ニールの明日

第六十話

ハロが耳(?)をぱたつかせてライルの方に向かう。
『ロックオン……?』
ハロはライルをじっと見つめてから言った。
『ロックオン、フタリイル!ロックオンフタリイル!』
「ハロ、ちょっと落ち着け」
ニールがたしなめようとする。
『ロックオン、ドッチ?ドッチ?』
「ああ、紹介しよう。こいつは俺の双子の弟、ライル・ディランディさ。ライル、こっちが俺の相棒……」
『ハロ、ハロ』
「……ハロだ。ちなみにハロ。眼帯している方が俺、ロックオン・ストラトスだからな」
「ふぅん。兄さんはロックオン・ストラトスって呼ばれてるんだ。かっこいいじゃん」
「どうも」
「実物より名前のイメージの方がかっこよかったりしてね」
「ライル……」
ニールは弟の頭を手刀で攻撃した。
「いってぇなぁ……」
「ふん」
「ニール、大人げないぞ」
と、刹那。
「いや、いいんだ。いつものことだから。かえって兄さんが変わってないこと知ってほっとしたよ」
「ライルは大人だな」
『ライル、オトナ、オトナ』
刹那とハロが声を揃えて言うのを聞いてニールは拗ねて向こうを向いてしまった。
(どうせ俺は子供だよ……)
「どうした?ニール」
「何でもねぇよ」
「ロックオン」
ティエリアがニールの隣に来た。
「皆にライルを紹介しなくていいのか?」
「ああ、そうだな」
ニールが頷いた時、
「リヒター、こっち来なさーい!」
元気の良いクリスティナ・シエラの声が聴こえた。そして、ニールの目の前によちよち歩きでやって来たのは、栗色の髪の大きな目をした男の子だった。
「うー、うー」
おしゃぶりを加えた幼子は何かを一心に訴えているようだ。ニールはひょいと幼児を抱き上げた。
「あ、ロックオン……え?あ?二人……?」
クリスもライルを見て戸惑ったらしかった。
「ああ、こいつ、俺の双子の弟」
ニールがいささかぞんざいに紹介する。
「初めまして。ライル・ディランディです」
ライルは丁寧に自己紹介をした。
「あ……初めまして」
クリスは真っ赤になって俯いた。
「この子はあなたのお子さんですか?」
ライルは子供の頭を撫でる。
「はい……」
「クリスー、リヒター」
リヒティと呼ばれていた男、リヒテンダール・ツェーリが二人の後を追ってきた。
「あれ?ロックオン……」
「はいはい。本当は俺達双子なんだよ」
ニールが面倒臭そうに手をひらひらさせた。
「そっか……昔は俺達の間には守秘義務があったからね。家族や故郷の話はしてはいけないというね。……ロックオンは双子だったんだ……そのものズバリって感じがするね」
リヒティは感心したように呟く。
「僕もこんなにそっくりな双子は見たことなかったからな」
ティエリアが感想を述べる。
「ところでリヒティ、この子はクリスとの息子かい?」
「ああ」
リヒティは照れながらも認める。
「リヒターって言うんだ。女の子だったらリンダ、と名付けるつもりだったんだけど」
「あなたは最初、女の子を欲しがってたのよね」
クリスがリヒティを肘で小突く。
あなた……か。クリスは夫をリヒティ、ではなくあなた、と呼んだ。しかもちっとも違和感がない。
それが夫婦になるということか。しかもこんな愛らしい子供をこしらえて。
「でも、生まれてみると男の子も可愛いもんだよ」
「でしょう。産んだ私を褒めなさい」
クリスは得意顔だ。
「そうだね……ありがとう、クリス」
「ふふふ、でも二人目は女の子がいいわねぇ」
「わかった、クリス。俺、頑張るから!」
ニールは何となく刹那の方を見る。刹那は微笑んでいた。
けれど……刹那はニールの子供を産むことはできない。
(不毛じゃないだろうか。俺達の愛は……)
ニールがそう考えていると、ティエリアが彼の心を読んだように、
「大丈夫だ。君達が愛し合っているおかげで救われている者もいる」
それは、もしかしたらティエリアのことではなかっただろうか。彼の場合、恋人のアレルヤが行方不明だというのに……。ティエリアの優しさにニールの心は温かくなったような気がした。
「ありがとう、ティエリア」
ニールから手渡された息子を抱いたリヒティ達が奥へと引っ込むと入れ違いにフェルトが現れた。
「よっ、フェルト」
ニールは何の気無しに挨拶したが、フェルトは無言でくるりと踵を返すと逃げるようにキャットウォークへ飛び乗った。
「な、なんだぁ……?」
フェルトの態度に本気で不審がっているニールに、
「兄さん……やっぱアンタ鈍いんだな」
ライルの台詞に頭の中がクエスチョンマークでいっぱいのニールであった。

2013.3.7


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