OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 16

 さて、こちらは会議室――。
「ねぇ、フェリちゃんて、好物何なの?」
 ロッドが机に腰掛けながら、フェリシアーノに話しかける。ロッドの馴れ馴れしさは、同郷の気安さか、それとも天性のタラシなのか。
 苦い顔のハーレムが横目でちらちら見ている。
 フェリシアーノはそれに気付いてるのか、いないのか。
「俺ね~。パスタが好き~」
「おー、パスタね」
「フェリ。こんな奴と話すな」
「ロヴィの言う通りやで」
「いいじゃん。アントー二ヨのおっさん」
「お……」
 絶句するアントー二ヨに、フェリクスがぷっと吹き出す。
 彼らはアルフレッド達が帰って来たのもわからないようだ。
 アルフレッドはアーサーの隣に座って、故意にダンッ!と大きな音を立てて長い脚を乗せる。
「どうした……アルフレッド」
 一瞬息を呑んだアーサーが訊く。
「何でもない」
 アルフレッドはむくれている。
 耀とヨンスとジョン・スミスが入ってきた。
「だからね、俺はね……」
「それは認めることできないんだぜ」
「我もちょっと無理ある」
 何かわからないが、言い合いをしているらしい。
「おう。おまえら」
 アーサーが言った。
「何でアルフレッドが不愉快そうにしているのか、知ってるか?」
 アーサーの質問に三人が揃って言った。
「知らない」
「――訊いた俺が馬鹿だったぜ」
「ははっ。見たかい? マシュー。坊ちゃん、あえなく引きさがったぜ」
 と、フランシス。
「はぁ。僕にはアーサーさんの気持ち、わかるような気がしますが」
「おっ。マシュー、坊ちゃんの肩持つ気? ははん。おまえさん、昔は英領だったからな」
「それもありますけど、あなたよりはわかりやすいですから」
「『あなた』なんて他人行儀な。フランシスと呼んで」
「わかりました。フランシスさん」
「ついでに敬語もやめろよ」
「今更やめろと言われても」
「もっと親しげに行こうぜ。俺達、恋人同士なんだから」
「こ……恋人?!」
 マシューがポポポと赤くなった。
「それとも、お兄さんとじゃ嫌?」
 フランシスは、自分より若い国に対しては、自分のことを『お兄さん』と呼ぶ。
「い……いえ。そうではありません。恋人、いたためしないですし」
「じゃ、今から俺がマシューの恋人、いいね」
「そう言われても……」
「こら、公衆の面前で何言ってるんだ」
 ルートヴィヒがフランシスの後ろに回ってチョップを食らわす。こういうのは、普段アーサーの役回りなのだが、アーサーはアルフレッドの心配をしているようだ。
 アルフレッドが、おかしい。
 それは、菊が「遅くなりまして」と言って入ってきた辺りから、ますますおかしくなった。
 アルフレッドは菊に怒っているらしい。何故だかわからぬが。
「おー。菊。アルも遅かったし。なげぇトイレだったな」
 ギルベルトが茶々を入れる。
「品がない」
「同感です」
 エリザベータとローデリヒは頷き合った。
「何だよエリザ。おまえだって昔は堂々とち……」
 バコーン!
 ギルベルトの後頭部にエリザベータのフライパンが炸裂する。調理器具も、彼女にかかっては凶器になるのだ。しかし、どこから出したのか。
「いってぇな! エリザ!」
「アンタが下品なこと言うからでしょ! さ、ローデリヒさんからも何か言ってやってください」
「ギルベルトさん……」
「おっ! 何だ?! ローデリヒ、やるか?」
「あんまり品のないこと言ってると、天国のフリッツ様に叱られますよ!」
 ローデリヒは、伝家の宝刀を抜いた。するとギルベルトの顔色が変わった。
「ごめんよ~。フリッツ親父~」
 彼は見えない祭壇に跪いて懺悔を始めた。
「……君達『国』って、こんな人々しかいないのかい?」
 サービスの当然の疑問にマジックが肩を竦める。グンマはけたけたと笑っている。キンタローは、
「我々だって似たようなものだろ……」
 と、呆れ顔で言う。
「ハーレムがまともに見えるなんてこの面子の中だけだね。特戦もいろいろ変わり者揃いだけど」
「言うな」
 サービスの言葉にハーレムが答える。
「菊……大丈夫か?」
 表情の優れない菊にヘラクレスが質問する。
「え? あ、何ですか? ヘラクレスさん」
「元気ないようだけど」
「そんなことないですよ」
 菊はアルフレッドのことはヘラクレスにも秘密にしておくつもりだ。ジョン・スミスが無害な男だったら、もちろん秘密裏に謝るつもりだ。堂々と表だって言おうとしないのが彼らしい。
「菊ちゃん、アルさん、会議で方向性が決まったよ」
「へぇ。これ一応会議だったのかい」
 アルフレッドは、本気でこれが会議だったのを忘れているようだった。
「うん。そうそう。君達が帰ってくる前に話し合ってたんだ。我々はガンマ団本部に行くよ」
 マジックが張り切って宙に向かって指を差す。
「ガンマ団本部に? 何しに?」
「おまえ、血の巡りが悪いな。本当に自分の国のことしか頭にないんだな」
 アーサーの嫌味にアルフレッドは、
「誰だってそうじゃない?」
 と、返す。
「実は、K国はガンマ団の領土なんだよ。ここで「えーっ?!」と言う者はこの中にはいないはず……」
「えーっ?!」
 マジックの言葉に、予想通りアルフレッドが奇声を発した。
「だから、おまえは世界のこともっと勉強しろ!」
 アーサーがアルフレッドの頭を小突く。
「何すんだい! 俺がアインシュタインばりの天才になったらどうするつもりだい!」
「ならねぇから安心しな」
「やっぱりアーサーさんて、かっこいいですね!」
「マシュー……あいつの真似だけはしないでくれよ」
 英国の領土ではなくなったのに、未だにすっかりアーサーに心酔しているマシューに、フランシスが釘を刺す。イヴァンは我関せずと言った調子で持ってきていたお菓子をぽりぽり食べていた。

後書き
ロッドはアントー二ヨの名前をいつ知ったんだろう……。

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