ニールの明日

第六十二話

「ヨハン、ミハエル、ネーナ……」
「はーい、お久しぶり!あー、あの時の少年じゃなーい。こんなにかっこよくなっちゃって……」
ネーナは刹那に近付こうとする。ニールは二人の間に割って入った。
ネーナ……刹那にキスしたことがある少女。ニールは、
(刹那の唇は俺が守る!)
と心に決めていた。確かに刹那は色っぽくなったのは認めるが……。
「あー!同じ顔が二つ!」
とネーナは叫んだ。ニールとライルのことだ。
「ねぇねぇ、一人あたしの恋人にならない?」
「ネーナ……少し静かにしろ」
ヨハンにたしなめられ、ネーナが、
「はーい、ヨハン兄」
と、舌を出しながら引っ込んだ。
『シャーネーナ、シャーネーナ』
と、紫色のハロ。そこで初めてニールはそのハロの存在に気がついた。
「私はマックスに頼まれてここに連れて来たんだ」
「ちょっと待て。何でトレミーの場所がわかったんだ」
俺でさえわからなかったのに……とニールは不服そうに尋ねた。
「そりゃ、ヨハンはてめぇみてぇな馬鹿とは違うからな」
「言い過ぎだぞ、ミハエル」
ヨハンの表情は相変わらず無愛想だ。
(くそっ!だからこいつらは嫌いだ!)
何となく相性が悪いのを感じて、ニールは顔つきが厳しくなっていたらしい。刹那に袖を軽く引っ張られた。
そっちを振り向くと、
『我慢しろ』
と言いたげだった。
「私達もあなた達に力を貸したい」
「ほんとか?……何か企んでるんじゃねぇのか?」
ヨハンの言葉にニールは不審げにきいた。トリニティ兄弟の悪名はちらほらと聞いたことがある。
「んだと、てめぇ……!」
「待って!ミハ兄!」
「止めるな!ネーナ!こいつら前から気に食わなかったんだ!戦争根絶なんてできるわけないことをぬかしたりするし……!」
「戦争根絶! それは私の考えでもある!」
ヨハンが叫ぶと空気がびりりと震えた。ミハエルとネーナは途端に黙り込んでしまった。
(ヨハン・トリニティ……やはりただ者ではないな)
敵に回したら一番厄介だとニールは判断した。
ここは手を組むしかないかな。
CBだって、いろいろと後ろ暗いことをして来たんだし……。
妙な沈黙が落ちた。それを何とかしようと、
「刹那……」
ニールが刹那に声をかけた時……。
「せーつなっ、これからもよろしくねっ!」
ネーナが刹那に抱き着いた。
「あーっ!!」
と、叫んだのはミハエルだ。
ニールの中でめらめらと嫉妬の炎が燃える。たとえネ―ナが刹那の好みのタイプではないと知ってはいても。
ネ―ナだって一応女性なのだから。しかも、かなりの美少女。すぐ上の兄のミハエルなんかもめろめろだ。
「ネーナ……刹那から離れろ……」
ニールが怒気を込めて地の底からのような低い声を出した。
「わっ、こっわーい。ねぇ、刹那はこのいー男とラブラブなの?」
「ラブラブ……?」
「ネーナ、離れろ。変態がうつるぞ」
ミハエルめ……言うに事欠いて変態とは何事だ……。ニールは、自分は今、大魔神もびっくりの怖い顔をしているのだろうと思った。
「やだ」
派手な色の髪の少女はあかんべえをした。
「ねぇ、刹那はあの男と付き合ってるのぉ?もったいなーい。ネーナが女の子の良さを教えてあ・げ・る」
「ネーナ!!」
ニールとミハエルが同時に叫んだ。ネーナがくすくす笑って言った。
「冗談よぉ、まあ、刹那とだったらその冗談、ほんとにしてもいいけどぉ」
俺が……。
俺が本当に恐れていたのはこの事態だったのだ。ニールは思った。
刹那が他の女性に取られることが。
ネーナの言い寄り方はまだ冗談の域を出ないし、刹那もネーナは好みではなさそうだ。
けれど、もし、刹那が女でなくても他に本気で好きになる相手ができたとしたら……。
俺はどうなるだろうか。
「おい、ちょっとおまえら……マックスの言うことも聞こうぜ。マックス。何でアロウズに愛想を尽かしたんだ?」
ライルが尋ねる。
「私は……アロウズのやり方に嫌気がさしたんだ!」
マックスは嫌悪感を現しながら頭を振った。
「私は……オートマトンの開発に携わっていました……」
「オートマトン?」
「人殺しの機械です。ただ殺すというよりもっと質が悪い……オートマトンには人を殺すという意識がない……」
マックスは涙を流し始めた。
「研究所から逃げ出そうと画策していた私達と意気投合した彼をカタロンの基地に連れて行こうとした。いろいろ調べているうちにティエリア・アーデと接触してね」
ヨハンが淀みなく語り始めた。ティエリアが続けた。
「僕は関わりたくなかったんだが…私情を挟む余地はなかったし、何よりトリニティ兄妹の強さは僕も買ってたから」
「そうか……」
ニールは頷いた。
「あたしは構わないよ。あたしはいい男の味方だから」
そう言ってネーナが刹那に接近するのを見て、ニールは内心苛立った。

2013.3.31


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