ニールの明日

第二十四話

「あっ、そうだ!」
ダシルが何事かを思いついたように手を叩いた。
「ニールさん、帰る前に長老に会って行きませんか?セツナさんも、ね?」
「そうだな……いろいろあっておまえ達の長老には会っていなかったからな」
ニールが頷いた。
そう。彼もグレンやダシルを引き取って育てたという長老を実際に見たことはなかった。
グレンやダシルにも世話になったし、挨拶していくか……。
「俺も行っていいか」
刹那の台詞に、
「構わない」
と、グレンが簡潔に答えた。
「じゃ、送って行くよ、そこまで」
「おまえも来るのか、ジョシュア」
「迷惑かい?グレン」
「いや、俺はただ……」
グレンが何かを続けて言おうとしたが、
「……まあいい」
と台詞を止めた。
「グレン様はね、ジョシュアさんの気を悪くしたんじゃないかと思ったんですよ。結構誤解されやすいタチですからね、グレン様は……」
「うるさいぞ、ダシル」
「だから……ね。わかるでしょ、俺がフォローに回る気持ちが」
「わ……わかる……」
ニールも同意した。
「でも、俺、グレン様に憧れてるから、相棒だろうが、懐刀だろうが、何だってやろうと思えるんです」
ダシルは戦闘には参加しないから、懐刀ではないだろうと思ったが、敢えて口出しはしなかった。
(本当にいいコンビだな)
心が和むのをニールは止めることができなかった。
「何にやにやしている」
面白くなさそうに刹那がきいてきた。
「いや、仲の良い二人だなぁと思って。勿論」
ニールは速やかに刹那の耳元で囁いた。
「俺達もだよ」
刹那がそっぽを向いた。心なしか赤くなっていたようなのは気のせいか。
いつだったか知り合いに『女殺しの声』と言われたのを思い出し、褒められたのだとひとりニヤスカした。
刹那はジョシュアと何か話している。いつの間にかスティルとレイも来ていた。
「スティルとレイはここにいるとさ」
ジョシュアは大声で言った。
「ついでにモレノさんも患者を診てるとさ。構わないだろう?」
「ああ」
と、刹那は答えた。ニールもそれに異存はない。
「俺達は何もしなくていいのか?」
と、グレンがきいた。
「後でいっぱい手伝ってもらうってさ」
スティルが人の悪い笑みを浮かべた。
「だから……行って来い!」
スティルがグレンに近付いて肩をどやす。
そして、高笑いをしながら天幕に帰る。
「全く……」
ニールはひょいとグレンの顔を覗く。
「痛かったか?」
「いや、そんなには……けれども、あいつは戦士向きだな。何でジョシュアなんかと言うなまっちろい男と組んでんだか……ま、なまっちろいのはおまえも同じ……あ、すまない」
「いやいや、いいんだよ」
グレンの軽口に対して、この少年は自分に心を開いてきたらしいのが嬉しいと思っていたから、謝られたくはなかった。
「謝んなよ、グレン。俺達は友達だろ?」
「友達……」
グレンの口角が上がった。そして、こそばゆさを感じたように微かに首を縦に振った。
「行こう、ニール……グレン」
刹那が呼びに来た。
「おっ、話は終わったか?」
「それから、あと、誰か道案内が必要だが……」
「はいはい!それ、俺がやります!」
ダシルが元気よく手を挙げて立候補した。
グレンに任せたら、本当に道に迷ったもんな……。いつかの失敗談が脳裏を過ぎり、ニールは思わず苦笑いをした。
「俺とダシルは馬で行く」
「俺達はジョシュアに連れて行ってもらう」
グレンと刹那が続いて言うと……。
(声も似てんだな、この二人)
とニールは感心するしかなかった。
「うわあ、セツナさんとグレン様って、すっごい声似てますね」
ダシルは感動を隠そうとしない。
「セツナさんとグレン様って、実はお互い親戚だったりしません?」
それはニールも考えていたことだった。刹那もクルジス出身だし、グレンもどうやらこの辺りの生まれらしい。
「かもな」
刹那がダシルに返事をした。
「無駄話はするな」
グレンが少し怒ったように声を飛ばした。

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