OVER THE TROUBLE ~ファフナ―編~ 5

「489……490……491……」
 マシューがグラムの剣を使って素振りをしている。発案はバッシュだ。
「なかなかよくがんばるのである」
「……499……500、と。あー疲れた」
 マシューは地面に倒れ込んだ。
(さぁ、今日でおまえ達が来てから一週間だぞ)
「ああ、そうだね。でも少し休ませて……」
「疲れたならユグドラシルの実を食べるのである」
 マシューはバッシュの声に従った。力が漲ってくる。
「すごいや、力が出てきて仕方がない!」
「マシューもやればできるんだね。お兄さん見直したよ☆」
 フランシスが言った。
「ジ―クフリードさんもよくつきあってくれましたよ」
(いやいや。俺なんて勝手なこと言ってるばかりでさぁ……)
「ううん、ジ―クフリードがいたからこそ……」
「あのさ、マシュー。お兄さん。ジ―クフリードの声とか聴こえないから」
「あ、そうだったね」
「じゃ、ファフナ―退治に出発だ!」
 アルフレッドの呼びかけに皆は「おー!!」と答えた。珍しく気が合った。
「しかしねぇ……ファフナ―か……聞いたことがあるな……」
 ソレイユが考え込んでいる。
 マシューはそのソレイユに乗っている(ジョーンズが乗せて行くと言い張ったが、ソレイユが不公平だと駄々をこねてそうなった)。
 ジ―クフリードはファフナ―の居場所を知っているらしく、彼らの道案内を引き受けた。
 やがて、黒い龍の姿が現われた。
 あれは――ソレイユ?
「ああ、見て見て! あれはソレイユではないのかい?」
「そんな馬鹿な――ソレイユはここにいるだろ? アル!」
 アルフレッドとアーサーがわぁわぁと騒ぎ出す。
「あれは……あの感じ、どこかで……」
『我が弟ファフニールよ……』
 ファフナ―の声と覚しき禍々しき声が言った。
「ファフニール? 誰だい? そいつは!」
『ジ―クフリードが乗っているその龍さぁ――!』
「あれが……俺の兄貴……!」
 ソレイユはショックを受けているようだった。しかし、何故ファフナ―にはマシューがジ―クフリードと同化していることがわかったのであろう。千里眼の持ち主なのだろうか。
「すまない。ジョーンズ。悪いがマシューを頼んだぞ」
「ううん。僕もファフナ―と戦うよ!」
「君が?」
「ああ。こう見えてもかなり強くなってきたような気がするんだ」
「どうする?」
「――まぁ、やらせてみるさ」
『ふっ、おまえらなど私の手下で充分蹴散らせるさ』

『ファフナ―のてしたがあらわれた
 ファフナ―のてしたがあらわれた
 ファフナ―のてしたがあらわれた』

 ファフナ―に似たモンスターが三体。
「むっ、ここは一丁俺が手柄立ててやるんだぞ!」
「あまり張り切り過ぎるのではないぞ。アル」
「わかってるって、バッシュ」

『あるふれっどがせいけんづきをした。ファフナ―のてしたに13500のダメージ!』
「よしっ」
『ふらんしすのこうげき 26000のダメージ ファフナ―のてしたをやっつけた』
「お兄さんも華麗だろ?」
「油断するといけないのである」
『ファフナ―のてしたのこうげき ふらんしすに452のダメージ』
「言ったそばからであるな」
「いてて……」
「我輩は僧侶だから回復呪文も使えるのである。それ、ベホイミ」
 バッシュが回復呪文を唱えるとフランシスの傷が塞がった。
「おー、なんだか似たようなことが前にもあったような気がするけど?」
 フランシスは片手をぶんぶん振り回す。アーサーが言った。
「次は俺の攻撃だ! ギガデイン!」

