだぞ」 「のん気だな。おまえは。マシューの命がかかってるんだぞ」 楽しんでいるアルフレッドをアーサーは窘める。 「君と一緒にいれば、何も怖くないんだぞ。命がかかってようが、ピクニックと同じ気持ちになれるんだぞ」 「アル……」 アーサーは照れているようだった。しかし、また続けた。 「馬鹿。命を狙われてるのはマシューだぞ」 「馬鹿はそっち。マシューに協力すると決めた時点で俺達も命の危機にさらされているんだぞ」 「むっ……口ばかり達者になりやがって」 「誰かさんの育て方が良かったせいでね」 「――皮肉も言えるようになったとはな」 アーサーはさぞかし苦い顔をしていることだろう。後ろ向きなのでわからないが。 アルフレッドはアーサーを言い負かして、得意になって笑っている。まだまだ子供なのかもしれない。 「マシュー。あの二人が気になるのか?」 フランシスが声をかけた。 「いえ、別に」 マシューはまた考えに耽っていた。 (僕が命を狙われているわけ――ジョン・スミスさんは何か知ってるようだけど――……) 僕の開けたパンドラの箱って何だろう。もしかして、みんながこんなに苦労してるのは――僕のせい? 会議の時は、途中で遮られたが。イ・ヨンスもどこで嗅ぎつけたのかいきなり登場したし。 (ジョーンズ……僕を守ってくれ) マシューは願いを込めて祈った。 ジョーンズとは、今、目の前を歩いているアルフレッド・ジョーンズのことではない。夢の中の友達、ドラゴンのジョーンズのことだ。 (夢の中でしか会えないのかなぁ……) マシューが残念がっていると、 (そんなことないよ) と、声が聞こえた。 「ジョーンズ?!」 「どうした? マシュー!」 フランシスが心配そうに訊く。 「いえ……何でもないんです」 マシューは首を横に振った。 (僕はいつだって君のそばにいる。ようやくそれができるようになったんだ。姿はまだ現わせないけど――僕は君のおかげで、ずいぶんいろいろなことができるようになったんだよ) ジョーンズの声が頭の中に響いた。 (どうして……? 僕は何もしていないのに。それどころか、僕がみんなに迷惑をかけているのかもしれないのに) (また言うけれど、そんなことないよ。僕はね、マシュー。君の役に立ちたいと、いつも考えていたんだ。赤い実を取ってきてくれただろ? あれは魔法の木の実なのさ) (魔法の木の実……) (その木の実は食べた者を何でもできるようにする。時間はかかるけれどね。おかげで願いが叶うようになったのさ) (へぇー。だったら僕も食べたかったな) ドラゴンのジョーンズ。いつも優しかったジョーンズ。 もしかして、パンドラの箱とは、あの木の実のことなのかもしれない。 「平気か? マシュー。お兄さん、心配になるよ。気持ちはわかるけど」 「大丈夫!」 マシューは嬉しそうに微笑んだ。 ジョーンズもいるから、大丈夫だ。 みんな、仲間なんだ。 マシューは心の中がほこほこするのを感じた。 「ねぇ、みんな」 マシューの呼びかけに、一行は足を止めて彼の方を見た。彼は続けた。 「ありがとう。僕の為に。狙われているのは僕だというのに、協力してくれて」 「いやいや。君の為だけにしているわけではないんだぞ」 と、アルフレッド。 「俺達は友達なんだぜ。友達が困っている時に助けるのは当たり前なんだぜ」 と、イ・ヨンス。 「日本にも、『義を見てせざるは勇なきなり』という諺があります」 と、菊。 「このお礼はモントリオールでいいからね。あ、オタワも欲しいな」 イヴァンの要求は少し怖い。無邪気であるからこそ。 「お兄さんは君の恋人だよ。恋人を守るのは当然の義務だよ。そうだろ? アルフレッド」 フランシスがアルフレッドに話題を振った。 「そうなんだぞ! それでこそヒーローなんだぞ! だからアーサー! 君も心配しなくていいんだぞ!」 「どうしてそこで俺が出て来るんだ」 「ああ。君は馬鹿だからわからないんだね。じゃあ、こういえばいいかな? ――君は僕が守る」 「アホ……自分の身くらい自分で守れるぜ……」 そう言いながらも、アーサーがポポポと赤くなる。 それが何故か微笑ましかった。 (いいな、この二人。お似合いだよ) 昔は、アルフレッドに淡い恋心を抱いたこともあったけど、今なら彼らを祝福できる。 何故なら、マシューにも大切な恋人ができたから。 (フランシスさん……) マシューはフランシスをそっと盗み見た。相手はそれに気付いたのか、ウィンクで応えた。 「マシュー」 柔らかい、女の子らしい声が聞こえた。エリザベータだ。 「エリザベータさん……」 「久しぶりに腕が鳴るぜ」 エリザベータはぼきぼきと手の骨を鳴らして凄んだ。 「エリザベータさん……?」 「この髪飾りともしばらくお別れだぜ」 エリザベータは髪に挿していた花を外して、髪を輪ゴムでひとつにまとめた。口調もがらっと変わった。 「安心しなよ。マシュー。俺達がついてるからな」 「え……エリザベータさん……?」 マシューは目を白黒させた。普段の穏やかで女らしい彼女とは違う。 「これがエリザベータの本性なわけよ」 ニヨ二ヨしているギルベルトに、 「本性とは何だ!」 と、エリザベータはぽこぽこと怒りを露わにしている。 「まぁいいや。一緒に敵を倒そうぜ!」 二人はがしっと手を握った。男と男の友情ものみたいである。マシューはただただ唖然としている。 「――私は何をすればいでしょう」 おっとりと訊くすっかり蚊帳の外のローデリヒに、 「おまえはワーグナーでも弾いとけ」 と、ギルベルト。 士気を高めるには案外いいかもしれないが、生憎ここにはピアノがなかった。 後書き 男前なエリザベータが戻ってきました(笑)。 20へ→ |