OVER THE TROUBLE ~ファフナ―編~ 1 「ファフナーか……」 マシューは北欧神話の載っている本を置いた。 昨日、妙な夢を見た。 ソレイユがファフナ―になったのだ。マシューがジ―クフリードで。 リヒャルト・ワグナーの『ニーベルングの指輪』も俄か仕込みで知った。 「ああ、もう、難しいよ!」 今まで北欧神話とはほぼ無縁の生活をしていたのだ。マシューは、ぽいっと本を投げた。 「マシュー?」 アルフレッドが顔を覗き込んだ。 「あ……アル」 質問しても無駄かと思いながら、 「ねぇ、アルは、北欧神話って知ってる?」 と訊いた。 アルフレッドは堂々と、 「そんなもの知らないんだぞ!」 と、答えた。 (ああ、訊いた僕が馬鹿だった……) マシューは溜息を吐いた。 「それで? 北欧神話がどうしたんだい?」 「……言ったら笑わない?」 「笑うもんか」 アルフレッドは真顔で誓った。マシューはちょっとどきっとした。 (やだな……僕、フランシスさんがいると言うのに) それよりも、話の続きである。 「夢の中では……僕は英雄ジークフリードだった」 ぷっ。 アルフレッドが吹き出した。 「あははははは。君が英雄だなんて。あははははは」 「笑わないって言ったろ?」 「ああ、ごめんごめん。んで? そのことフランシスには話したの?」 「ううん。まだ」 「ジークフリートねぇ……ゲームでは聞いたことあるんだぞ」 どうせ、君の情報源はゲームだよ。マシューは心の中で毒づいた。 「んで? 英雄と言うからには、敵もいるんだろ」 「もちろん」 マシューは頷いた。 「どんな敵だい?」 「ソレイユが……ファフナ―になって現われた」 「で、やっつけたのかい?」 「体が勝手に動いたんだ」 自分でも弁解がましいのはわかる。 「ソレイユと戦いたくなんてなかった……」 「ソレイユねぇ……あれも結構謎な竜だよな。本当の名前もわからないし」 「だろう? 僕、ソレイユの正体を探そうと思ってるんだ。ソレイユだって、こんな宙ぶらりんの存在でいるのは嫌だと思うよ」 「どうして君にそれがわかるのさ」 「ソレイユは僕の一部なんだよ」 「その通り」 ソレイユ――黒いドラゴンが現われてぐっぐっと笑った。 「わっ! 出た!」 「驚くことはない、アル。俺も自分探しの旅に出たいと思っていたところだったんだ」 「じゃあ、僕は君を解放してあげなくちゃね」 「君も一緒に来い。マシュー」 「――そうだね」 最近、クマ二郎に構ってあげてないから拗ねてるんじゃないかとマシューは思ったが、クマ二郎の方でもマシューを忘れているので、おあいこである。 「俺も連れて行くんだぞ」 「わかってる」 ソレイユはアルフレッドに鼻面を突き付けた。信頼の証だ。 「これは、お兄さんも行くしかないようだね」 薔薇の花弁が舞う。アルフレッドが顔をしかめた。 「フランシスさん!」 「お兄さんがいれば百人力だよん」 そう言って赤い薔薇を手にウィンク。 「百人が足を引っ張るのかい?」 「はっはっは。おバカさんだなぁ、アルは」 アルフレッドが珍しく正しいことを言ったのにフランシスは一笑に付した。 「さぁ、行こう。ソレイユ」 いつの間にかアルフレッドが仕切っている。 「僕も行くよ」 ピンク色のドラゴンが顔を出した。 名前はジョーンズ。アルフレッド・ジョーンズから取った名前だ。 「ジョーンズ……ありがとう」 ソレイユが涙を流した。結構涙腺は弱いらしい。 「ちょっと待ったー」 ばんと大きな音が鳴った。銃声だとわかるまで少しかかった。 「我輩も連れて行くのである」 「バッシュ!」 そういえば―― 「K国の時の騒ぎなぁ、あれ、バッシュも参加したいみたいやったで」 と、アントー二ョが言っていた。 マシューは頭が痛くなった。これは新しい国ケベックが生まれるかもしれない、という時と同じくらい悩んだ。 「我輩は銃が使えるのである」 「いや、今回は銃は必要ないかもしれないよ」 「武装してなければ、吾輩の国は永世中立を保てないかもしれないのである」 この人に何言っても無駄だ、とマシューは諦めた。 国の命を張っている者達だ。一癖あるキャラが多い。 マシューだってそうだ。ただのいい人ではやっていけないのだ。たとえ、『おじいちゃんになってから住む国』と言われようとだ。 「じゃあ、行くんだぞ」 「仕切るなである。アル」 「仕切るなである、アル……ぷぷっ」 「駄洒落ではないのである」 バッシュはあくまで真面目だ。 「それじゃ、マシューは僕の背中に乗って」 「ちょっと待て。ジョーンズ。マシューは俺が連れて行く」 「僕はマシューの友達だ」 「俺はおまえの兄貴だぞ」 「HAHAHAHA。モテるんだぞ、マシュー」 アルフレッドは愉快そうだ。 「ああ、もう!」 「じゃんけんででも決めたらどうだい?」 この手でじゃんけんができると思うか? ――ソレイユとジョーンズが同時につっこみを入れた。 後書き 新しいお話のはじまりはじまり~。 2へ→ |