『ファフナ―のてしたをやっつけた
 ファフナ―のてしたは力をためている』
「ちっ、まだ一体残ってたか!」
「今度は僕に攻撃させてください! いきますよ!」
(マシュー、待て……!)
『マシューのこうげき ファフナ―の手下に1のダメージ』
「……あれ?」
 皆の視線が痛い。
「足を引っ張るヤツはそこで大人しくしてるのである!」
「後は俺達がやっておくんだぞ!」
「ほんとに……ここまで使えないヤツとはなぁ……」
「ごめんよー、お兄さん、さすがに今回はフォローしきれないよ」
(みんなして……)
(泣くな、マシュー。そのグラムの剣はどうせファフナ―にしか効かない)
(あっ、そうなんだー)
「ジョーンズ。マシューは預けたぜ!」
 ソレイユはマシューをジョーンズの背中に降ろした。
「わかったよ、後は任せた」
「任せたって……」
「ちょっと酔うかもしれないから吐かないように!」
 黄色やぐにゃぐにゃした物体、青に緑に黄色。その他にも綺麗だったりグロテスクだったりする景色を通って――。
 マシューはファフナーの真下に来ていた。黒龍の姿が透けて見える。
「これは……!」
「異次元を通って来たのさ。さぁ、剣を構えて」
「こう……?」
(違う違う。ああ、もう、俺がやる!)
 ジ―クフリードとマシューのシンクロ率はこの一週間で高くなっていた。
「いっくぞー!」
 叫んでからジョーンズの体が真上に伸びて行く。
(俺達もやるぞ! マシュー!)
(はい!)
 マシュー達はグラムの剣をファフナ―の腹に突き立てた。
『おおおおおおおおおおおっ!』
 ――ファフナ―はこの世のものとは思えない雄たけびをあげて――雲散霧消していった。
(やったな! マシュー)
(はい、ありがとうございます! ジ―クフリードさん!)
 ジ―クフリードの体からマシューの意識が離れた。ジ―クフリードはマシューを精悍にしたような男だった。何となく、彼に乗り移れた理由がわかった気がした。
 ――マシューはユグドラシルの根方で目を覚ました。
「マシュー、すごかったな! 見直したぞ!」
「お兄さんもだよ。こんなにおまえさんが活躍するとは思わなかったよん」
 アーサーとフランシスの褒め言葉にマシューはえへへと照れ笑いをした。
「じゃあ、帰ろうか――兄さん」
 と、ジョーンズ。
「…………」
「そっか――兄さんも複雑なんだよね。でも、兄さんには僕がついてるから。アルやマシューもね」
「我輩達はどうなるのである」
「無論、バッシュさん達も」
 ソレイユはくるりと振り返った。
「帰りは全員、乗せてってもいいか?」
「勿論!」
 そして――彼らは日常へと戻って行った。
「俺は俺の旅を続ける。……自分を創造する旅にな」
 そうしてファフニール――いや、ソレイユはいなくなった。だが彼は数々の冒険譚に登場することになる。ジョーンズは、
「兄さんのことなら心配いらないよ。相変わらず元気でやっているみたいだしさ」
 と言っていたが、どこか寂しそうであった。けれど、彼はアンニュイな気持ちの時にはマシュー達のところにお邪魔しに来る。無論、プライベートは考慮しつつ。
 マシュー達もマシュー達で相変わらず喧嘩したり仲良くしたり、いつもと同じような毎日だけど少しは絆が強まったような……。
 ファフナ―のことも気になる時がないではないが、そのうち細々とした些事に紛れ込んでしまう。
 だが、友人への手紙を書く時にはジ―クフリードやファフナ―のことを思い出す。それをしたためるのは己が彼らのことを忘れない為に。
「ねぇ、アル、マシュー! 龍退治の話聞かせて!」
 フェリシアーノは何度も同じ話を聞きたがる。アルフレッドが話し始めた。
「うん。どこまで話したっけ? 確か、俺達がヴァルハラへ向かって――あ、それより先にバッシュが絶対行くって発砲までしたんだぞ……」
 いつか、マシューはファフナ―やジ―クフリード、それからK国に関わった時の冒険話を一冊の本にまとめようと考えている。

END

後書き
ファフナ―編は思ったより短かったです。北欧神話調べてみたけどよくわからなくて捏造(苦笑)。ドラクエも参考にしました。
でも、一応終わることができて良かったです。
マシューさんの話、読んでみたいですね。
それではまたお会いしましょう。
2013.5.16

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