OVER THE TROUBLE ~ファフナ―編~ 2

「ヴァルハラへ行くということは、ジュダにも会えるのかい?」
「いや、そことは違う次元のヴァルハラだから」
 アルフレッドの質問にソレイユは答えた。
「なんだぁ、つまんない」
「つまらなくはないぞ! すごい! すごいのである! この景色は!」
「バッシュ。君は一人で勝手におのぼりさんしてるといいよ」
 アルフレッドはソレイユの背中で欠伸をした。
 結局、マシューは行きはジョーンズに、帰りはソレイユに乗ることで二匹のドラゴンに納得してもらった。
「むっ。アルは撮らないのか? 記念写真」
「記念写真だって?」
 アルフレッドは体をうずうずさせた。
「では撮るぞ。シャッターはおまえが押せ」
「嫌だ。バッシュが俺を撮るんだぞ!」
「何を言う。逆らうとこの銃が火を噴くぞ!」
「残念でした。俺の力の方が強いぞ。永久中立国なんて言ってるから、武力の方はさっぱりだね」
「何を?!」
「やるか!」
「面白い! 我輩の攻撃を受けてみろ!」
 ソレイユは――
 少し迷惑そうな表情をしている。
「あーあ、あいつら何やってんだか」
 ちゃっかりジョーンズの背の上のマシューの隣に陣取ったフランシスが呟いた。
「ソレイユもご苦労なこって」
 ソレイユは黙ったままだった。
 その時である――二人が同時に足を踏み外したのは。
「アル! バッシュ!」
 フランシスは叫んだがもう遅い。
「ジョーンズ!」
「わかってますって」
 ジョーンズ達も下降した。
 降りて行く、下へ下へ――。マシューもジョーンズの背中から滑り落ちた。
 どぼーん。
「ぷはっ」
 マシューは息を吐き出した。
「何だよ……ここは……」
 岸の近くには一本の大きな木が生えていた。
「わぁ……すごい……」
 ユグドラシル、というものだろうか。マシューは木の幹に触った。
 何となく懐かしくなって、彼は幹に手を回した。
(ジ―クフリード……)
「えっ?!」
 マシューはきょろきょろと辺りを見回す。
 誰か、喋った……?
(ジ―クフリード……)
 もしかして、この木が喋ってる……?
(そうだ)
「僕の心を読めるんですか?」
(いかにも)
「へぇ~。すごいなぁ~。でも、僕はジ―クフリードじゃありません。マシュー・ウィリアムズです。さぁてと。これから皆を探さなくては」
(仲間のことなら、心配いらない)
「え? でも……」
(お主にはやることがある)
「何ですか?」
 マシューの顔がきりっと真剣なものになった。
(グラムの剣でファフナ―を倒すのじゃ)
「え……?」
 想像上のファフナ―の顔がソレイユと重なった。
(グラムの剣はここにある。ジ―クフリード)
「でも、ジ―クフリードは双子の兄妹ジ―クムントとジ―クリンデの息子では……? 僕はその二人に会ったこともありませんよ」
(いいんじゃ。ジ―クフリード。マシュー・ウィリアムズとしての意識がおまえに入っている)
「え? 僕、ジ―クフリードの意識を乗っ取っちゃったんですか?」
(早く言えばそうなる……解放してやってくれ、ジ―クフリードを)
「わぁぁぁぁっ! ごめんなさい! ジ―クフリードさん」
(いいってことよ)
 マシューの頭の中に、低い男の声が響く。
(俺も親には会わなかった。これで同じだな)
「うん……」
 ジ―クフリードが好人物で良かった――マシューはそう思った。
「あ……」
 マシューが驚きの声を上げた。格好が違っている。彼は簡単な麻の服と足通しを身に纏っていた。
「皆のことが心配なんだけど……」
(とりあえず、ファフナ―をやっつけろ!)
「うん……わかったよ……ジ―クフリード……」
 相変わらず強く出られると断れないマシューである。
(あーあ。何だってこんなへなちょこに意識を取られたんだ、俺は……)
「え?」
 へなちょこ――それは他国から呆れるほど言われてきた言葉だった。
「マシューね……平和かもしれんがね……なんつーか、あいつは……へなちょこだろ?」
 ふと、そんな台詞を思い出した。誰が言ったんだか知らない。忘却の彼方だ。
 でも……マシューは本当にへなちょこなんだろうか。
 僕は……へなちょこなんかじゃない!
(そうだ。おまえは本当はへなちょこじゃない。俺の意識を負かしたんだからな)
「ジ―クフリード……ありがとう」
 感激で目元に涙が盛り上がった。
 英雄と呼ばれた男に認められた。それだけでも嬉しい。
 けれど、フランシスは? アルフレッドは? バッシュは?
 それに――ジョーンズとソレイユは?
「おーい」
 フランシスの声だ。
「おーい、マシュー」
「僕はここにいるよ」
 その声すらジ―クフリードの快い低めの声だった。
「マシュー?」
「そうだけど?」
「嘘だ。貴様はマシューじゃない。マシューを返せ!」
「それが……僕がジ―クフリードの意識を奪っちゃって……」
「そんな馬鹿なことがあるのかよ……」
 フランシスは頭を抱えた。――その時であった。
「フランシス!」
「アル! バッシュ!」

後書き
ちょっと『南国少年パプワくん』をパクりました。

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