バニーと虎徹のある日の事情

7.ディルドでお買い物

「さあ、出かけましょう。買い物に行くって言いましたからね」
「おう!」
 バニーの呼びかけに虎徹は元気よく返事をした。
「ふふっ」
 バニーが意味深に笑った。何となく嫌な予感を覚えた。でも――。
(俺はバニーを信じるんだ、信じるんだ……)
 虎徹は必死で己に言い聞かせる。
 バニーは自分で買ったらしい大量の荷物をがさごそし始めた。
「ありました!」
「え?! そ、それって……」
 バイブ。ディルド。電動こけし。呼び方は何でもいいけど。
 要するに大人の玩具であった。虎徹用に用意していたのだろう。
「バニー~~……俺の信頼を返せ~~!」
「ど、どうしたんですか? 虎徹さん!」
 けれど、虎徹も本当は、バニーにはこういうところもあるということを知っていた。
 優しくされて涙する純粋な部分と、大人の性技で虎徹を虐める腹黒な部分。
 どちらも虎徹は嫌いではなかった。けれど、虎徹にだって年上の男の矜持がある。バニーに振り回されっぱなしなのはごめんだ。
「俺、やだかんな。それ」
 虎徹は唇を尖らせたまま、ふい、と横を向いた。
「そう言うと思ってましたよ」
 バニーとのセックスに虎徹は満足していたが、若いバニーはどうなんだろうな、と心配していた矢先のことだ。形はどうあれ、友恵のことも意識させてしまったようだし。
 そのバニーがこんな玩具を既に用意していたなんて――。
(やっぱ若いからいろいろ試したいんだろうな)
 そんなことを思っている虎徹の目の前で、バニーがストリップを始めた。
「お……おい、おい……」
 虎徹が焦る。バニーがピンクと水色のビキニパンツを下ろした。
 綺麗な蕾にはディルドが。
「ね? お揃いでしょ?」
「お揃いねぇ……」
 そんなお揃いいらん、と逆ギレするには、虎徹は優し過ぎた。
「さ、虎徹さんもこれつけてください」
「しようがねぇなぁ……」
 こうやって、何だかいつも流されているようだ。
 虎徹もディルドを体内に埋めた。
「これ、電動式ですから。リモコンで動きますよ。ほら」
 ディルドが腸内で動くと、何ともいえない刺激が走る。
「ば、バニー……!」
「はい。虎徹さんはこれを持っていてくださいね。僕のと繋がってますから」
「お……おう……」
 ちょっと試してやろうかな。さっきの意趣返しに。
 そうは思ったが気の毒だからやめておいた。
 こういうところが虎徹の優しさであり――甘さでもある。
 でも、さっきの刺激で体内がむずむずするのには参った。
(まぁいいや。バニーちゃんに逆らわなければ済むことだ)
 それに、条件は同じなんだし。
 改めて正装した虎徹とバニーは並んで家を出た。
 二人は指を絡ませて手を繋ぐ、所謂恋人繋ぎをしている。虎徹の方は少々恥ずかしい。
(まさか、男と恋人繋ぎをする日が来ようとは思わなかったぜ……)
「なぁ、バニーちゃん。この繋ぎ方、やめない?」
「どうしてですか? 僕達恋人同士でしょ?」
「えー? せめてバディだろ?」
「虎徹さん……」
 バニーがディルドのリモコンを見せる。
「わかった、わかったよ……」
 けれど、バニーの美貌は人目をひく。
(あれ、バーナビー様よ)
(隣の男、誰かしらね)
(恋人かしら、きゃー)
(アンタってば。違うかもしれないじゃん)
(でも、ほら、恋人繋ぎしてたわよ~)
(いやーん。ショックー)
 アイパッチしてて良かったぜ。虎徹が密かにひとりごちる。
 どうせバニーちゃんは一部リーグの有名人。俺は二部リーグの落ちぶれたおっさんだもんな。
 けれど、落ちぶれたおっさんはおっさんなりにがんばっているのだ。バニーも認めてくれている。
「僕は、虎徹さんのように中年の方々に夢を与えるようなヒーローになりたいです」
 綺麗な緑色の目でそう宣言してくれたのも、バニーだった。
 こいつ、ほんとは俺のことどう思ってるんだろ? 頼りになる(かもしれない)先輩? 相棒? 恋人?
「さ、ここに入りましょう」
(げっ! めちゃめちゃ高そうな店!)
 虎徹は入る前から思わず位負けしていた。
「バニーちゃん、ここで何すんの~?」
「貴方の洋服を見立てるんですよ」
「でも、高そうだぜ」
「僕のカードなら一発です」
 そう言ってバニーはにこっと笑う。そうすると美しい顔が更に美しくなる。
 よく笑うようになったよな、こいつ――じゃなくって!
「さぁ、さっさと入りましょう。戸惑う気持ちはわかりますが」
 そうして、バニーはあのリモコンを取り出して見せつけた。
「ううう……くそっ!」
 半ば自棄になった虎徹は、力強く扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
 中も高級感で溢れていた。
「バーナビー様!」
 店長とおぼしき男がやってきた。
「ちょっとこの方の服を見立てて欲しいんだけど」
「かしこまりました」
 男は何着か服を取り出して説明を始めた。わけのわからない説明に虎徹は手を当てて、小さく欠伸をした。
 その時だった! 体内に衝撃が走ったのは!
「だっ! わふっ! うおっ!」
「どうかなさいましたか?」
 埋め込まれたディルドがバニーの押したリモコンで動いたからだとは言えねぇ……。
「な……何でもないです……」
 バニーはしてやったりというような表情をした。
(俺に服買ってくれるというよりこれは……悪戯のきっかけを狙ってたな……)
 バニーとは長い付き合いだ。いや、そう長くはないかもしれないが、濃くて深い付き合いだ。考えていることはお見通しだ。
 やっぱり反対を押し通すべきだったぜ……。
「お客様にはオーダーメイドもお勧めですが」
「ああ、いいですねぇ」
「バニーちゃん、俺の為に金なんか使わなくてもいいから……」
 その時、また身体に衝撃が走った。緩やかに自身が反応を兆しそうになって、虎徹は思わず前屈みになった。

2013.11.19

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