OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 10

 空が明るくなり、起きる時間が訪れた。彼らは昨日の会議室に集まっていた。もちろん、青の一族も。
「おはよう。諸君」
 マジックが鷹揚な態度で挨拶した。
 国達は、元気な者、生あくびしている者、様々である。
 アルフレッドの肌のつややかさと、アーサーのげっそりした様の対照は特筆に値すべきだろう。
 イヴァンも憔悴している。ほとんど怯えてすらいる。
「どうしたんですか? イヴァンさん」
 おそるおそる、といった体でトーリスは隣のイヴァンに訊いてみる。
「妹……ナターリヤの声が、『兄さん、兄さん』と一晩中言っているのを聞いたんだよ……おっかなくて眠れなくてさぁ……」
「へぇ、ナターリヤって、あの可愛い娘ですね。いいなぁ」
「じゃあ、君が代わってみるといいよ!」
 最後はほとんど絶叫に近かった。
 ヘラクレスもなんとなくしょぼんとしている。
「なぁなぁ、ヘラクレス、どうした。何かあったん?」
 アントー二ヨが気安だてに彼の肩をばんばんと叩く。
「昨日は菊と過ごせなかった……」
「はぁ、そりゃ、仕方ないんやない?」
「すみません、ヘラクレスさん。昨日はマジック総帥とその親族の方々との打ち合わせがありまして」
 菊が謝った。
「ここに来た訳も詳細に話しました。彼らは信用ができる上、優秀でして」
 菊は昨夜、マジック達青の一族に、『国』の命のことを改めて説明した。国が滅びると、自分達の姿も消えてしまうこと。逆もまたしかりである。滅多なことでは死なないが。
 菊自身も、自分は日本の『国』の凝った形であること、もう何千年も生きていることを告白した。
 詳しく国の事情や、個人的な鬱憤をマジック達に話すと、いつの間にか夜が明けていた。
「じゃ、朝ご飯にしようか」
 ぱんぱんとマジックは手を叩いた。料理が次々と運ばれてきた。
「食べながらで結構だから聞いてくれ」
 マジックが言った。
「マシューくん……カナダが滅亡したら世界の一大事だ。K国は私達にも引っかかりがある。私達は全面的にサポートする構えだよ」
「どうも……ありがとうございます」
 マシューは恐縮してしまっているようである。
「んー、このパスタ、美味しいね」
 フェリシアーノはご機嫌だった。ちゅるっと、麺を口の中に入れる。
「ところでさぁ……K国には、俺達みたいな存在はいないの?」
 俺達……つまり、擬人化された国である。
「あ、そういえば……」
「考えてみたこともなかったな……」
 メンバーは、それぞれ顔を合わせる。
(良いところに気付きましたね。フェリシアーノくん)
 菊だけが、こっそりそう思っている。
 青の一族は、割と静かに食べ物を突いていた。ハーレムは、
「酒はないのか」と、ぼやいていたが、
「そんな場合ではないだろう。それも、一国の危機の時に」とマジックに窘められる。
 食事が終わったら、見せたいものがあるんだが、とマジックは皆に笑顔を見せながら話した。
 菊は興味津々であった。マシュー達も、同じ気持ちであるに違いない。

「はぁ、はぁ……まだ着かねぇのかよ」
 息を切らしながらアーサーが不平を鳴らす。
 マジックは国達と残りの青の一族を全員外に連れ出した。ちょっとした大所帯だ。
 何故か、ジョン・スミスもいた。
 彼曰く、「ヨンスが耀さんに変なことをしないか心配だから見張りに来た」そうだ。
「なんだよ。おまえ、もうへばったか? 体力ねぇな。ガキ」
 ハーレムがにやにやしながらからかった。
「ガキじゃねぇ! 俺はおまえよりずーっとずーっと年上なんだぞ!」
「見た目はガキじゃねぇか」
「なんだと! おまえ、俺の家の出なら、少しは敬え!」
「まぁまぁ二人とも」
 アルフレッドは仲裁に入ろうとした。
「なんだよっ!」
 アーサーとハーレムの二人に睨まれても、アルフレッドは平然としていた。
「いい年して喧嘩なんてみっともないんだぞ。君達。それに……君達は似ているじゃないか。喋り方とか」
「喋り方?」
 アーサーとハーレムは互いの顔を見てから、
「似てないっ!」
 と叫んでそっぽを向いた。
「ああ。ここだ、ここだ」
 ひゅー、と風が吹いた。何もないだだっ広い荒野が広がっている。
「え? ここ? 何もないけど……」
 アルフレッドが疑問を呈す。
「ここがいいんだ。お誂え向きだ」
 マジックが、にっと笑う。
 そして――彼の眼が光った。
「うわっ!」
 皆は目をつぶった。青い光が彼らを包む。
 気がついてみると――巨大な穴が地面にできていた。
 国達は感嘆の声を洩らした。
「これが、秘石眼の威力だ。久々だったから、あまり上手くコントロールできなかったが」
 そう言いながらも、マジックは得意そうだった。
「秘石眼……これはすごいんだぞ」アルフレッドは興奮を隠さない。
「ああ。K国が我々を人間兵器として目をつけたのも、この力によるものだ。核兵器みたいに放射能も出ない。秘石眼は、一族の大抵の者は片目だけだが、両目で生れて来たのが、私と――」
 マジックは後ろにいるグンマを親指で差す。
「ここにいる息子のグンマと、その弟で同じく私の息子のコタローだけだ」
「お父様……息子って呼んでくれて嬉しいです」
「当たり前じゃないか。おまえも大切な息子だよ。まだわからないのかね」
「いえ……僕は、お父様が『息子』と言ってくれる度に感激しているんです」
「グンマ博士にも、あのぐらいの力がおありなんですねぇ……」
 菊は大きな穴ぼこを見つめながらしきりに感心している。
「そうだよ。……意外だった?」
「意外も何も……ただの甘ちゃんだと思っていました」
「グンマはすごいぞ」
 グンマの従兄弟のキンタローが口を挟んだ。今まで黙っていた彼だが、菊の台詞を聞いてかちんと来たのだろう。少し厳しい顔をしている。
「俺は驚かされてばかりだ」
「む……それは、気持ちはわかるぞ」
 と、ルートヴィヒが同意した。
「俺もあいつ――フェリシアーノには驚かされてばかりいる。ただのヘタレかと思えば、そうじゃなかった」
 だからルートヴィヒもフェリシアーノに惹かれたのだろう。そう思い、菊は、くすっと笑った。
「じゃあ、一旦ガンマ団に帰ろう」
 マジックが号令をかけると、「音頭を取るのは俺の仕事なのにな」とアルフレッドはぶつぶつ言った。
 だが仕方がない。ここはガンマ団の統べ治める地域なのだから、マジックに従うしかなかった。
 やれやれ、またあの距離を帰るのですね――菊が、それでも笑顔で息を吐く。
 その時、金属片が足元できらりと光った。なんだろうと思って、菊はそれを拾った。

後書き
マシューの出番がない……。

追記
手直ししました。
ご指摘くださった山之辺黄菜里さん、ありがとうございます。

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