OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 13

「もうやだしー。一歩も歩けんしー」
 フェリクスが座り込んで駄々をこねる。
「ほら、そんなこというもんじゃないってば。フェリクス。もう少しなんだからぁ」
 相棒のトーリスがはっぱをかける。
「トーリスはあいつらみたくしてくれねぇの?」
 フェリクスは、ロヴィーノを背負ったアントー二ヨを人差し指で示した。
「俺にはああいうのはムリだよ。さ、がんばって」
 トーリスがフェリクスを促す。
「ちぇー」
 フェリクスは唇を尖らした。
 そして、彼らは帰ってきた。威風堂々と聳え立つ、メカニックな建物。――ガンマ団に。

「すごかったんだぞ、秘石眼!」
「またそれか……少しは静かにしろよ」
 興奮冷めやらぬアルフレッドと、少々食傷気味のアーサー。だが、この二人は案外いいコンビらしい。アーサーの方は、はっきり肯定しないが恋人同士でもあるようだ。
 マジックが言った。
「ところで、私達はこれからK国へと入国する作戦を練るわけだが……」
「作戦なんかどうだっていいさ。直接乗り込めばいい」
 ハーレムが反論する。
「君みたいなアバウトなのが一番心配だよ。ここはやはり、兄さんの采配に任せる方がいい」
 サービスが憂い顔でハーレムに注意して、マジックに従うことを提案する。
「我もマジックに賛成ある」
 と、王耀。
「俺も異議はねぇぜ。兄貴の言う通りある」
 イ・ヨンスも頷いた。
「俺も耀さんが言う通りにするよ」
 ジョン・スミスにも異存はなさそうだ。
「では、早速――」
 マジックが会議を始めようとした時だった。
 どたどたどた。けたたましい足音がした。
「隊長ー! ハーレム隊長ー!」
 ドアがバンッと開く。
「……なんだ? うるさいな」
 ハーレムが不服そうな顔をする。
『うるさい』と言われたのは、頭に赤いバンダナを巻いた男であった。彼は言った。
「リキッドの親父さんが来てるんすよ」
「何ッ?!」
 マジックが驚きの声を上げた。
「おう。おまえらでたっぷり歓迎しといたか?」
「当たり前ッすよ~。ハーレム隊長」
 ロッドがへらりと笑う。後から、頬に傷を負った細身の男と、熊みたいに大柄な男がうっそりと入ってきた。
「おまえ達……その、どんな歓迎をしたんだね?」
 マジックが心配そうに訊く。特戦部隊の荒っぽさは、ハーレムの兄である元総帥のマジックには、それはそれは骨身に染みてわかっているのである。
「安心していいぜ。兄貴。俺らの部下、料理は上手いからな。レパートリーはいまいちだけど」
 ハーレムが得意そうにひくひくと鼻をうごめかす。
「それはいいんだが……どんな料理を出したんだね?」
 マジックが更に質問する。
「ああ。俺はドルチェと……」
 ロッドが言いかけた時だった。
「ドルチェ?!」
 と反応した者がいた。フェリシアーノである。
「おいおい。まさかそいつ、イタリア人じゃねぇだろうな」
 とロヴィーノも尋ねる。
「ああ。そうだけど。俺ロッド。イタリア一のいい男」
「ざっけんな! イタリア一は俺だろうが!」
 と叫ぶロヴィーノをロッドはさらりとシカトして、
「こいつはマーカー。中国人。んで、このでっかいのがGでドイツ人。よろしく」
「へぇー。国際色豊かなんですねぇ。ハーレムさんの部下の人達は」
 マシューが感心している。
「……アメリカ人はいないのかい?」
 アルフレッドは自分と同国の人がいないのが、少し寂しそうだ。
「おう。前はいたぜ。リキッドっつー奴が」
「リキッド?!」
 ハーレムの言葉に、アルフレッドが反応する。
「リキッド……どこかで聞いたような……」
「ああ。そこの眼鏡の似合っていないアンタ。そ、金髪のアンタ」
 ロッドの言い方にアルフレッドはぽこぽこと怒り出した。
「アルフレッド・ジョーンズって名前があるんだよ、俺には! それに何だって?! このおしゃれな眼鏡が似合わないって?!」
「リキッドは大統領の息子ですよ」
 マーカーが喧嘩になる前にフォローをした。マーカーちゃんてば、俺が言おうとしたのに……とロッドはまたもへらへら笑う。
「大統領の……息子?」
 冷静になったアルフレッドは考えを巡らし始めた。やがて――
「ああ! リキッドなら、小さい時、一緒に遊んでやったことがあるぞ!」
 と、得心したらしく、手をぽんと叩いた。そして続けた。
「千葉に行ったって聞いたけど、あれからどうしてるのかなぁ、元気にしてる?」
「ああ。今はパプワ島の番人をやっている。多分元気にしてるだろう」
 ハーレムの顔が綻んだ。可愛い部下のことなのだ。ハーレムはリキッドを気に入っていたらしい。
「千葉ではあいつ、何とヤンキーやってたんだぜ。それをハーレム隊長が拉致って――」
 そこまで言ったロッドが、ハーレムのチョップを食らう。
「余計なことは言わなくていい」
「……へい」
「私達も、リキッド坊やを鍛えるのに協力しましたよね」
 中国人のマーカーが、答えを促すようにGの方を見た。
「……うむ」
 Gは頷いただけだった。
「ロッドさーん」
 間の抜けた声が響いた。フェリシアーノだ。
「はいはい。何だい? かわいこちゃん」
 ロッドが相好を崩す。
「俺達もイタリアなんだよー。こっち、俺の兄ちゃんでロヴィーノ」
 ロヴィーノはふん!と鼻息を荒くして無視を決め込もうとしている。
「我は王耀ある。よろしく」
 長い髪を束ねた、男にしては高い声の耀が言う。
「へぇー。マーカーちゃんも美人だと思ったけど、こっちの人も美人だね。中国って、美人が多いのかな?」
 ロッドがじろじろ耀を見だすと、
「兄貴は渡さないんだぜ! 兄貴は俺の恋人なんだぜ!」
「なんだ?! アンタも耀さん狙いか?! 耀さんは俺が口説き落とすって決めてるんだからな!」
 イ・ヨンスとジョン・スミスが警戒して、耀の前をちまちまと動いている。
「あ、俺ね。好きな人がいるからいいの」
 ロッドの台詞に、ヨンス達はあからさまにほっとしたようだった。ハーレムは奥歯で何かを噛み潰したような複雑な笑いをした。それは満更でもなさそうな顔である。

後書き
またもマシューが目立たない……(苦笑)。

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