OVER THE TROUBLE ~ファフナ―編~ 4

(で、僕のレベルはいくつかな――)
 マシューは期待しながら胸をどきどきさせながら待っていると――。
『ましゅー ゆうしゃ LV.1』
 
 ズドッ!

 これは皆が一斉にこけた音である。
「何だよ、マシュー。せっかく勇者なのにレベル1なんて残念にも程があるんだぞ」
 アルフレッドがけたけたと笑う。
「残念……そうか、僕は残念か……」
「まぁまぁ、マシュー。お兄さんがついてるよん」
 フランシスがそっとマシューの肩に手をかける。
(でも……フランシスさんばかり頼っていても駄目なんだ……)
 それでも、なんだかマシューは泣きそうになった。
 誰かいないと駄目な自分。アルフレッドに嘲笑されてばかりの自分。僕は、そんな自分が嫌なんだ。
 強くなりたい――もっと、もっと……!
(おまえにもそういう勝ち気なところがあるんだな)
 ジ―クフリードがいたわるように優しく言う。
「僕、どうしたら強くなれるでしょう……」
「無理して強くなろうとすんなって……お兄さんは今のままのマシューでも大好きなんだから――」
 フランシスもマシューを元気づけようとする。
「それに、フェリシアーノだってヘタレだけどそれを気にしてはいないだろ?」
「う……」
 同類項には括られたくない。そんな気がする。フェリシアーノには悪いが。
「まぁ、強くなろうとするのはいい心がけである。そこの剣で素振りするといいのである」
 バッシュがグラムの剣を指差す。
(大丈夫か? その剣は扱い方が厄介だぞ)
 と、ジ―クフリード。
「え? そうなの?」
(一回持ち上げてみるといい)
 マシューはジ―クフリードの言葉に従った。
「ふんぬっ!」
 重い……重過ぎて持ち上がらない。マシューは肩で息をした。
(ほらな)
 けれど――マシューは諦めなかった。
「もう一回……がんばる!」
 そして、一日中苦戦した。剣は結局持てないままだったが。
(まぁ、根性はあるな。そこだけは認めてやる)
(ありがとうございます。ジ―クフリードさん)
(こいつを勇者にしたい。いいだろう? ユグドラシル)
 ジ―クフリードが大木に話しかけた。
(良かろう。でも、そのままではファフナ―には勝てん)
(まぁ、覚悟の上さ。一週間! 一週間で勝てるようにしてみせる!)
(おまえさんがそういうなら……)
 ユグドラシルは何とかジ―クフリードに同意したようだった。
「一週間か……」
「マシュー……」
「バッシュさん、何でしょう」
「我輩達はおまえを応援するのである」
「まぁ、仕方ないしね」
「乗りかかった船だ」
 アルフレッドとアーサーも協力することになったらしい。
「あまり、無理するなよ」
 フランシスは慈愛を込めてそう言った。
「はい!」
「それにしても、腹減ったな~」
 ぐぅぅ~とアルフレッドのお腹が盛大に鳴る。アーサーが注意する。
「アル、少しは我慢できないのか。みっともない!」
「だって~、俺はハンバーガーとアイスがなければ生きていられないんだよ~」
「わかったわかった。はい。アイス」
「やったぁ! さすがはアーサーだね!」
 そのアイスはどこから出て来たのだという疑問は無粋なので不問に付す。
「俺も御馳走いっぱい作ってあげるよん。まず材料は……と」
(ユグドラシルの実を食べると良い)
「あ、なんか……ユグドラシルの身を食べるように、ジ―クフリードが言ってますが……」
 マシューが全員に言う。
「食べれるのかい? それ」
「見たところかなり美味しそうではあるが――」
「誰が取ってくるんだい?」
「よし、俺が――」
 アーサーが魔法使いの杖を振る。すると――。
 大量の実が落ちて来た。
「うわー! すごいんだぞ、アーサー」
「いやなに。もっと褒めてもいいんだぞ」
 アルフレッドの言葉にアーサーは満更でもない様子だ。
 それにしてもこの実は――。マシューが検分しながらも思い出す。
 確か、ずっと前、ジョーンズに初めて会った時にあげた赤い実を思い出す。
「やあ」
 ピンク色のドラゴンが顔を出した。
「ジョーンズ!」
「ふふ。マシューががんばっているようだから、僕達も応援に来てたんだ」
「そうだったんだー。気がつかなかったよ」
「邪魔すると悪いと思ってたからさ。遠くで眺めてたんだ。ソレイユもね」
 黒いドラゴンが姿を現す。マシューが撫でると目を細めた。
「今日はよくがんばったな。マシュー」
「うん! これを食べたらまたチャレンジするよ! ジ―クフリードにつっかう勇者になる為に!」
「――いい子だ」
 ソレイユがぐっぐっと笑った。
(マシュー……俺は、おまえが来てとんだ災難だと思ってたよ。でも……案外そうでもなかったかもしれないな)
(ジ―クフリード……)
(さ、その赤い実を食べな。そしたら強くなれるから)
(うんっ!)
 マシューは赤い実を食べてみた。意外とグルメなマシューが食べても、結構美味しい。甘さがちょうどいいのだ。
 さぁ、また練習開始だ!
 マシューはグラムの剣の柄を握る。――剣が持ち上がったではないか!
「おお! やるではないか、マシュー」
 バッシュが称賛を送る。だが……。
「どーいーてー!」
 皆がわぁわぁ言いながらマシューの側を離れる。
 グラムの剣を操るにはまだまだ時間がかかりそうであった――。

後書き
マシュー、レベル1は可哀想だね……。

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