バニーと虎徹のある日の事情

2.まずは繋がりましょう

「お腹空きましたよね。朝ごはんにしましょう」
 バニーが言った。いつの間にか彼のトレードマークの六角形の眼鏡を装着している。そして、上半身に革ジャケだけ。女性ファンが見たら卒倒してもおかしくはない。
「おう、もう俺、腹ペコで死にそうだよぉ」
 虎徹がお腹を撫でた。バニーはくすっと笑った。
「――じゃあ、繋がりましょうか? 虎徹さん」
「――繋がる?」
「ええ」
「そんなん後ででも……朝も食べないうちから……」
「じゃあ、虎徹さん。この反応は……」
 虎徹の緩く立ち上がりかけている雄をバニーがすっと撫でた。
「だっ!」
「ふふふ、可愛いですね」
「だから! 可愛くなんかねぇっての。――食べてるうちに治まるって」
「僕のも勃ってますよ」
「わざわざ言わんでええわい」
 バニーは虎徹のより長大なモノを持っている。形の良さと艶では負けていないと思うのだが、後は少しコンプレックスを感じている虎徹なのであった。
「僕が言いたいのは、繋がりながらご飯を作ったり食べたりしたいということで――」
「んでも、それだとかなりいずくないか?」
「それがこのプレイの醍醐味ですよ」
 朝食もプレイなのか――というより。
「そんな知識どこで覚えたの?」
「本を読んで。刑事とその奥さんが繋がったまま何時間いられるかというのを試しているシーンがある推理小説を読んだことがあります」
 そんな変なもん見るなよ……。虎徹は心の中でツッコんだ。推理小説というよりエロ本だな。
(ま、まるっきり見たくないと言えば嘘になるかな)
「じゃ、俺、今日ずっとこのままのかっこ?」
 虎徹は丸裸だった。
「いいえ」
「上着ぐらい着せてくれんのか?」
「――もっといいもの着せてあげますよ」
 バニーは艶やかに笑った。花も恥じらう美青年。
「何だよ……」
 警戒と期待がないまぜになる。
「――まずは繋がりましょう」
 そう言って、バニーは虎徹の尻を突き出させると、その中に自分の反応している下半身を挿入した。
「あ……ん、ばにぃ……」
 つい、喘ぎ声が出そうになる。
(朝食は後ででもいいかな)
 そう思った虎徹だが、それでは本末転倒になってしまう。
「入りましたよ。全部」
「う……うん」
「クローゼットに向かってください」
 虎徹はバニーの命じる通りにした。相手のを入れたまま進むのは思ったより困難で、思ったより感じる。虎徹は何度も喘いだ。前立腺を刺激され、自分の息子が反り返って行く。
「ほら、その中に緑色の包みがあるでしょう?」
 包み? ああ、この袋のことか。
 ――何となく、嫌な予感がした。
 取り出すとそれは――下の部分がハート型ちっくなピンクのエプロンドレス。
「買ったのかよ、おまえ……」
「さぁ、早く着てください」
「着てくださいっておまえなぁ……」
 こんな状態で着れるわけがねぇっつーの。
「虎徹さん。後ろは僕が結んであげます」
 バニーは少し離れたが、まだ二人は繋がっていた。
 くそっ、なんか男として大事なもん落としてしまったような気がするぜ。バニーに抱かれた時からずっとそうだったのかもしれないが。
「はい、できました」
 できましたと言われても、様子を見ることなんかできない。
「ほら、可愛いですよ」
 バニーに連れられたのは大きな姿見の前。
 バニーは満足げに、にこにこと笑っている。まるで子供のおしゃれを微笑ましく眺める親のように。
 虎徹は、こんな男が外を歩いていたらまず警察に通報するだろうな、と思った。
 こんな姿のおじさんを可愛いなんて、バニーは目が腐っているんじゃないだろうかと疑ったりする。天然なのが厄介だ。
「虎徹さん……」
「ひゃっ」
 耳に息を吹きかけるように囁かれる。甘い吐息に、虎徹のエプロンの前の部分が持ち上がる。
 くっそ、エロいんだよ、バニーちゃんの声!
 だが、それが嫌でもない自分がいる。裸エプロンは嫌だが。
(とっとと朝飯作って終わりにしよう。裸の方がまだマシだ!)
「虎徹さん、朝ごはんは僕が作ってあげましょうか?」
「でもおまえ――その体勢危ないだろう」
「大丈夫です」
「わかったわかった。でも、ここは俺に作らせてくれないかな」
「楽しみです。虎徹さんの手料理」
 バニーは案外あっさり折れた。
「チャーハンですよね」
「……悪かったな。チャーハンしか作れなくて」
 母の安寿にも一つ覚えのチャーハンと呆れられた虎徹である。だが、それだけにチャーハンには自信があるのだ。
「いえ。虎徹さんのチャーハン大好きです」
 姿見越しに、にっこりと笑われた。その顔がとても綺麗で――
(くそっ、無駄にハンサムなんだよな。残念兎。変態兎)
 虎徹がこっそりバニーを罵る。本気ではないのだが。
 こんなプレイに付き合っている時点で俺も充分変態か。
 身分を弁えたところで、虎徹達はキッチンへと向かう。やはり繋がったままだと歩きにくい。
(んー……と。キャベツは入れるよな。玉ねぎも……)
 虎徹が材料を取り出して包丁を手に持つ。大の男が背中に密着してくるので暑苦しい。
「ひゃわっ!」
 耳朶を柔く食まれた。そこはウィークポイントなのだ。
「なっ! 危ねぇなぁ……包丁取り落とすところだったぞ! 馬鹿バニー」
「すみません……」
 バニーは素直に謝ったがその声には笑いが含まれていた。
「怪我したらどうしてくれる!」
「そしたら責任を持って僕が虎徹さんの傷口を舐めとります。虎徹さんの血は甘いですしね……」
「血が甘いわけねぇだろ、バーロー! おまえは吸血鬼か!」
「ああ、いいですね、それ。虎徹さんと永遠に生きられるのなら……」
「ったく、何考えてんだか……」
 ぶつぶつ言いながら材料を切り分けていく。
「今から火を使うが、バニーは悪戯をしないように。俺が火傷しないように」
「わかりました。虎徹さんに火傷をさせるのは僕の本意ではありませんので」
「よろしい」
 中華鍋から具と飯粒が華麗に踊る。うん。感触は悪くない。だっていつも作っているのだから。
 虎徹は、
(料理している虎徹さん、裸エプロンで料理している虎徹さん、ああ真正面から見てみたい……)
 というバニーの呟きを無視した。

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