OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 14

「俺、あんまり大統領に会いたくないなぁ……」
 アルフレッドが独り言を言った。
「どうしてです?」
 と菊が質問する。
「だって俺、大統領に何も言わずに来ちゃったからさぁ……」
「大丈夫でしょう。あのお方は、そんな細かいこと、気にしません」
「ま、そうなんだけどさぁ……」
 全員が大統領に会いに行くわけではなかった。残りの者は、会議の続きをしていることだろう。
 ガンマ団日本支部の特戦部隊の控室に、そのアルフレッドの上司はいた。ものすごい長い金色のリーゼント。プレスリーの格好。見た人は思わず目を瞠ってしまうような姿である。彼は椅子に座っていた。
「やぁ、Mr.マジック。いきなり訪ねてきて、すまん・ね」
「いえいえ。いつでも歓迎しますよ。大統領」
 マジックは言った。
「それにしても、こんなむさくるしいところに案内するとはな」
「むさくるしいところで悪かったな」
 マジックの言葉に、ハーレムが憎まれ口を叩く。
「俺達、こんなところで満足してるんだから、いいでしょ? 別に」
 ロッドが珍しくハーレムに味方する。
「で? 大統領。どうしてこんなところに」
 マジックはロッドを無視して話を進める。
「それは……」
 大統領がちらっとアルフレッドの方を見る。
「我々の国が、ここに来ていると聞いたから・な」
『我々の国』――それは、アルフレッドのことである。
「大統領」
 震える声で、アルフレッドが言った。
「俺は、帰らないんだぞ。マシューが危ない目に合いそうなんだ」
「――何も、連れ帰ろうとしているわけではない・ぜ」
 大統領が、ふーっと息を吐いた。
「マシューというのは、カナダのことだ・な」
「そうだよ」
「アルフレッド――おまえも友達思いの国で、嬉しいんだ・ぜ」
「じゃあ!」
「アルフレッド! 友達の為に、働いてこい・よ!」
「わかってくれるか! 大統領!」
「あのぉ……」
 マシューと菊が、アルフレッドの後ろからやってきた。
「おお。マシュー。久しぶりなんだ・ぜ」
「お久しぶりです。大統領」
 マシューがふわりと微笑んだ。
「命は大切に・な。アルフレッドもだ・ぞ」
「はい!」
「おまえ達は国だ。国民の生命もかかっているんだから・な」
「よかったですね。アルフレッドさん」
 菊が言う。
「そっちの黒髪の男は、本田菊だ・な」
「その通りです。前にも何度かお会いしましたね」
「アルフレッドを宜しく頼む・ぜ」
「私の方こそ、アルフレッドさんや大統領にはお世話になってますから」
「マシューは、俺が必ず助けますから。菊達と一緒に」と、アルフレッド。
「大統領」
 マジック達と共に部屋に入ったジョン・スミスが声をかける。
「おお。アンタは誰か・な?」
「ジョン・スミスです。アメリカ直属のスパイです。アルフレッドさんと耀さんの命は、私が守ります」
「耀、とは?」
「中国さんのことです。とっても可愛い人なんですよ」
 ジョン・スミスはとろけそうな顔で言う。
「わかった。――その人の為にも、元気で行って来い……」
「ええ。そのつもりです」
「大統領……何か、私どもに話があったのではなかったですか?」
 マジックが訊く。
「ああ。話は、大体終わった・ぜ」
「え、でも……」
「頼もしい仲間がいて、アルフレッドは幸せなんだ・ぜ」
「それはわかりますが……」
「行こう。兄貴。俺達が出る幕じゃない」
 ハーレムが珍しく、正論を言う。酒が切れたのだろうか。
「そうだ・な。悪いが、アルフレッドと二人にしてくれない・か?」
 大統領が人払いをする。マシューは、マジック達と共に部屋を出て行く。
「話でもあるのかい?」
 大統領と二人きりになった後、アルフレッドが尋ねる。
「ああ」
 大統領が小声で言った。
「アルフレッド。耳を貸せ。――おまえの仲間達は、みな、本当に信頼のおける奴ら・か?」
「何言ってるんだい。当たり前なんだぞ」
「だといいが・な。俺はどうも胸騒ぎがして、仕方ないんだ・ぜ」
「一番信用がおけないのは、ここの隊長ですよ」
「ハーレムのこと・か。いやいや。あの男はあれで、気のいい奴なんだ・ぜ」
 気のいい奴が、大統領の息子を拉致するのか、とアルフレッドは思ったが、それどころではないので、口に出さないことにした。
「――俺達『国』の中に、怪しい奴がいるとでも?」
「『国』でなくても・さ。俺の考え過ぎだといいが・な」
「考え過ぎなんだぞ」
「それを祈ろう」
 大統領がアルフレッドの手を取り、ぐっと両手で握る。
「気をつけろ・よ。用心して、し過ぎることはないから・な」
 マシューの為にも、と、大統領はつけ加えた。
「大統領は、来られないのかい?」
「ああ。これでも、忙しい身なんで・な。今夜は日本の首相と会談だ・ぜ」
「上手く行くといいね」
「おまえのことは信じてるんだ・ぜ」
 と、大統領。ぽんぽんとアルフレッドの手の甲を叩くと、握っていた手を離した。
 この人の為にも、命を落とさずに無事に帰って来よう、とアルフレッドは心に誓った。
 大統領はこうも言った。
「話は戻るが、くれぐれも、よそ者には気をつけるんだ・ぜ」
「――よそ者? それは、ガンマ団の人達のこと?」
「まぁ、あいつらもよそ者だろうが、俺は、疑ってないんだ・ぜ」
「じゃあ、別の人?」
「ああ……すまん・な。少し、喋り過ぎたようだ。何事もなけりゃ、それに越したことはないんだ・ぜ。ま、こんなに心配するのは、おまえも息子と同じような存在だからだ・ぞ。笑い飛ばしてくれて、構わないから・な」
 と、大統領が男らしく笑った。
 相手からの気遣いが、アルフレッドにはこの上もなく有難かった。
 大統領は良き父親を思わせる。アルフレッドには父がいない。こんな時、彼はリキッドが羨ましくなるのである。

後書き
『PAPUWA』に出て来た大統領も出演させてみました。友情出演です。

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