初恋は実渕玲央2

「何やってんだ? 圭」
「あ――兄貴」
 オレの兄貴は相沢仁。本人は『ジン』って呼んでもらいたがってるんだけど、周りからは「ヒトシ、ヒトシ」と呼ばれている。
 オレ、相沢圭は、何となくバスケのサイトを巡回していたのだ。
「おっ、バスケか」
 そういう兄貴はバスケをやっていてポジションはパワーフォワード。そんな兄貴が誇りであると共にちょっとうらやましい。
「なんだぁ? 下手なプレイをするのは好きだけど、見ているだけのバスケには興味を持たないおまえが……何かあったか?」
「別に。ちょっとルールを確認したくって」
 下手なプレイはよけいだ! それに、小学生の頃はバスケ観戦も楽しんでたんだぜ! 自分が致命的にヘタだとわかった途端、観なくなったけどな!
「さては、バスケ好きな彼女でもできたか?」
 う……オレの心を読まれてる?! でも――
「お、男だよ!」
 と言ったら、兄貴のヤツ、目をちかちかさせていた。ざまぁみろだ。
 けれど、立ち直りが早いのは相沢家の血筋であるらしく、
「美人か? オレにも紹介しろよ」
 と言ってきた。
「美人だよ。すっげぇ美人。男なのがもったいないくらい」
「オネエか?」
「んー、まぁ、そんな感じ」
「何でぇ。せっかくイケメンに生まれたのに男に走んのかよ」
「兄貴……美香さん今何ヶ月?」
「5ヶ月だ。あいつに似たらさぞかし美人になるだろうな」
「女だったら兄貴に似ないといいね」
「このやろ。お前だってオネエに走るヘンタイのくせして!」
「ヘンタイじゃねー!」
 そう。玲央さんに会ったら、兄貴にもわかるはずなんだ。玲央さんが超絶美人だってこと。
 まぁ、初恋が男なんて、茨道かなとは思うけど。
 それに――もう二度と会うこともないだろうし。残念だけど。
「んで? そいつとはどのぐらい連絡取り合ってんだ? オレすらも知らなかったんだから……遠距離恋愛か?」
「う……それは……」
「何だ? メアドや電話番号くらい知ってるんだろ?」
「それが……」
 オレは、メアド交換を自分から断ったいきさつを話した。
「だーはっはっはっは! チャンスの芽を自分から潰したってわけだ!」
「う……だって重荷になりたくねぇし」
「向こうが知りたいって言ってきたんだろ? おまえのことだ。どーせ自分の幻想を壊したくないだのなんだのとつまらないこと考えて断ったに決まってるぜ。だーっはっはっは!」
 チクショー、兄貴はエスパーか?
 でも、確かに後でちょっと後悔はしたんだよな。んでもってずーんと落ち込んでて、女友達にも、
「なんか相沢君暗いねー」
 とか言われる始末だし。立ち直りが早いのがオレの取り柄だと思ってたんだけどな。この頃また浮上してきたけど……兄貴のせいで思い出しちまった。精一杯カッコつけたけど、あまりカッコよくなかった失恋のことを。
「ま、いいや。気分転換にWC行かねぇか?」
「ウィンター・カップ?」
「たまーにゃバスケ鑑賞もいいだろ? 今日は洛山対誠凛だってさ」
 洛山……。
 玲央さんが通っている学校だ。確かそう言ってた。
「行く!」

 ウィンター・カップ会場――。
「早く着き過ぎたな。――じゃ、オレ、しょんべん行ってくるわ」
 マイペースな兄貴め……。
「でも、こんだけ広いと迷いそうだなぁ」
「おう、迷え迷え」
「かわいくねぇ弟だぜ」
 しかし、口元がにやけてんのをオレは見逃さなかった。なんだかんだ言っても、大切にされてるんだなぁ。オレ。
 兄貴はふらふらとトイレへと行った。手持ち無沙汰で待っていると――。
「圭ちゃん!」
 その声は!
「玲央さん!」
「久しぶりね! 運命かしら!」
「そいつはオレも思ってたところっす」
「玲央。その子は?」
「あ、この子は相沢圭ちゃん。こっち、洛山バスケ部主将、赤司征十郎。征ちゃんよ」
「玲央。征ちゃんは止せって言っただろうが」
 あれ? この人が赤司征十郎?
 冷静に構えてるし顔も整ってるし珍しい赤と黄色のオッド・アイだけど……そんなにすげぇヤツなのかなぁ。背だってそんなに高くない。髪が赤いからよく目立つけど。
「君は玲央の友達かい?」
 なにげに声がいい。
「はい」とオレは頷いた。
「じゃ、僕は先に行ってるから。これで」
「あ、私も行く」
「あ、あの……」
「何? 圭ちゃん」
「後でメアド教えてください!」
「あらぁ、断られたと思ったのに」
「あの時のオレ、失恋の予感にちょっとテンパってて……申し訳ありません! 教えてください!」
「――いいわよ。今でも。ちょっと待ってて」
 こうして、メアド交換は無事終わった。
「うぉーい、圭」
「誰? 友達?」
「――兄貴」
「迷わなくて済んだぜぇ」
 玲央さんがオレと兄貴を見比べる。
「へぇー、全然似てないのねぇ。お兄さんの方は大人って感じ」
「相沢仁だ。こう見えて、もうすぐ一児のパパなんだぜ」
「へぇ……」
「君が噂の美人さんだな? ほんとだ。男にしとくにゃ勿体ねぇな。弟からアンタのことは聞いてる。名前は確か実渕……」
「実渕玲央よ」
「圭からオネエだって聞いて引いたけど、ちょっと圭の気持ちがわかるな」
「兄貴がわかってどうすんだよ」
 オレは思わずツッコんだ。
「洛山だったよな。応援してるからな、こいつと」
 兄貴はオレを親指で指差した。弟とはいえ、人を指差すなよ……。
「ありがとう。今日は最高のプレイするわね」
 そう言って玲央さんはウィンクした。
 プレイ中の彼らはかっこよかった。それから――赤司はやっぱりすごかった。洛山は他にもみんな一癖も二癖もありそうなヤツらばかりだ。
 赤司に惚れた玲央さんの目は確かだった。でも、誠凛もすごい食らいついてる。しかも、なんか作戦面白いし。誠凛もここまで勝ち残っただけのことはあるよな。
「なぁ、圭。いいもんだろ。バスケをただ見てるだけってのも」
「ただ見てるだけじゃねーよ! 応援してるんだよ!」
 特に玲央さんをな! 『夜叉』って言われてたけど、オレにはすげぇキレイに見えた。
 この試合が終わって家に帰った時、オレは玲央さんに初メールを送った。
『今日の玲央さん、とても綺麗でかっこよかったです! 最高でした!』
 送った後、オレは、
「ひゃっはー!!!」
 と、叫んで伸びをした。うるせぇぞ、という兄貴の声がした。

後書き
同じような話書いてても、書いてくうちに違った展開になることがあるんですね。今回知りました。
レオ姉、コミックスでは赤司に美味しいところを持ってかれてましたがね……。この話は29巻読む前に書いたから。
読んでくださった方々、ありがとうございます!
2013.10.20

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