ニールの明日

第二十九話

ニール達がグレンとジョシュアを見つけたのはそれからしばらくした後だった。グレン達もほとんど同時に彼らに気付いたらしい。
「よぉ、ジョシュア」
「グレン様」
ニールとダシルがそれぞれに言った。
「話は済んだのか?ジョシュア」
刹那がきいた。
「ああ。グレンが、『ヤガに末期の祈りをありがとう』だってさ」
「そうか……しかし、グレンはその時はいなかったはずでは」
「ダシルに聞いたんだ」と、グレンは答えた。
「刹那もその時、一緒にいたんだ」
「本当か?!」
ニールが驚愕した。
「本当だ。どうしてそう驚く」
刹那は表情を動かさない。
「だって……俺はそんなこと何も聞いてなかったぞ。ゆうべだって一晩一緒にいたのに」
「おまえ達は別のことで頭がいっぱいだったんだろう?」
グレンの指摘に、ニールと刹那は頬を赤らめ、グレンから視線を逸らした。
「ジョシュアさん、あの時は本当にありがとうございます」
ダシルも礼を述べる。
「どういたしまして。ヤガも天国へ行けるといいな」
「キリスト教の天国か?」
刹那が口を挟む。
「うーん……神様は分け隔てをしないからな。死んだら多分キリスト教とか、関係ないと思うけど」
「クリスチャンとは思えない発言だな」
「まあね。だけど、宗教は死者のものじゃない。生者の為のものだ」
「あんたはリベラルなんだな」
「そう言われればそうかもしれない。俺も迷ったよ。キリスト教式の祈りで本当に良かったのかってね。でも……ヤガの安らかな顔を見た時、これで良かったんだ、と思ったよ」
そう言って、ジョシュアは柔らかく微笑んだ。
(宗教を持っている奴は強いな)
ニールは感心した。ジョシュアはますます信仰を強くしていくだろう。
俺は、そうはなれない、とニールは思う。だが、俺には……いや、俺達にはガンダムがある。
刹那はガンダムを神格化している。ニールにとってもデュナメスとハロは相棒だ。わけても、ハロには世話になった。
(どうしてるかな……ハロ)
ニールは黄色の丸い相棒に想いを馳せた。
「……おい、ニール」
刹那が呼んでいる。
「はい?何だ?刹那」
「その様子だと聞いてなかったな」
それが刹那の機嫌を損ねたらしい。
「ああ、聞いてるよ、刹那……何かな~……」
ニールは一生懸命刹那の機嫌を取ろうとする。
「今日はここに泊まらないかって、言ったんだよ」
グレンが代わりに答えた。
「刹那やジョシュアと?」
「そうだ」
グレンが頷く。
「俺は構わないが」
ニールは言った。どうせ急ぐ旅ではない。刹那と会えたのだから。
「じゃあ、決まったな」
「うんと歓待させてもらいますからね」
グレンとダシルは嬉しそうだ。
「任せるよ」
と、ニール。

その夜はリムおばさん達が鳥鍋を振る舞ってくれた。
焚火が人々の顔を照らし出す。その回りを男性と女性が見事なダンスを見せてくれる。ニール達は興奮して目一杯拍手を送った。
「ねぇ、セツナさんとニールさんは結婚するんでしょう?」
ダシルの質問に刹那は噎せた。ニールは平然と、
「そうなったらいいなと思ってる」
と、応答した。
「じゃあさ、ここで予行演習しません?」
「そういうのは予行演習するものじゃないだろう」
一気に不愉快に……或いはそう見せている刹那の肩をニールは抱いた。
「いいじゃねぇか、刹那。どうせ俺達は周知の仲みたいだぜ」
「でも……ジョシュアは許さないだろ。キリスト教では男色は禁止だって、確か聞いたことがあるからな」
「同性愛者のクリスチャンもいる」
「そいつら、全員地獄へ堕ちる、ということはないのか?」
「神は寛大な存在だ。いずれ天国へ引き上げてくださる」
ジョシュア万歳!
ニールは密かに喝采を送った。
「でも、俺はドレス着るのなんか嫌だからな」
「大丈夫。そこまでは無理強いしないだろう」
(ああ、俺はちょっと見たかったな、刹那のドレス姿……)
ニールは少し残念に思ったが、いずれ機会もあるだろう。それに、本物の結婚式の時には、嫌だと言っても着せるつもりだ。
「牧師の言葉と指輪の交換とキスをやりますよ、いいですね、ニールさん、セツナさん」
ダシルがそう言うと、皆は口笛を吹いたり、笑ったりの大合唱を始めた。
「……ったく」
刹那は不満そうであったが、結局付き合うことにしたらしい。
「何しけた顔してるんだよ、刹那。ベッドの中じゃ燃えるくせに」
ニールが刹那の顔を覗き込んだ。刹那は火が出たように真っ赤になった。焚火の赤さが反射しただけかもしれないが。

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