ニールの明日

第二百六十五話

「はい。刹那」
 ニールは牛乳をテーブルにコトンと置く。貨物船から運んできた上物だ。
「――ありがとう」
 刹那はそう言ってコップを傾ける。その様が可愛いなと思って、ニールが目を眇める。――刹那がニールの視線に気づいた。
「お前も欲しいのか?」
「うんにゃ。それはお前さんの分だ」
「……何だか悪い気がする」
「気を使うなって……」
 態度にこそ出さないが、刹那は牛乳が好きだ。牛の乳の匂いが好きなのだろう。ニールが試しに一度、どうしてミルクが好きなんだ?――と訊いたところ、
「――懐かしいからだ」
 との答えが返って来た。きっと母の匂いの記憶があるのだろう。――刹那は、アリー率いるテロ組織に加わるまでは、両親に愛されて育ったらしい。だから、心根も素直で優しいのだ。
 ――俺に、似ているな。
 ニールは思った。ニールも刹那のように家族に愛されて育った。それが、テロで全て壊されたのだけれど――。
 刹那が加害者だと疑って、憎んだ時もあった。けれど、今は、ニールには刹那が必要だ。身も心も――。
「なぁ、刹那。もっと他のミルクを飲まないか? 下の口から――」
 低いセクシーボイスで囁いてやると、刹那はぶっと牛乳を噴いた。
「あのなぁ……」
「ははっ、満更でもないってか? どうせここには俺とお前の二人しかいないよ。――な、どうだ?」
「そういうことを言うなら、相手にしてやらん」
「言わなきゃ相手にしてくれるのか?」
「う……」
 刹那、語るに落ちる。
「な、どうなんだ?」
「……これを飲んでからな」
「わお! ベッド整えておくからな!」
 刹那は、仕方ない、という風に溜息を吐いた。
「どうせアレルヤとティエリアも愛し合ってるんだ。――いや、あの二人にはベルベットがいるか。なぁに、内緒で愛し合っているんだろうさ。ベルを早く寝かせてさ――」
 必死になってベルベットを寝かせようとしているアレルヤ達を想像して、ニールはふふっ、と笑った。
「俺も、刹那のミルクが飲みたいぜ」
「――勝手にしろ」
 刹那はそっぽを向いた。だが、その頬は赤く染まっていた。
 ――刹那、愛おしくて仕様がない。
 意趣返しのつもりだろうか――刹那はゆっくりゆっくりミルクを飲む。けれど、そういった態度がニールを煽っているとは、刹那は知らないのであろうか。もし知っても、それがどうした、と肩を竦めるだけであろう。
 刹那といる全ての瞬間が愛おしい。刹那――俺は、トレミーに帰ってきて良かったよ。ニールは言葉に出さずに心で想う。
 コトン。
 ――刹那は空になったコップを置いた。彼がベッドの傍に来る。
「服、脱がしていいか?」
「……自分で脱ぐ」
「俺は刹那を脱がせたいんだ」
「…………」
 刹那は間を置いた後、承諾の頷きをした。
「やりぃ♪」
 ニールは刹那のペンダントを外す。それから深い口づけを交わし、刹那をベッドに押し倒す。舌や手で刹那の肌の感触を楽しみながらパイロットスーツを脱がせ――下着を取った。刹那からは果実めいた香りがする。
(刹那。――俺の果実)
 ニールは鼻で刹那の香りを堪能した。ニール自身も今まで身に着けていたものを取り去る。
「ニール……」
 刹那は切羽詰まった声を出した。刹那の自身が既に反応している。
「俺、まだ大したこと何もしてないのに――嫌らしい体だな。刹那」
「…………!」
「でも、そんな刹那が俺は好きだぜ!」
「!!!!」
 刹那が肩をびくっとさせた。イノベイターの能力で、刹那が悦んでいることを知って、ニールもまた、刹那を愛している、と思う。
 ニールが刹那にキスマークをつける為、さっきより強く吸う。
「やめてくれ。――痛い」
「いつもやってることなのにか?」
「今は……感じやすくなってるんだ……」
 刹那の台詞に恥じらいの響きを聞く。
