ニールの明日

第六十七話

リヒターの遊び相手になっていたりしているうちに、夜は更けていった。
「じゃあ、リヒちゃん。お兄ちゃん達にバイバイしようね」
もうおねむの時間らしいリヒターの手を取ってクリスが揺らした。
「おやすみ」
「ゆっくり眠れよ」
刹那とニールもバイバイをした。
「刹那、ニール」
ティエリアが言った。
「おう、ティエリア」
「ちょっといいか?」
「ああ」
ティエリアは微笑んだ。
「僕は……君達が無事で本当に嬉しい。特にニール・ディランディ。かつて君は宇宙の藻屑と消えたとばかり思っていた。生きていたと知った時、心底ほっとしたよ。でもゲリラ兵の一員になったと知った時は正直はらはらした」
「ああ、心配かけてごめんな。でも俺は不死身だからな」
それは満更冗談でもなかった。自分は本当に一度は死の瀬戸際まで行ったのだと思ったから。
彼を救ったのは緑色の光だった……かつての同僚、ジョー・ドナルドソンが言っていた。
「刹那は刹那でどこかへ行ってしまうし」
「すまん」
刹那はティエリアに向かって簡潔に謝った。
ティエリアが言った。
「ニール……その……ハグしてもいいだろうか」
「え?」
「してやれ」
刹那が後押しをする。
「え、でも、いいのか?」
この台詞はティエリアと刹那に対して同時に放たれたものだった。
「いいんだ。そんなことで妬いたりしない」
ほう。では刹那も俺に妬いたことがあるのか。何となく嬉しい。
「わかった。ティエリア、来い!」
ニールは腕を広げた。ティエリアが飛び込んだ。
いい匂いがする。紫色の髪が身長の高いニールの顔の下にある。
確か前にもこうやって彼に抱き着かれたことがあったよな……。
何となく愛しくなってニールはティエリアの頭を撫でた。
「よしよし」
「子供扱いするな……もういい」
ティエリアはニールから離れた。
おやおや。ツンデレは相変わらずか。ニールは苦笑した。
「ティエリアと実際にこうやって会うのも久しぶりなんだよな。端末では話してたけど。リヒティとクリスにはガキが生まれたし……刹那も大人になったし。ティエリアは……あまり変わってないな」
「悪かったな」
「ティエリアも変わったぞ」
刹那が呟く。
「ほう、どこが?」
「以前より雰囲気が柔らかくなった」
「そういえば……そうだな」
「刹那」
ティエリアは刹那ともハグをする。
以前よりティエリアが人慣れしたというなら、それはアレルヤの力に違いない。
アレルヤは魔法使いだな。全く。
「アレルヤ、絶対取り戻そうな、ティエリア」
「ああ……あいつのことだ。絶対無事だ!」
「明日、スメラギのところへ行く。……刹那と一緒に」
「……頼んだぞ」
「勿論」
「僕は僕でやることがあるから……本当は僕も一緒に行きたいのだが」
「それにしても……トリニティ達はともかく、どこまでマックスは信用できるのか……」
ニールの言葉にティエリアは答えた。
「大丈夫。あの男は信用できる」
「俺もそう思う」
刹那も同意する。
「ま、おまえ達の人を見る目を信じますか」
ニールはうーん、と伸びをした。確かにマックスは人を騙す男には見えない。
「じゃ、俺達も寝ますか」
「……ニール、おまえと刹那は同じ部屋だ」
「そこまで気を使ってくれなくたっていいんだぜ」
「気など使っていない。個室が空いていないだけだ」
でも、ティエリアが進言してくれたのだろうことは何となく察することができる。
ティエリアも……恋人のアレルヤと戯れたいだろうから。もしここにいたらの話だが。
「ありがとう、ティエリア」
「礼を言われることはしていない」
ティエリアはそっぽを向いた。何となくその様が刹那に似ているようで、ニールはくすっと笑う。
「何を笑っている!」
「いや、刹那とティエリアってどこか似ているなって」
「…………!」
「…………!」
刹那とティエリアはお互いに顔を見合わせる。
なあ、おまえもそう思うだろう?アレルヤ。
ニールはここにいない男に心の中で問いかけた。

ニールがシャワーを浴びると、先に風呂場に入っていた刹那が待っていた。
「刹那……」
ガウンを纏っていた刹那にニールが近づいた。
「ニール……んっ!」
ニールは刹那とディープキスをかわした。刹那の口内は甘い。
「……ニールっ!」
刹那はニールの胸元を叩いた。
「……どうした?」
「やっぱり……アレルヤを助けようという時に……まだアレルヤが助かっていないのにそういう気になれない……それに、ティエリアのことを考えると……」
「そうか……」
刹那の気持ちはわかる。だが……。
(どうすんだよ、これ……)
ニールの雄ははち切れんばかりになっている。
「すまない、ニール」
「謝んなって……」
ニールが踵を返した。刹那がきいた。
「どこへ行く?」
「……トイレだよ」

2013.5.30


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