OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 12 「疲れたか? マシュー」 「いいえ。このぐらい」 「疲れたらお兄さんが支えてやるよ」 フランシスがマシューをいたわる。 「ありがとうございます。フランシスさん」 それにしても暑い。太陽がカーッと照りつけてくるようだ。お天道様が真上にさしかかっている。 「フランシスさん……」 「なんだい? マシュー」 「この仕事が終わったら……ぱあっと騒ぎたいですね。ガンマ団の人々も入れて」 「ああ」フランシスは頷いた。「そうだな」 マシューは、少し開放的な気分になって、フランシスに言った。 「腕組んでもいいですか? フランシスさん」 いつもなら、お堅いマシューがあまり頼まないことである。フランシスがふっと笑った。 「あいよ」 歩きながら、マシューはフランシスの腕に腕を絡ませた。 「なんだいなんだい。あいつらばかりいちょいちょしちゃって」 アルフレッドはぽこぽこと怒っていた。 アーサーとハーレムが意気投合して喋ってばかりいるので、アルフレッドとしては面白くないのである。 アルフレッドは、マシューとフランシスを羨んでいた。 (アーサーもアーサーだよ。あんな獅子舞相手に) つまらないんだぞ。アルフレッドは小声で呟いた。ヘラクレスとイヴァンが、その横でさくさくと歩を進めていた。 ギルベルト、ローデリヒ、エリザベータの三人は―― 「来てよかったぜ! 久々に血が騒いだぜ!」 「あ、あの……エリザベータさん……?」 ローデリヒがいつもと違うエリザベータに不審がるのを見て。 「あらやだ。久々にわくわくしましたわ」 エリザベータは女言葉に戻った。最後の方では、「ほほほ」と付け足し笑いをして。 「エリザベータさん……?」 「構うな、ローデリヒ。さっきのがあいつの本性だよ」 「――そうなんですか」 ローデリヒも、薄々気付いてはいた。だが、エリザベータは彼の前ではあくまでしおらしい女の子として振る舞っている。 それが、ローデリヒには少し寂しい。 「エリザベータさん。もっと貴方らしくてもいいんですよ」 「貴方らしいって、どういうことかしら?」 「つまり……もっとおてんばでも構いませんよ」 「おい、ローデリヒ。滅多なこと言うな! こいつの本性は、それはそれは野蛮なんだぞ」 「ギルベルト……後で覚悟しておきなさいね」 エリザベータはにっこり。 ギルベルトは、 「ああ、地雷踏んじまった……」 と嘆いた。 「ウヴェー……暑いよぉ」 「暑いと思うから暑くなるんだ! 我慢しろ!」 弱音を吐くフェリシアーノに、ルートヴィヒが喝を入れる。 「目的地はもうすぐそこですよ。それに、行きより帰りの方が楽だと思いますが」 菊がはんなりと笑う。 「だって、さっきまでそんなに暑くなかったから……」 フェリシアーノが、ちらりと菊を見遣った。 (ヴェー……菊は暑くないのかな) 菊の様子は、あまり変わらないように見える。どこか冷ややかで涼しそうだ。 「大丈夫? フェリちゃん」 グンマが優しく尋ねてくる。 「ヴェー……だ、大丈夫」 フェリシアーノは笑って答える。 「ありがとう。グンマ博士」 「グンマ、でいいよ」 「ところでさぁ、グンマ」 フェリシアーノは早速呼び捨てで呼ぶ。 「グンマって、マジックさんの息子だったの?」 「うん、そうだよー。写真もあるんだけど、見る?」 「わーい」 写真に写っていたのは――グンマとマジックと……ぬいぐるみを抱えて眠っている子供。 「ヴェー……この子可愛いね。誰?」 「コタローくんだよ。僕の弟の」 「ああ。これがコタローくんかぁ」 感心したように、間延びした声でフェリシアーノが言う。 「僕達の家族水入らずの写真、キンちゃんが撮ってくれたんだよ」 「ふん……」 キンタローは、照れたようによそ見した。 「いつかコタローが目覚めた時に……家族の写真がないというのも、可哀想だからな」 「上手に撮れてるねぇ」 写真にもちょっとうるさいフェリシアーノ。だが、これは、彼の審美眼にもかなったものだった。 「でしょー! キンちゃんて器用なんだよ」 「グンマ……少しうるさいぞ」 キンタローが窘めた。 「コタローは……私が長い間監禁してたからねぇ。危険な存在として」 マジックが彼らの話に割り込んだ。 「ウヴェッ! か……監禁?!」 フェリシアーノもさすがに驚愕したようだった。 「もちろん。今はそんなことはしない。コタローを愛してくれる存在が大勢いるからね。シンちゃんもその一人だよ」 「シンちゃんて?」 「ガンマ団の現総帥です」 フェリシアーノの質問に、菊がぴしっと答えた。 「ああ。そうかぁ。なら、コタローくん、もうなにも怖いことないんだね。よかったぁ」 「とは単純に言えない。コタローはまだ目が覚めないから」 マジックが苦渋を顔に忍ばせて言った。 「ウヴェー……難しいんだね。でも、眠りっぱなしなんて、眠り姫みたい」 「そうだな……」 マジックは空を見上げた。 「けれど、いつかこの世界に生まれ出てくることを望んでいるよ」 「ヴェー……」 フェリシアーノは少し泣いてしまった。 「暑いぞー、このヤロー!」 「はいはい。ロヴィーノ。暑さだけは親分でもどうにもならんわ」 「じゃあおぶってくれ」 「はいはい。ロヴィーノの頼みだもんなぁ」――アントー二ヨは、ロヴィーノを背負った。 後書き マシューの出番がようやく作れてよかったです。そして、マジック達家族のことも書けてよかったです。 13へ→ |