初恋は実渕玲央1
どっかにいい女いないかなぁ。
オレは相沢圭。初のナンパデビューしようというところなんだけど……。
イイ女ってなかなか……あ。あの子可愛い!――と思ったら男連れかぁ、ちぇっ。他を当たるか。
あー、もう帰ろうかなぁ。オレが諦めかけたその時――。
すっげぇ美人がいた。
背は女にしては高い。つーか、こんなでかい女見たことないんだけど……憂いを含んだ横顔がチョーキレイなんだ。さらさらの髪。長い睫毛、色白の肌。オレは思い切って声をかけてみた。
「あ、あの……」
「何かしら?」
わー、近くで見るとますます美人じゃね?!
その人は髪を掻き上げた。うーん、絵になるっ!
「これからお茶でも飲みませんか?」
するとその人はくすくす笑った。
「坊や、あなたナンパし慣れてないわね」
ふーんだ。どーせ、今日がナンパ初めてですよーだ。
「まぁいいわ。私、実渕玲央って言うの。こう見えても男よ」
なぁんだ。オネエか。
でも、お茶して帰るだけなんだから、男でも構わねぇか。
それに……美人だから眼福になる。
オレはどきどきしながら玲央さんを見た。こんなに胸がときめいたのは初めてだ。ってことは、オレの初恋はオネエ? うっそ!
でも、玲央さんだったらいいかなぁ、なんて。何かいい匂いもしてるし。玲央さんが女だったら、周りの野郎どもが放っておかねぇだろうな。いや、男でも……。
「オレ、相沢圭と言います」
「いくつ?」
「……15。高校一年」
「あら。私はあなたの一個上ね」
「えっ?! 嘘!」
「嘘って何よ」
「だって、こんなに大人っぽいのに」
「ありがとう」
「あの……実渕さんは本当に男なんですか? いや、背丈は高いし、男なんだろうなとは思うけど……顔だって声だってキレイだし、その、『麗人』て感じがして」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。私はちゃんと女の子も好きよ。男の子はもっと好きだけどね」
「はは……は」
「バスケ部のチームメイトの一人からは『レオ姉』って呼ばれてるわ」
「あ、やっぱり。実渕さんは男って感じがしないですから。男なのがもったいないくらいキレイっす」
「ありがとう。やっぱり、かっこいい、と言われるより、キレイって言われた方が嬉しいわ」
「実渕さんはバスケ部なんですか?」
「そ。バスケ部に気になる人がいるのよね。征ちゃんて言うんだけど」
「征ちゃん……」
オレは見も知らぬ『征ちゃん』なる人物にジェラシーを抱いた。
「オレもバスケ好きなんだけど、すっげぇヘタだったから部活に入るのは諦めた」
「そうなの。楽しいわよ。バスケ」
「はい。いつも兄貴や友達と1on1してます。……ヘタですけど」
でも、玲央さんのバスケする姿は見てみたいな、と思った。
すっかり打ち解けたオレ達はお茶する為に喫茶店に寄った。今はどこにも喫茶店があるよな。
「オレ、玲央さん(玲央さんが「そう呼んでくれる?」と言ったのだ)がプレイしてるとこ見たい」
「そうなの。私の高校、洛山だから来てくれる?」
「洛山……」
「京都の学校だから、ここから少し離れてるわね」
「いつか金溜めて行きます」
「歓迎するわ。征ちゃんと一緒にね」
「征ちゃんて、何者なんですか?」
オレが言うと、玲央さんは窓を見遣った。
……あれ、この話は禁句だったかな。でも、『征ちゃん』の話は玲央さんから言ったんだし……。
「征ちゃんはね……洛山高校バスケ部の主将なの。圭ちゃんと同じ高校一年生ね」
「えっ?! オレと同い年でキャプテンっすか! それすごくないっすか?!」
「そう。皆初めは反対してたけど、今ではすっかり心酔しているわ」
「すげー……」
「ま、生まれながらの帝王よね、あの子は」
その話だけ聞いても、オレには勝ち目がないのはわかった。ちょっと希望は持ってたんだけどなぁ……。
玲央さんに『帝王』と呼ばせるだけの力があるのは本当だろうからな。玲央さんのことだって、まだよく知らないけど。
玲央さんは、『征ちゃん』の話をする時、すごくうっとりした目をしている。
それはまるで……恋する少女だ。まぁ、恋する少女なんて見たことねぇんだけど。
あー。オレの初恋、失恋確定か。あーあ。
「玲央さん、オレ、玲央さんの恋、応援してます。がんばってください!」
「ありがとう!」
玲央さんはすげぇいい顔で笑ってくれた!
