OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 17

 ゴォォォォォ――。
 飛行船がガンマ団本部を目指して飛んでいく。
「あの……」
 マシューがハーレムにおずおずと近付いた。
「何だ?」
「あの人達……本当にあれでよかったんですか?」
「無論だ」
 ハーレムはテーブルに脚をかけながら薄眼を開けた。
「しかし、珍しいね。君が部下を連れて行かないなんて。寂しがり屋の君が」
 サービスが沈痛な面持ちで言った。
「これは俺の一族とこいつらの問題だ」
 そう言って、親指でマシューを指差す。

『俺達置いて行くなんて、隊長本気かよぉ!』
『うるさい! もう決めたことだ!』
『どうして……俺だって隊長の役に立てますよ!』
 そう言ってロッドは泣いた。
『隊長……私も今回の命令には不満があります』
『……ああ』
『何だよ。マーカー、G』
『私達も一緒に連れて行ってください』
『ハーレム隊長……俺――私も、マーカーに賛成です』
『だめだ』
 ハーレムは頑としてきかない。
『どうして俺達はだめで、キンタローはいいんですかぁ』
『キンタローは俺達の一族だ。一族のけじめはきっちりつけさせてもらう』
『そんな――俺はただ、隊長の役に立ちたかったのに――あんまりですよ。肝心な時にポイ、なんて。俺は何の為の部下っすかぁ……』
『おまえ達はよくやっている。だから、一人として犠牲にしたくない。それだけだ』
 ハーレム達の間では、そんなやり取りがなされていたのだ。
 それをサービスや他の国々は知らない。マシューだけが、特戦部隊のこんな言い合いをしている部屋の前を通りかかり足を止めた。
(ロッドさんはきっと……ハーレム隊長という人が好きなんだ。そして、おそらく他の人達も――)
 マシューはそう悟った。

「ハーレム隊長」
 マシューは真剣な顔で言った。
「絶対、無事で帰ってきましょうね」
「勿論だとも」
 ハーレムが笑んだ。
「あいつらに土産のひとつでも持って帰ってやる」
「あ、あの……誰かを拉致とかは止めてくださいね」
「人を何だと思ってやがる」
「君はリキッド君を拉致したじゃないか」
 アルフレッドが横合いから口を出した。
「戦力になると思ったからだ。しかし、おまえの上司の息子とは知らなかったな。結構迂闊なところもある奴じゃねぇか」
「なにぃ?! 大統領の息子を馬鹿にするなんて、許さないんだぞ」
 アルフレッドがハーレムに対して噛みつかんばかりの顔になる。
「まぁま、滾るなよ」
 フランシスがどうどうとアルフレッドを宥めた。
「ふん。君なんか嫌いだよ」
 アルフレッドが捨て台詞を残して去って行こうとする。
「嫌いで結構」
「あれは俺に言ったんじゃないかね」
「フランシスもハーレムも大っ嫌いだよ!」
 シューッ、と扉が閉まる。
「うーん。アルフレッドってば……若いってのはいいことばかりじゃないねぇ」
 フランシスは自慢の髭をぞりぞりこする。
「俺もアンタみたいなちゃらちゃらした奴は嫌いだけどな」
「おや。ハーレムなんて名前からして助平な癖して、意外と真面目なんだな」
「茶化すな。文句だったら兄貴に言え」
「親に言え、の間違いでは?」
「マジック兄貴が俺達双子の名付け親だったんだよ」
「マジックねぇ……名前からして胡散臭い」
「知るかよ。そんなこと」
「じゃ、僕、もう寝ますから」
「僕も行くよ」
 マシューとサービスが、まだ口論を続けているハーレムとフランシスを残して部屋を出て行った。

「ふぅ……大丈夫なんでしょうかねぇ。あれで」
 マシューが溜息を吐いた。
「心配はいらない。ハーレムは性格破綻者だが、請け負った仕事はきっちりこなす」
 サービスは綺麗な外見に似合わず、結構毒舌家だ。しかし、その口調からは双子の兄に対する信頼も伝わってくる。
「じゃあ、おやすみ、マシューくん」
「あ、はい。おやすみなさい」
 マシューは慌ててサービスにお辞儀をした。菊から習った、日本式の挨拶である。
 かっかっと踵の音をさせるサービスの長い金髪がさらさらと鳴った。微かに薔薇の香りもする。アーサーの匂いに似ている。
(ふぅ……あの人も一筋縄じゃいかなさそうだな)
 悪い人ではないと思うんだけど――マシューはベッドに潜り込んだ。
 しかし、いろいろな人がいるもんだなぁ。圧倒されてしまいそうだ。
 アル一人だけでも手を焼いているのに――疲れていたマシューはつらつら考えているうちに、そのまま寝入ってしまった。
「マシュー、マシュー……」
「……ん?」
 ドラゴンの姿を見て、マシューはがば、と跳ね起きた。
「ジョーンズだよ、マシュー」
「あ、ああ。また夢か」
 それにしても、声までアルにそっくりだ、とマシューは思った。
「だって、君がそう設定づけたんだもの」
「……え? もしかして、君、僕の思ったことがわかるの?」
 だとしたら、ちょっと気味悪いな、と密かに心の中で呟いた時、ジョーンズがほんの一瞬悲しそうな顔をした。
「僕のこと、不気味だって思った?」
「う、うう……まさか……」
「本当に?」
「実は……ちょっと思った」
「正直だね。僕、君のそんなところが大好きさ」
(アル――)
 マシューの思考がアルフレッドのことに飛んだ。現実世界のアルフレッドも、僕のこと好きだって言ってくれるかしら。
 でも、アルフレッドにはアーサーがいるし、自分にだってフランシスがいる。フランシスは浮気ばっかりしてるけど――。
「ねぇ。君、嫌いな国とかはないの?」とジョーンズ。
「基本的にないよ。もうちょっと僕のこと知って欲しいという気はあるけど――あ、それからアルに似ていると言われるのが一番嫌だな。後は――」
「僕のことはどう思う?」
 好きだよ。大好き。ジョーンズにそのことを伝える為に、マシューは自分の頭をそのドラゴンの首にこすりつけた。

後書き
ジョーンズが出せてよかったです。

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