バニーと虎徹のある日の事情

5.ミスターシャワータイム

「あっ、あっ……ああっ!」
 虎徹があられもない声で泣いている。手を壁についたままで。
 シャワーからざぁざぁとお湯が出る。
「ああ……いいです……虎徹さん! 虎徹さん!」
 バニ―の声にも艶が出る。虎徹の内部がバニーの息子を締め付けているのを虎徹自身も感じている。もうとっくにバニ―は虎徹の体の虜になっているらしい。
(出会った頃はこんなになるとは思わなかったなぁ……)
 虎徹の記憶は昔を遡る。初対面の印象は最悪だった。
 まさか俺が受になるとはなぁ……。
 シュテルンビルトには虎兎の同人誌も随分ある。バニーと体を繋げる経験をする前だったら笑い飛ばしていただろうが、いざ本の中のように恋人同士になってみると――
 何となく複雑な感慨を覚える。
「虎徹さん……なんてエロい体してるんですか……」
「なっ! おまえが開発したんだろぉ」
「――そうでしたね」
 バニーがふっと笑った――ような気がした。虎徹の背後のことなのでよくわからない。
 バニーの長く太いものが虎徹の中を穿つ。
 ある箇所を突かれると、電流が走る。
「――前立腺、というそうですよ」
 以前バニーが教えてくれた。
 虎徹の前は痛いほどに反応している。
「バニー……俺、もう……」
「仕方のないおじさんですね。……でも、僕もそろそろ限界です」
 バニーの抽送が速くなる。虎徹はシャワーを浴びながら意識が朦朧としてきた。
 俺は――こんな風にバニーの情人になってしまうのか……。
 もう既に情人になっている事実は置いておく。
 尤も、バニーが聞いたら、
「僕達はバディで恋人で愛し合っているんです」
 と声高に宣言するんだろうが。
 今はまだいい。虎徹はバニーを、バニーは虎徹を、互いにパートナーであることを認めているのだから。
 けれど、その先は?
 バニーに本当に好きな人が現われたなら、俺はどうなるだろう。
 こんなに人を好きになったのは友恵を除けば初めてだ。
 よぉ、バニー。おまえ、俺をこんなに作り変えてしまったんだぜ。罪な男だぜ。全く。
 欲しい物は何でも手に入れてるくせに、つまらんものばかり欲しがるんだから。例えば、俺とか――。
 気持ち良さに視界がピンクがかって見える。湯気がすごい。シャワーのせいだろう。ああ、イキそうだ……。
「虎徹さんの中、気持ちいいです……」
「そうか?」
 虎徹がふふっと含み笑いをする。これでは体を使ってバニーを捕らえているのと同じだ。
 俺は食肉植物かってーの。
 虎徹の奥処を穿っていたバニーの先端が一際大きくなって、彼の欲望が放たれた。
「くっ……あああっ!」
 虎徹はおめいて自身からもたっぷり蜜を出す。
「たくさん出ましたね」
「ほんとにな……」
 射精後の倦怠感で些かくったりしている虎徹をバニーが支えた。
「……ねぇ、虎徹さん。中、洗って差し上げましょうか」
「いいっていいって」
「でも……体に悪いですよ。貴方は女性じゃないんですからね」
「……自分で洗えるって」
「体は極上のくせして、男であるという事実が惜しいですね。貴方を孕ませてあげたいのに」
「ガキ産むのは嫌だぞ。痛そうだからな」
 亡き妻の友恵の出産には立ち会ったことがある。友恵は苦しそうだった。
 ――そして、何もできない自分が歯痒かった。
 愛娘を生んでくれた友恵には、今でも感謝しきれないくらい感謝している。
 楓……おまえの幸せの為なら、俺は何でもしてやりたい。
 けれど、譲れないものがある。それは――
「バニー」
「何ですか?」
「いや――」
 何でもない。そう言って一人寂しく笑う。
 男と女と違って出産に繋がることのできない倒錯愛だ。楓に知られたらきっと一生軽蔑されるだろう。あの子は俺と友恵に似て、正義感が強くて――ちょっと潔癖なところがあるから。
(ネイサンをバカにはできねぇな……)
 オネエキャラのネイサン・シーモア。人生で苦渋を舐めてきただけあって、誰よりも女らしく、男らしく、そして誰よりも優しい。
(アンタが傷つくのは見たくないわ、タイガー。ヒーローは傷ついてなんぼという部分があるにしてもね)
 優しいネイサン。女子組のリーダー。
 女の子らしい愛らしさを合わせもつツンデレのブルーローズ。
 まだ年端はいかないが将来はいい女になるであろうドラゴンキッド。
 ああ、しかし――
 虎徹が選んだのはバニー――バーナビー・ブルックス・Jrだった。
 両親を身近な男に殺されたバニー。その孤独な魂ごと抱きとってやりたい。
「いいですか? 虎徹さん。洗いますね」
「――おう」
 逆らっても無駄だと、四つん這いになった。
「そうじゃなくて――」
 彼は虎徹をひっくり返し、蕾を露わにさせる。
 バニーが甘いマスクに笑みを浮かべている。一見珍妙な髪型は、彼ぐらい顔が整ってないと滑稽に見える。
 シャワーが秘所に当てられる。
「ん……やっ、バニー……」
「そんな声で泣かないでください。抜いたばかりなのに、こっちも妙な気分になってしまいます」
「なって……みろよ……」
「煽ってるんですか? 虎徹さん」
「そうかもな」
 もう、何がどうなったって良い。今日一日は虎徹はバニーのものなのだ。
 バニーの要望には(できるだけ)応えてやろう。
 それが、虎徹にできる唯一の恩返しだ。
 今日のことは心に秘めておこう。そして、じいさんになった時、
(あのバーナビー・ブルックス・Jrは昔、俺の恋人だったんだ!)
 と、一人ほくそ笑もう。
 バニーは蕾をほぐし、指を入れて精液を掻き出す。
 勿体ない気がする。バニーのものを体内に残しておきたい気がする。
 ――二人の、愛の為に。
 そうやって大事に腹の中にしまっていたら、いつか本当に孕まないとも限らない気がする。
(……バニーのヘンタイがうつったかな)
 しかし、自分にも変態になる可能性があったというものだ。バニーは恐ろしい嗅覚で虎徹の変態的なところを嗅ぎ当てたに違いない。
 どんなプレイを強要されても、本気で嫌だとは思ったことがなかった。
 それとも、慣れてきたからだろうか――。
 バニーの精液が排水溝へと吸い込まれて行く。
「そんな泣きそうな顔しないでください――おじさん」
 バニーのおじさん呼びは嫌いではない。それは、虎徹さん、とその低い甘い声に囁かれた方が嬉しいには嬉しいが。
 バニーが目と鼻の奥がつんとなった虎徹に優しいキスを落とした。
 虎徹は蛇口を捻ってシャワーを止める。二人はそのまま絡み合った。

2013.11.11

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