ああ、玲央さんが男でなかったら、相手がバスケ部主将征ちゃんでも絶対引かないのに……。
「いい子ね、圭ちゃん。友達になってくれる?
というか、私達、既に友達かしら?」
「はぁ……はい」
ナンパしたのはこっちだが、いつの間にか玲央さんのペースだ。
「あ、メアド交換する?」
「いや、いいっす」
「あら。どうして?」
「今日のことは……今日だけの思い出ってことで心の中にしまっときたいんす。少なくとも今は」
そりゃ、いつか運命的に京都で玲央さんに再会できればいいなとは思うけど。洛山高校にも行ってみたいけど。
今は失恋から立ち直る方が先だ。でも、オレは立ち直りが早いかんね。
玲央さんはどこか神秘的だから、あまり近づき過ぎて自分の幻想を壊したくないというのもあった。それに、あまり重荷になりたくないし。
「圭ちゃんて、ナンパしておきながら身勝手ねぇ。でも、気持ちわかるかも。私、身勝手な男嫌いじゃないわ。それに圭ちゃんてば可愛いし、征ちゃんがいなかったら惚れてたかもね」
身勝手か……。確かにそうかもしれないなぁ。
可愛いと言われて嬉しくないと言ったらウソになるけど、男相手なんてどうしたらいいかわからない。ま、玲央さんは男とか女とか、そういうのを超えている気がするけど。
「ところで、『征ちゃん』のフルネームって何て言うんですか?」
同い年でバスケ部をまとめているという『征ちゃん』にちょっと興味が出てきた。玲央さんが『帝王』と呼ぶ男。玲央さんが想いを寄せている男。
「赤司征十郎って言うのよ」
「赤司……?」
「赤い司で『赤司』っていうのよ。赤司グループの御曹司。知らない?」
玲央さんが少女のように首を傾げる。オレは正直に頷いた。
「まぁ、まだ高校生だからねぇ……高校のバスケ部では既に名前を知っている人も多いみたいなんだけど。でも、いずれバスケ界では知らない人はいないっていう存在になるわよ」
「そう言われても、オレ、陸上部だからなぁ……」
「とにかくすごい子なの、征ちゃんは。オーラが違うのよね」
へいへい。どーせオレにはオーラはねぇよ。
でも……赤司ってヤツのことはちょっと気になった。そんなに有名なら、ネットでも話くらい出てるかな。
玲央さんまで惚れさす相手。きっとただ者ではない。
――そこで、オレは気付いた。
赤司のこと、調べたってしょーがねぇじゃねぇか! どうせ失恋なんだし! 恋敵のこと調べたってウツになるだけだ! やめよやめよ!
玲央さんは洛山高校のことを話し、オレは自分の学校のことを話す。先生のこととか、友達のこととか。チョー楽しかった。
「あ、ここ、私におごらせてくれる?」
「――悪いですよ。そんな」
どうせ、オレがおごるつもりでいたのだ。男の甲斐性ってヤツだ。いや、んな大したもんではないけど。
「圭ちゃんには話を聞いてもらったし。こう見えても私、お姉さんだし」
――お兄さんだろってツッコミは置いといて。それに、やっぱ玲央さんはレオ姉とかいう呼び方の方がしっくり来るよな。
「じゃ、割り勘でどうすか?」
「助かるわ。じゃ、そうしましょ」
男の甲斐性うんぬんより、まず声をかけたオレが払うべきなんだろうけど、玲央さんてほんといい人だな……。
玲央さんなら男でもいいかな。もうライバルが既にいるみたいだけど。
縁があったらまた会いましょうと言って、オレ達はバイバイした。
玲央さんの後ろ姿を見て、話だけだったけど、オレはいい思い出ができたと満足した。
――まぁ、失恋なんだけども、さ。
めげないのがオレの取り柄。さあ! 明日からまた元気に過ごそう!
そして――もしかしてだけど再会した時、玲央さんが赤司『征ちゃん』にフラれてたら今度はオレの方を振り向かせてやる!
後書き
まだ続きがあります。
それにしても、前にも同じような話書いたことがあるような気がするなぁ……。
2013.10.18
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