「わかった。優しいキスだけにしよう。それならいいだろ? ――後……これまで通り舐めたりしてもいいか?」
 こくん、と刹那は頷いた。再び口づけを交わすと、引き続き刹那の平らな胸や引き締まった腹にキスを落とし、痛みを感じさせないように優しく吸ったり、舌で肌の味を味わう。指で胸飾りなどをこねくり回しながら愛撫する。刹那自身はわざと避けて。ニールが刹那の太ももにちゅっと音を立ててキスをした時、刹那が言った。
「ニー……ル……」
「ん?」
「……くるしい……」
「ああ、うん、悪い」
 ニールだって男だ。焦らされた刹那の苦しさはわかっている。ニールは刹那の花芯を加え込む。ニールの舌技に刹那が喘ぐ。
「あ……ああ……」
 刹那は我慢しているつもりらしいが、それでも声はもれ出る。感じているな。ニールはそんな刹那を可愛く思う。
 満足するまで抱いてやるぜ。俺の、刹那――。
 ニールは刹那の花芯を思い切り吸い上げた。
「あ、ああっ!」
 刹那はひときわ甲高い嬌声を上げながら果てた。ニールは刹那の蜜を飲み干そうとする。――刹那は言った。
「何をしている! ニール! やめろ!」
 ニールは刹那の精液をこぼすまいと夢中になっている。全てを飲んだ時、ニールは言った。
「ごちそうさん。確かに刹那のミルク、頂いたぜ」
「こんなもん、飲むもんじゃない。――そりゃ、俺だって飲んだことはあるが……」
「刹那のだけは旨いと思うぜ。俺は――だから、めいっぱい味わわせてくれよ。お前のミルクを、な。だって、それが俺の大好物なんだから――お前の体と共に」
「くっ……ニール・ディランディ。宇宙で戦うお前はかっこいいとは思う。だけど、今は――」
「もっとかっこいいってか?」
「ニール!」
「――わかってるよ。助平だって言いたいんだろ。――でも、野郎ってヤツは皆助平なもんさ。現に刹那、お前だってまた反応してるじゃねぇか。ティエリアだってアレルヤに可愛がってもらっているだろうし――」
 刹那が、パチンとニールの頬を叩いた。
「おー、俺の恋人はとんだはねっ返りだ。そこがまたいいんだけどな……」
「だったら、早く俺の望みを果たせ」
「性急だねぇ――そんなところも好きさ」
 ニールは刹那の脚を抱え上げさせ、唾液で湿らせた指を二本、露わになった蕾に入れた。刹那が喘ぐ。そして、顔を隠す。
「どうして、顔を隠すんだ? 刹那――」
「……見られたくないからだ」
 そんな恥じらいも、ニールには興奮剤にしかならない。刹那の全てが可愛い。――刹那の、全てが欲しい。ニールは、刹那と繋がる時、刹那を傷つけない為、丁寧に入り口を解す。
「あ……!」
 ニールの長い指が刹那の中の感じやすいところを擦る。
「いい声だぜ。刹那。――指でこんなになっちまうんなら、俺が入ったらどうなるかな。――なぁ、刹那、俺が欲しいか?」
 手をどけた刹那がこくこくと頷く。
「いいお返事だ。――行くぜ!」
 ニールは解し終わった刹那の蕾に己の芯を突き入れる。
「…………!」
 刹那の内壁がニールを締め付ける。ニールも快感を味わう。刹那は、何ていい体をしているのだろう。しかも、それが自分の恋人だなんて――。ニールは心の中で得意になった。
「早かったか? 刹那――」
 刹那は、今度はふるふると首を横に振る。
「そうか。俺もそろそろ限界に来たところだったんだ――でも、すぐいっちゃつまんねぇだろ? 一緒にいこうぜ。刹那……」
 刹那もニールと一緒に腰を振る。ニールは快感に酔いしれながら、「ああ、いい、いい。刹那……」と、譫言めいた呻きを口にする。刹那の敏感なポイントにキスをするのも忘れない。刹那が満足そうに笑った時だった。
 ――刹那が二度目の絶頂に達すると、その衝撃からか締め付けがきつくなり、ニールも追う様にして精を放った。

2019.01.31

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